第645話 希望!

 上空からシャレーゼ国の様子を見ていたが、田畑がある個所は少なく、森等も無く荒れた土地が殆どだった。

 村と言えそうな所も少ない。

 人口自体が少なく、殆どの者は都で生活をしているのだろうか?

 俺は疑問を感じながら、都に向かい移動する。


「あれが、シャレーゼ国の都です」


 前方には古城のような建物と、崩れたまま放置してある城壁が見える。

 俺は城壁の近くで地上に下りる。

 城壁の周りにも、明らかに具合の悪そうな者達が倒れていた。

 彼等を横目で見ながら、都に入る。

 潰れかけた商店街のようだった。

 人の往来は無く、路上に座り込んでいる者が何人か居た。

 彼等も健康そうには見えない。

 全体的に覇気が無いのだ。


 既に国としては末期状態だと、俺は感じた。

 進んでいくと、城への入口を発見する。

 門を守る騎士は直立不動で、周囲を見渡していた。

 明らかに、街の人々とで体調が違っている。

 彼等は普段から栄養のある物を食べているのだろう。

 と言っても、エルドラード王国の騎士に比べれば痩せている。


 城の中央にある広場に、男性の石像が建っていた。

 ローブの様な物を羽織り、右手を前に出し顔は少し上を向いている。


「ガルプ様ですね」


 シロが石造の男性がガルプだと教えてくれる。

 面識があるのかと質問をすると、石造の下の方に『我らが救いの神・ガルプ神』と彫ってあると教えてくれた。

 この姿が本当かどうか分からないが、なんとなくガルプなんだと納得する。


 そのまま進んで行くと、一部の通路に騎士が見張っていた。

 この奥が国王ウーンダイ達が居る場所なのだろう。


 出来るだけウーンダイの近くまで、ネイラート達を【転移】させる必要があるので、俺は進む事にする。

 長い廊下の左右には絵画や花等は飾られておらず、殺風景な感じだ。

 幾つか扉があるが、閉められているので素通りして先に進む。


 廊下は突き当り、左右に分かれていた。

 俺が悩んでいると、シロが「別々に行動しましょう」と言ってくれたので、俺が右へ、シロには左の調査を頼む。


 少し進むと、騎士達が又、立っていた。

 しかも、厳重な警備をしているのか六人居る

 その奥には下へと続く階段がある。

 多分、牢があるのだろう。

 ネイラートが脱走した事で、警備も強化されたのだろう。

 王妃に会っていこうかとも考えたが、先にウーンダイの場所を突き止める必要がある。

 シロに「そっちに向かう」と伝えると、俺の所まで戻って来てくれた。

 こちらと反対側は突き当り、左右に分かれていたそうで、シロは左の道を進むが使われていないのか、天井等には蜘蛛の巣があったりと掃除をした形跡がなかったそうだ。

 そう言われればと思いながら、俺も周りを見ると同じように掃除をされた感じではない。

 とても国を象徴する場所には見えない。

 やはり、人員を削減した影響なのだろうか……。

 言われてみれば、使用人らしき者達の姿も見えない。

 すれ違う人が居ないのだ。

 国王であるウーンダイは、自分が良ければ国が滅んでも良いと思っているのだろうか?

 それは、順調にいけば次期国王のタッカールも、疑問を抱いていないのだろうか?

 考えながら移動をすると、エルドラード王国が最初の国で良かったと、俺は心底思った。


 シロに案内で、突き当りを右に進む。

 途中に幾つかの扉があり、その前では騎士が立っている。

 此処で間違い無いだろう。

 もう少し進み、豪華な扉の前に立つ。

 此処が謁見の間だろう。

 城内部については、ネイラート達の方が詳しいので、俺は話をして【転移】で移動する場所を決める事にする。

 もしかしたら、先に王妃を救出するかも知れない。

 作戦については、ネイラートやイエスタに従うつもりでいる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ネイラートの所に戻り、城内部の説明をして【転移】する場所を決める。

 俺がこの数十分で都まで行き戻って来た事に驚いていた。


「タクト殿から見て、我が国はどう映りましたか?」

「そうだな。悪いが最悪だと思う」

「そうでしょうね……」


 俺の答えを聞くと、悲痛な顔を浮かべていた。

 ネイラートも俺の答えが分かっていたうえで、質問をしたのだろう。


「城壁の上で御願い出来ますか?」

「城壁の上?」

「はい。城壁の上から、父上達に宣戦布告して、国民に反乱する事を示します」


 宣戦布告自体は否定しない。

 しかし、その行為をした事で守りを固められたり、人質の王妃に危険が及ぶ可能性もある。

 俺は、その事をネイラートに聞く。


「タクト殿の言われる事は、もっともだと思います。しかし、私利私欲の為に反乱を起こしたと思われる事よりも、国民を思い立ち上がった事が伝わればと……」

「それは、自分が死んで反乱が失敗したとしても、国民達に反乱するという選択肢を残すという事か?」

「はい」


 ネイラートの考えを聞いて、その考えもあると感じた。

 国民の意識が変わらなければ、国王が誰になったとしても大きな変化は望めないだろう。

 今、シャレーゼ国の国民に必要なのは希望だ。

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