第652話 裁かれる者達!

「私も裁かれる立場の者なのです」


 ネイラートは話の最後を、この言葉で終えた。


「それは我等も同じ事です」


 イエスタ達も声を上げる。

 ウォンナイムはシャレーゼ国を、上手く利用していた。

 隣国であるエルドラード王国や、オーフェン帝国がシャレーゼ国に戦争を仕掛ける事は考えにくい。

 シャレーゼ国の不安を煽り、必要以上に接触を持たせずに情報を与えない様にしていたのだろう。

 

 ウォンナイムという後ろ盾を失ったシャレーゼ国が、どのように変わっていくのかは新国王のネイラート次第だ。

 まだ若いネイラートだが、一代でどこまで国を立て直せるか。

 そして、次の世代に残った問題を託す事が出来るか。

 ネイラートも長い苦難の道が待っている。


(主。捕らえられていた王妃様を解放致しますか?)


 クロが俺に問い掛けて来たので、開放する様に頼む。



「ここは……」


 解放された王妃は驚き、周りを見渡す。


「母上!」


 王妃の声にネイラートが反応する。


「ネイラート、無事でしたか!」


 ネイラートが王妃の元に駆け寄り、母子で抱き合う。

 感動の再会だったが、ネイラートは先程まで起きた事を、王妃に説明を始めた。

 俺はその間、部屋の片隅に居た国王をネイラート達の所まで移動させる。

 国王は、未だ目を覚まさない。


 説明を聞く王妃は、タッカールが既に殺されて、ウォンナイムと入れ替わっていた事実を知る。


「そうでしたか……」


 ネイラートと話をしている最中に俺と目が合い、ネイラートに協力した礼を言われる。

 俺は頭を下げた。


「エルドラード王国に協力して頂いたのですね」


 安堵の表情を浮かべる王妃だったが、ネイラートは正直に答える。

 俺はあくまでも、ネイラートが個人的に依頼した冒険者で、エルドラード王国からは、内政干渉の点からも協力して貰う事は出来なかったと……。

 ネイラートの言葉で、王妃は落胆する。

 エルドラード王国に協力して貰えれば、国を立て直す際に力強い事になる。


「しかし、エルドラード国王はシャレーゼ国が、危機に陥っている事は御存じでした。国民が迫害されている事実も含めてです……」


 隣国の情勢は逐一、確認していたのだろう。

 国としては当たり前の事だ。


「母上も居れば、国を再興する事も難しい事ではありません」


 嬉しそうに話すネイラートに対して、王妃は難しい顔をしていた。


「ネイラート、それは出来ません。私は国王様と一蓮托生なのです」

「えっ!」

「国王様を処刑しなければ、国民が納得しない筈です。国民が納得してこそ、貴方の反乱が成功したと言えるのですよ」

「しかし、母上は私と共に異議を唱えていたではありませんか」

「それは国民達は知りません。王妃である私が生きていれば、国民の不安を煽るだけです」


 王妃の言う事も一理ある。

 例え、今迄の事は国王の独断だったとしても、常に傍にいた王妃に良い感情を抱く訳が無い。

 むしろ、国王の暴走を止めなかった責任や、知っていながら無関心だったと思われても仕方が無い。

 ここでネイラートが王妃を庇えば王妃の言う通り、多くの国民は不満を抱くに違いない。

 国の事を考えての決断だ。


「うっ、うう……」


 国王のウーンダイが目を覚ます。

 ウォンナイムに操られていたので、ウォンナイムが死んだ事で、正常な思考に戻っているかと思ったが、暴君のままだった。


「王子の分際で、国王に逆らうとは何事だ!」

「……国王様いや、父上。貴方は今を持って国王を退いてもらいます」

「何を言っている。おい、イエスタに騎士達よ、余の縄を解け」


 ウーンダイの怒鳴り声が響く。

 しかし、ウーンダイの命令に従う者は居なかった。


「国王様。貴方の時代は終わりました。私と一緒に裁きを受けましょう」


 優しく王妃がウーンダイに語り掛ける。


「何を馬鹿な事を! タッカールはどうした。それに私にはウォンナイムが居る。お前達等、一瞬で殺してやる」

「タッカールはウォンナイムに殺されました。そのウォンナイムも、そこに居る冒険者タクト殿により討伐済みです」

「な、なんだと!」

「この部屋の惨状を見て貰えれば、嘘で無い事も分かります」


 ウーンダイは冷静に部屋を見渡す。

 自分の置かれた状況が理解出来たのか、頭を垂れて何も喋らなかった。


 王妃はネイラートに両手を出して、縛るように頼む。

 自分だけ捕獲されていないのでは、辻褄が合わないからだろう。

 じっと、王妃の手を見つめたまま、ネイラートは考え込んでいた。


「イエスタ。頼めますか?」


 ネイラートでは無理だと思ったのか、王妃はイエスタに頼む。


「いえ、私がやります。タクト殿、縄を頂けますか」

「あぁ」


 絞るように声を出したネイラートは、王妃の両手両足を無言のまま縛った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る