第654話 別行動-1
最近、色々と忙しかったので、シロとクロに休暇を与えた。
俺はシャレーゼ国を放浪していた。
【魔力探知地図】を少しでも埋めるつもりだ。
小走りで進むが、人骨が何度も目に入った。
獣に襲われたのか、目的地に向かう途中で息絶えたのかは分からない。
しかし、このシャレーゼ国は年中天候が悪いのか、陽が出ている時が少ない。
これだけ日照時間が短いと、作物が育ちにくいというのも納得出来る。
魔物が少ないと言うのも本当だった。
【魔力探知地図】でも殆ど反応が無い。
しかし、安心は出来ない。
ウォンナイムが死んだ事で、魔物が増える事も考えられる。
休憩をするには丁度良い、河原を見つける。
岩に腰かけながら、川の流れを見るが、川幅はあるが水深は浅い。
川を泳ぐ魚の姿も見る事は出来なかった。
その代わり、俺を襲おうとしている熊が居る。
対岸で目が合ったが、俺を襲う気満々だ。
川を気にすることなく俺に向かって来る。
躊躇なく襲って来るという事は、今迄も人を襲った事があるのだろう。
俗に言う人食い熊なのだろう。
俺が動かない事を察知したのか、目の前まで来ると立ち上がり右手を振り下ろした。
俺はそれを止めると、熊は左手を振り下ろそうとする。
しかし、その前に俺は熊の心臓を拳で貫く。
そのまま、【解体】をして【アイテムボックス】に仕舞う。
仕舞っていると、血の匂いに釣られたのか狼の群れが現れた。
魔物が居ないという事は獣が多いのだと、気が付いた。
狼の群れは全部で、二十数匹だ。
どちらかと言えば、痩せている感じだ。
先程の熊のせいで、思うように狩猟が出来なかったのかも知れない。
一斉に襲って掛かってくる。
首の骨を折ったり、首を斬ったりと簡単にかわしながら反撃をする。
二分と掛からずに全滅させた。
俺は熊同様に【解体】をして、【アイテムボックス】に仕舞う。
これ以上、獣が寄って来ないように【浄化】を施す。
汚れてはいないが気分的に、川で手を洗ってみる。
洗いながらふと気付く。
この川の上流がどうなっているのかと。
特に急ぐ用事も無いので、川の上流を目指す事に決める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
上流へ向かっていると、すぐに小さな村を発見する。
村を訪れるつもりは無かったが、村人と目が合うと警戒されたのか、仲間を呼ばれ攻撃態勢を取られた。
ひと目で怪しい人物だと思われたようだ。
逃げると余計と都合が悪くなると思い、何もせずに仲間の村人達が到着するまで、じっとしていた。
「お前、何者だ!」
何者と聞かれて、俺は答えに困る。
冒険者に旅人等、今の俺は何になるのだろうか?
真剣に考えていると、無視していると思われたのか怒号が飛んで来る。
「冒険者兼、旅人だ」
とりあえず、答える。
「冒険者だと!」
数で勝っていると思っているのか、俺が強そうに見えないのかは分からないが、威圧的な態度だ。
まぁ、怪しい奴に対しては当然、そのような態度になるだろうとも思っている。
「別に村に寄るつもりは無いし、危害を加えるつもりも無い」
俺が言っても、信用して貰えないのか小声で話をしていた。
「もしかして、俺が盗賊か何かと思っているのか?」
村人達の反応は薄かった。
「お前は国から調査されて、俺達の村を調べに来たんだろう」
槍を突き出しながら、俺に向かって叫ぶ。
「もう、村には何も残っていない。本当だ!」
「何故、俺が都から派遣された者だと思う?」
「そんな綺麗な服を着ているからだ。お前を殺せば、何も無かった事になる」
「成程な」
確かに俺の服は、村人達の服に比べて格段に良い物だ。
これは、シャレーゼ国内で比べたとしても、かなり綺麗だ。
村人達が勘違いするのも、よく分かった。
「確かに、俺は都から来た」
「やっぱりそうか!」
「ネイラート王子の反乱に手を貸して、ウーンダイ国王を殺害して反乱が成功した」
「それは、本当か!」
「嘘じゃない。ほら、これが証拠だ。開けて読んでみろ」
俺は懐から封筒を出して、村人に投げようとした。
しかし王子いや、国王からの手紙を投げる行為もどうかと思ったので、地面に置く。
「そのまま、下がれ。変な動きをしたら攻撃するからな」
俺は指示通りに少しづつ後ろに下がる。
俺が下がると、俺を取り囲んでいる村人達も同じように移動した。
若い村人が封筒を拾うと、年配の村人に封筒を渡す。
彼が村長なのだろう。
封筒を受け取った村長は、封筒や印を見て驚いていた。
多分、本物だと分かったのだろう。
封筒を開き、手紙を読み始める。
時間にして、一分程だが長く感じた。
「皆の者、武器を下ろすのだ。この方の言われた事は本当だ。ウーンダイ国王は失脚して、ネイラート王子が新国王になられた」
村長の言葉に村人達も驚く。
しかし、歓喜の声は無い。
やはり、国王が変わっただけで自分達の生活が変わるとは思っていないのだろう。
「ネイラート国王は、減税も約束された。昔、納めていた生活の負担にならない額だ」
「本当ですか!」
「この手紙には、そう書かれている」
手紙を読んだ村長も、ネイラートの事を信じ切れていないのだろう。
それだけ、国への不信感があるという事だ。
「近いうちに都から使者が来るだろう。詳しい事は、その時に聞いてくれ」
「分かりました。知らぬとは言え無礼を働いた事、村の責任者として謝罪致します」
村長が頭を下げると、他の村人も頭を下げてくれた。
「別に気にしていない。俺は行ってもいいよな?」
「そうですね。御持て成しするにも、何もない村です。人食い熊が出没しますので、道中お気を付けて!」
「人食い熊?」
「はい。村の者も何人か襲われて、命を落としております」
「そいつなら、さっき河原で会ったぞ」
「な、なんですと! よくご無事で」
「あぁ……」
説明が面倒だったので、【アイテムボックス】から解体した熊の部位を出して、地面に広げた。
「こっ、これは……」
「さっき、河原で襲われたから倒した。これが人食い熊なのか?」
「はい。この頭部の傷は間違いありません……お一人で倒されたのですか?」
「あぁ、そうだが」
先程まで、威勢よく俺に向かっていた村人達だったが、解体された熊を無言で見ていた。
何人かの村人が生唾を飲み込んでいた。
「これ、欲しいのか?」
「譲って頂けるのであれば、有難い事です。村では食料が不足しておりますので……」
「そうか。村には子供もいるよな」
「はい、勿論です」
「分かった」
俺は、熊の後に討伐した狼の部位も【アイテムボックス】から出して、地面に並べる。
「これも、持って行っていいぞ」
「えっ!」
「欲しいんだろう?」
「そうですが、全部頂いても宜しいのですか?」
「あぁ、俺では食べきれないしな」
実際、食べるつもりはなかったし、このような状況の村に譲るつもりだった。
村人達には、先程までの非礼を再度謝罪されて、熊や狼の食材を譲った俺に感謝をしてくれていた。
村長が急ぐ用事がなければ、村を紹介したいと言ってくれる。
おもてなし等は出来ないと言っていたが、食料不足に悩んでいた村から、もてなしを受ける気はなかった。
このシャレーゼ国の生活が気になったので、寄らせて貰う事にした。
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