第646話 宣戦布告!

 ネイラート達を連れて、城壁に【転移】する。

 俺は注目するように【光球】で照らす。

 少しずつ大きくしていくが、思ったよりも眩しかった。

 いきなり現れた光に、都に居た人々は光を気にする。

 ネイラートの指示で、俺は【光球】に結界を掛け、風景を戻す。


「私はシャレーゼ国第一王子のネイラートだ。国民を虐げる父であり国王のウーンダイに対して宣戦布告をする!」


 城壁に姿を現したネイラートは国民に向かい、大きな声で話す。

 その後も、自分の思いを一方的に話す。

 俺は、その演説を聞いていて、国民が賛同して一緒に行動してくれた場合、その国民達はネイラートが反乱に失敗した時、処刑されるのでは無いかと感じた。

 そう言った事を、何処まで考えて話しているのだろうか?

 そんな思いで、俺はネイラートの言葉に耳を傾けている者達を見るが、希望に満ちた目でネイラートを見ている感じでは無かった。

 既に諦めてしまって、ネイラートに希望の光を見いだせない様子だった。

 ネイラートが王子という事も関係しているのかも知れない。

 国王のウーンダイが第三王子であるタッカールを次期国王にしようとしているのは、国民達は知っていた。

 ネイラートは、自分が次期国王になれないから反乱を起こす。

 偉そうなことを言っても、結局は自分の思い通りにいかなかったからだと、思われているのだろう。

 例え、ネイラートの反乱が成功したとしても、自分達の生活が変わらないと思っている国民達に、ネイラートの声が心に響く事は無いだろう。


 騒ぎに気が付いた騎士達が、ネイラート達を捕まえようと集まってくる。

 集まっていた国民達も、騎士達の姿を見て隠れてしまう。


「もういいか?」

「はい……」


 ネイラートは自分の思いを全て話せなかったようだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺達は、城の謁見の間の扉前に移動した。

 クロも呼び戻して、シロと王妃の救出を頼む。

 王妃を救出する事で、ネイラートが気にせずにウーンダイとタッカールの戦いに、専念出来る。

 俺達に気が付いた騎士達は、向かって来る。

 それより先に扉を開けて、謁見の間に入る。

 そして、部屋の内側から扉を開けられないように鍵をする。


 しかし、部屋の中には誰も居ない。


「出て来ては、どうですか!」


 ネイラートは大声で叫ぶ。


「威勢がいいな」


 国王のウーンダイが、第三王子であるタッカールと姿を現した。

 同時に数十人の騎士達に俺達は囲まれる。


「どうして、此処に居ると分かった?」

「戦闘に有利な場所は此処以外にありません。貴方なら必ず、此処を選ぶと確信してました」

「……成程。息子に我の考えを読まれたのか。我も老いたという事かの」


 ウーンダイは余裕があるのか笑いながら、ネイラートと会話をしていた。


「これ以上、この国が腐敗していくのは我慢なりません。国王を退いて貰えますか」

「何を馬鹿な事を」


 ネイラートは父親であるウーンダイの良心に問い掛けたのだろう。

 しかし、ウーンダイはネイラートの言葉を一蹴する。


「国王である我に逆らうという事が、どういう事か分かっているだろうな」

「勿論です!」

「そうか……おい」


 ウーンダイは近くに居た騎士に命じて包みを持って来させた。


「反逆者の末路だ」


 騎士は包みを解いて包みごと、俺達に向かって放り投げた。

 地面に二つの首が転がる。

 偶然なのか、転がった首は仲良く並んでいた。


「こ、これは……」


 ネイラートは首を見ると、イエスタの方を向く。

 イエスタの部下の騎士達も、俺達と敵対関係にある騎士達も皆、イエスタの方を向いていた。

 イエスタは転がった首を見つめたままだった。


「良い土産だろう! 妻と娘に再会出来たのだから、礼ぐらいは言って欲しいな」


 首はイエスタの妻と娘だと判明する。

 イエスタは、タッカールの言葉等聞こえないかのように、首から目を離す事は無かった。

 あの夜、イエスタが人目を忍んで泣いていたのは、妻と娘の死を確信したからだと、この瞬間に気が付いた。


「イエスタ夫人と娘さんは、関係無いではありませんか!」


 ネイラートは叫ぶ。


「何を言っている。我に反逆する者の家族だぞ。同罪に決まっておろう」

「その通りです」


 さも当たり前かのように、ウーンダイとタッカールは話す。

 この言葉で、ウーンダイの騎士達は自分の家族の事が頭を過ぎったに違いない。

 裏切れば家族は殺される。


「それと、これらもそうだ」


 続けて、複数の首が転がるとイエスタの部下達が発狂する。

 彼等の家族なのだろう。

 ネイラートの顔は真っ青だった。

 ウーンダイ達が、反乱に協力した者達の家族に手を下す事等考えていなかったのだろう。


「イエスタ。家族の仇を取るぞ!」


 俺はイエスタに話し掛ける。


「……勿論だ!」


 そう答えるイエスタはウーンダイとタッカールを睨みつけていた。

 視線を外すことなく、ネイラートに話し始めた。


「ネイラート様。妻と娘も覚悟はしておりました。部下の家族もそうですが、必ず仇を取って下さい」


 気丈に振舞うイエスタだった。


「分かりました」


 ネイラートの顔付きが変わった。

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