第644話 思い出される言葉!

「結論から言えば、俺が勝手にシャレーゼ国で反乱に手を貸しても問題無いという事だな」

「そういう事だ。傭兵の依頼だと考えれば分かりやすいだろう」

「確かにな」

「それで、他に何人必要と言われた?」

「何人?」

「あぁ、タクトがネイラート様に頼まれて、人を集めに来たんだろう」

「いいや、俺だけだ。他の冒険者を集めてくれとは言われていない」


 俺の言葉に、ジラールの表情が強張る。


「お前とあの騎士達だけで、シャレーゼ国を相手にすると言う事か?」

「そうだな。俺を含めても七人だな」

「七人だと! 冗談だろう」

「残念だが、本気のようだぞ」

「当然、断るんだよな?」

「受けるつもりだ」


 ジラールは額に手をやり、俯き大きく息を吐いた。


「死ぬ気か?」

「いいや。例え、ここで冒険者を補充しても、大きくは変わらないだろう?」

「確かにそうだが……」


 反乱に手を貸す冒険者等は、殆ど居ない。

 仮に集まっても数人程度だろう。

 ジラールは仮に、何人と言われようが断る言葉を準備していた筈だ。

 俺も断ると思い話を進めていたようだ。

 だが、断る言葉よりも先に、俺の身を心配してくれる言葉を口にしていた。


「タクトは貴重なランクSSSだ。もしもって事があれば、冒険者ギルドにとっても大きな損失だ」

「安心しろ。必ず生きて戻って来る」

「約束出来るか?」

「勿論だ。帰ってきたら、美味い酒でも呑ませてくれ」

「分かった。約束しよう。それと今回の事は、国王様に報告をするぞ」

「構わないぞ」

「そうか……気を付けてな」

「あぁ」


 俺と別れる時のジラールは、心配そうな表情をしていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 


 ネイラート達の所に戻ると、不安な表情で俺を見ていた。 


「先に報酬を言ってもいいか?」

「何でしょうか?」

「全部で三つだ」


 俺は報酬をネイラートに伝える。


 一つ目は、貧困で生活に困っている者が無くなるような国を作る事。

 一部の者だけが私腹を肥やして、毎日必死に生きている物をないがしろにしない事。


 二つ目は、他国や他種族との交流も少しずつ増やして欲しい事。

 それにより、シャレーゼ国に利益をもたらす筈だ。

 しかし、人間族以外は奴隷扱いになっている為、全ての種族を平等に扱う事。


 三つ目は、ガルプを神として崇めず、エリーヌという神を崇めて欲しい事。

 当然、無理強いはしない。


「一つ目は当たり前の事ですね。二つ目については、シャレーゼ国も変革の時が来たと考えるべきなのかも知れません。三つ目は私個人的に崇めている神という事でも宜しいでしょうか?」

「あぁ、別にそれで構わない。エリーヌと言う神が居て、人々の心の支えに少しでもなればと思っている」

「分かりました。その条件で御願い致します」


 ネイラートは俺に頭を下げた。

 それを見ていたイエスタ達も、慌てて頭を下げた。


 昔に起きた人体実験や今回の事等、残虐な行為を行っているのは、人族と言うよりも人間族が殆どだ。

 この世界で、一番残酷なのは人間族なのかも知れないだという考えが、頭を過ぎった。


「そのエリーヌ様と言われる神は、さぞかし素晴らしい神なのですね」

「どうして、そう思う」

「タクト殿が信仰しているからです」

「……」


 相変わらずエリーヌが褒められると、何故か嫌な気持ちになる。

 堕落した生活をしている神等と、本当の事を言ったら誰も信仰しなくなるから仕方が無い。

 エリーヌを神として布教させる事が、俺の本来の目的なのだから……。


 ネイラートと今後について、話をする。

 このまま歩いて進み、自分達と接触した者達が、イスノミ村の者達と同様の事が起きる事を危惧しているのか、俺に都まで転移魔法で連れて行って欲しいと頼まれる。

 俺もネイラートの言いたい事は理解出来る。

 しかし、俺には都の位置が正確には分からない。

 訪れた事が無いので当然だ。


「御主人様であれば、三十分程で着きます」

「そうか……」


 シロが俺に教えてくれる。

 一度、都に行けば【転移】で移動する事が出来る。


「シロは都の場所を知っているのか?」

「はい」

「そうか。シロに案内して貰うか」

「分かりました」


 シロが獣型の姿に戻り、俺の左腕に飛び乗る。


「タクト殿。ここから、都まで三十分で行けるのですか?」

「そうらしいな」

「そんな事は無理です。私達でも数週間かけて、ここまで辿り着いたのです」

「まぁ、それを可能にするのが俺だ。もう少しだけ待っていてくれ」


 俺は話し終えると【隠密】で気配を消して、【飛行】で移動する。



「……御主人様。悩まれておられますか?」

「やっぱり、シロには分かるか」

「はい」


 俺のせいで、殺されたイスノミ村の村人達。

 多分、ガルプツーがユキノの命を奪った時の事を思い出す。

 俺が転移扉を発明した為、城が攻撃された。

 そして、俺の大事な人になった事で、ユキノが命を落とした。

 そう、「全ては俺のせい」。

 この言葉が、頭から離れなかった。

 それはイスノミ村の件より前から、感じていた事だった。

 過去を振り返っても仕方が無い。

 未来を見て進むしかない。

 他人には、そう言って励ますだろう。

 しかし、いざ自分の事になると……。


「私もクロさんも、御主人様に会えて幸せですよ」


 シロが励ましてくれる。


「そうか。ありがとうな」


 右手でシロの頭を撫でながら、礼を言う。

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