第647話 墓穴!

「兄上がエルドラード王国まで行ったのは、その冒険者に反乱を手助けして貰う為でしたか」

「違う。タクト殿は偶然、出会っただけだ」

「白々しい。三国会議でもエルドラード国王の護衛をしていた者ですよ。偶然等である筈が無いでしょう」

「本当だ!」

「もしかしたら、エルドラード王国が加担しているのですか?」

「違う! エルドラード王国は関係無い。個人的にタクト殿に依頼をしただけだ」

「どうだか。かつて、戦争で領土を広げた国ですよ。兄上も騙されているのでは無いですか?」


 タッカールがネイラートを馬鹿にした口調で話す。


「おい! そこの馬鹿王子」


 俺は挑発的な言葉でタッカールに話し掛ける。


「馬鹿王子とは失礼な。これだから、獣人と一緒に暮らす国の者達は……」

「俺が何故、三国会議に居たと知っている」

「何を馬鹿な事を。あの場に居て、貴方を見たからに決まっているでしょう。そうですよね、国王」


 タッカールの問い掛けに、ウーンダイは考え込んでいた。


「俺はある事件で【呪詛】を施されて、俺が存在していた事を消された。それも人族限定でな」


 俺が三国会議に同行したと知っている者は、人族では誰も居ない筈だ。

 知っていたとしても、記憶を改ざんされている筈だ。

 それを知っている者は、魔族しかいない。


「俺を知っているという事はお前、魔族だな」

「何を言って……」


 俺はタッカールが言い終わる前に【火球】で攻撃をする。

 人族では避けられる速さでは無い。

 俺の攻撃はタッカールに直撃する。


「くそっ! 折角、計画も順調にいっていたのに」


 衣服が破けたタッカールは、凄い形相で俺を睨んでいた。


「タッカール。どういう事だ!」


 ウーンダイはタッカールに話し掛ける。


「面倒な芝居もここまでか。もう少しで、この男の洗脳も完ぺきだったのに」

「タッカールよ! 何を言っておる」

「五月蠅い! もう面倒だ。この場に居る奴を殺してやる!」


 タッカールは腕を振って、ウーンダイを攻撃する。

 ウーンダイは飛ばされ壁に激突する。


「本性を現したか!」

「お前等如きに不本意だが仕方あるまい」


 タッカールの体が徐々に変化していく。


「我はプルガリス様の配下ウォンナイム。お前の首を持って行けば、プルガリス様もお喜びになるだろう」


 俺と大きく変わらない体格だが、腕は四本あり背中には大きな羽根が四枚。

 目は複眼になっている。

 人型昆虫と言った感じだ。


 タッカールが魔物に変化した事で、王国側の騎士達は武器を放り出して、逃げるように扉へ走って行った。

 俺が掛けた鍵を必死で外そうとしていたが突然、動きが止まった。

 体が切り刻まれて、血が飛び出し崩れ落ちた。

 俺はウォンナイムから目を離していなかったが、視界から消えると扉の前に立っていた。

 俺が目で追えない速さで移動をしたのか、転移魔法の類を使ったのかは分からない。

 シロとクロに、ネイラート達の護衛を頼む。

 ネイラート達には、シロとクロから離れないように伝える。


「あとは、貴方達を殺して、そこのネイラートが国王を殺した事にすれば、この国は私の物になる」


 勝利を確信したかのような余裕の口ぶりだ。


「そう簡単にいくと思っているのか?」

「勿論」


 言い終わると姿を消し、俺の背後から攻撃をしてきた。

 間一髪で避けるが、またしてもウォンナイムを見失う。


(まただ……それ程、早く移動出来るのか?)


 昆虫が、目にも止まらぬ速さで移動する事は知らない。

 この世界の昆虫型魔物とも幾つか戦ってきたが、見失う事は無かった。

 戦っている相手のウォンナイムが、昆虫の類になるのか分からないが……。


 ウォンナイムを捉えられない俺は一方的に攻撃を受ける。

 最初に見た四本の腕は、気が付くと鎌の形になっていたり、先端を尖らせた針のように変化していた。


「手ごたえが無いですね。それでも、第一柱魔王と第二柱魔王を倒した人族最強と言われる第四柱魔王ですか」


 ウォンナイムの口から、俺が第四柱魔王だという言葉が出る。

 丁度、視線の先にネイラート達が居るので、表情を確認する事が出来る。

 驚いていたが、当然の反応だろう。

 魔族相手に戦うという事は、こういう事も想定しないといけないのだと、考えを改めさせられた。


「その割には、俺に致命傷を与えられていないようだが?」

「強気な発言ですね。まぁ、いいでしょう。彼等も十分に育ったようですからね」

「……彼等?」


 複眼なので、ウォンナイムが何処を見ているかが分からなかった。


「うわぁぁ!」


 ネイラートの仲間の騎士達が叫び、扉の方を指差している。

 咄嗟に、その方向を見るとウォンナイムに殺された死体から、拳大の蟲が肉片から這い出て来ていた。

 詳しく見ようとしたが、ウォンナイムが攻撃して来た事で、視線をウォンナイムに戻す。


「彼等は死肉が大好きでね。まぁ、彼等は死肉にしては新鮮過ぎましたがね」


 新鮮な死肉……不快な言葉だった。

 それよりも、切り刻んで殺したのは、あの蟲達を育てる為だったのか?


(御主人様!)

(どうした、シロ)

(何故、敵と反対方向を向いているのですか?)

(いや、ウォンナイムは目の前にいるぞ……そういう事か!)


 俺はシロの言葉で気が付く。

 方法は分からないが、俺に気が付かれないように、催眠のようなものを掛けていたようだ。

 しかも、催眠効果の対象者は俺のみ。

 シロにクロ、ネイラート達は俺の戦いに違和感を感じていただろう。

 常に、ウォンナイムに背を向けていたのだから。


(シロ、助かったよ)

(そうですか)


 シロに礼を言いながら、どう対策するかを考える。

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