第643話 不関与!
ネイラートの所に戻った俺は、イスノミ村の事を話す。
目に見え怒りを表したのはイエスタだった。
ネイラートは自分のせいで、関係の無いイスノミ村の者達が殺された事に「申し訳ない」と俯きながら呟いた。
そして「これ以上、関係の無い者達を巻き込む事は出来ない」と先程よりも大きな声で呟く。
「タクト殿!」
ネイラートは俺の目を見て、名前を呼んだ。
覚悟を決めた目とは、こういう目の事を言うのだろう。
「必ず報酬は御支払い致します。無理な要求かと思いますが、私に協力して頂けませんか!」
「それはシャレーゼ国の反乱に手を貸せという事か?」
「そうです」
言葉を濁す訳でも無く、即答する。
「少し考えさせてくれ」
「……はい」
協力する事には賛成だ。
非情な行いが日常茶飯事なのであれば、ネイラートに協力してシャレーゼ国を救いたい気持ちはある。
しかし、エルドラード王国の冒険者である俺が協力する事に疑問を持ってしまった。
先程、怒りに身を任せて攻撃をしてしまった事が、俺が俺でない気がした。
そもそも、怒りで我を忘れそうになるような事は、そうそう無い。
このエクシズと言う世界に来なければ、一生そのような感情を抱く事は無かっただろう。
顔を隠すのは、あくまでも身元がバレないようにする為であり、悪事や殺人を犯す為に手に入れた物では無い。
俺の勝手な判断でエルドラード王国に危害が及ぶ事は、当然だが避けたい。
今、相談できる相手は冒険者ギルドのグラマスであるジラールだけだ。
とりあえず、連絡をしてみる。
「どうした?」
「ちょっと、相談があってな」
「シャレーゼ国の事だろう」
「あぁ、そうだ」
ジラールは俺がネイラート達を送っている事を知っているので、このタイミングで連絡があれば、それ絡みの事になる。
「お前から、連絡が来るのを待っていた」
「どういう事だ?」
「詳しく話はしたいが、今から来る事は出来るか?」
「勿論だ」
ジラールとの【交信】を切り、ネイラート達には一旦、洞窟を出て外で待機して貰う事にする。
ネイラートも俺一人の判断では決められない事を悟っていたのか、何も言わずに頷いてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「便利な魔法だな」
俺が【転移】を使って、あっという間に到着した事を羨ましそうに話す。
「俺の連絡を待っていたと言うのは?」
「それは今から説明する」
ジラールはルーカスとの話を始めた。
ネイラートがルーカスに渡したシャレーゼ国王妃の手紙には、第三王子のタッカールが、自分の子供であるタッカールで無く別人になっている可能性が書かれていたそうだ。
容姿はタッカールだが、行動から考え方等は全く違う。
第二王子が無くなった直後だったという事もあり、国王であるウーンダイは、タッカールが成長したと思い喜ぶ。
次第に、ウーンダイはタッカールと過ごす時間が多くなり、国民に色々な負担を負わせる政策を強行する。
国民の事を思い、ウーンダイに意見を述べるネイラートを、ウーンダイは段々と疎ましく思うようになる。
タッカールが仕入れたという薬を飲み始めてから、ウーンダイの様子も変わって来たので、王妃は飲むのを止めるようにウーンダイに頼むが、ウーンダイから「王子であるタッカールが信じられないのか!」と怒鳴られる。
それから王妃は、昔にタッカールと交わした言葉を話してみるが、今のタッカールには通じなかった。
ここ数年は城内でも、使用人が行方不明になる事件が多発しているのもタッカールが絡んでいるのではないかと、ウーンダイに話すが聞く耳を持ってもらえなかった。
それどころか、王妃とネイラートは反逆罪で投獄された。
手紙は何かあった時に渡せるようにと、王妃が隠し持っていたそうだ。
話を聞いて、三国会議にネイラートが参加しなかった理由が分かった。
「王妃の願いは、ネイラートに協力してシャレーゼ国王とタッカールを倒して欲しいそうだ」
「王妃が夫であるシャレーゼ国王を殺せと?」
「……そういう事だ」
国の為とは言え、国王である夫の殺人依頼は予想外だった。
それ程まで、緊迫した状況なのだろうか?
「本題は、ここからだ」
ルーカスは国として力を貸す事は出来ない。
幸いにも、エルドラード王国にはシャレーゼ国には無い『冒険者』という制度がある。
冒険者は自分の意思で行動出来るし、全てが自己責任になる。
冒険者ギルドによって、強そうな冒険者を雇う事はエルドラード王国とは関係ない。
他国の者が個人的に契約するのであれば、冒険者ギルドとしても止める権利はない。
あくまでも、エルドラード王国内での依頼についての仲介をしているだけだからだ。
ルーカスは、遠回しに冒険者を雇えと言いたかったのだろう。
ジラールもルーカスの言葉の意味を理解していた。
しかし、ネイラート達が冒険者ギルドに寄る事は無かった。
冒険者には報酬が必要だと言う事。
そして、国を相手にすると言う事を知った冒険者が、ネイラートの依頼を受けてくれる可能性が低いと思っていたのだろう。
実際、ジラールも同じ事を思っていた。
ギルマスとはいえ、事情を知っているとはいえ、無理に依頼を押し付ける事は出来ない。
ネイラートが俺に依頼をするのは、五分五分だったとジラールは言う。
ただし、自己責任だという事と、ネイラートと俺との個人的な依頼になるので、冒険者ギルド及び、エルドラード王国は関与しない事を再度、口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます