第634話 未練!
ルーカス達は俺の言っている事を信じてくれた。
又、俺が危険な人物で無い事も理解して貰えたようだ。
自分達が忘れてしまった記憶。
何が原因かも分からないし、知る術もない。
しかし、現実的に俺がその影響を受けている事が、歯痒いようにも見えた。
俺が人族の敵では無い事。
覚えていない事で、気に病むことは無いという事。
再度、ルーカス達に伝えてみたが、ルーカスとアスランは顔色が悪かった。
俺なりに気を使って話してはいたのだが……。
「もう一度、質問をしても良いか?」
「あぁ」
「お主は、護衛衆や余の側におった者だったと考えてよいのか?」
「いいや。護衛衆でも暗部でもない」
「そうか……いち冒険者だったと言う事か。しかし、暗部の存在までも知っているのだな」
「あぁ、それは色々あったからな」
「暗部と敵対していたという事では無いな」
「勿論だ。国王達と敵対関係になった事は無い」
ルーカスは王国所属の者であれば、自分達の為に自分を犠牲にした俺に対して、何かしらの褒美等を与えようとしていたのだろう。
当然、俺は断るが……。
その後も、ルーカスは俺から情報を引き出そうとして。色々と質問をしてくる。
俺が何があっても絶対に喋らない事が分かったのか、諦めてくれた。
しかし、それもルーカスの優しさなのだろうと、俺は感じていた。
ルーカス達との話が終わると、部屋から出て行く。
入れ替わりにイースが入ってきた。
一時は、「義母さん」と呼ばせて貰った人だ。
ユキノの事は言えないので、以前に世話になった事や、最後に挨拶が出来なかった事等を伝えると、黙って頷いてくれていた。
四葉商会の事も伝えたかったが、マリー達に俺の記憶が無いので余計な事になると思い、口にはしなかった。
次にヤヨイとだが、元義兄になるはずだった者として、余計なお世話だが騎士団長ソディックとの恋仲の事が気になったので、遠まわしに頑張るように告げると恥ずかしそうにしていた。
正直、イースやヤヨイとは話をする事が無かったが、ユキノだけと話をすると勘ぐられる可能性があったので敢えて、王族全員と話をする事にした。
言葉は悪いが、イースとヤヨイはユキノと話をする為だけに利用させて貰った。
そして、本命のユキノと話をする番だ。
俺の知っている笑顔で、部屋に入って来る。
「タクト殿。私達の為に本当に申し訳御座いません」
ユキノに、最初に俺への謝罪を口にした。
俺は謝罪よりも、俺の事を「タクト殿」と呼んだ事に戸惑う。
その呼び方で、言われたのは初めてだ。
最初の頃は、そう呼ぶように何度も言ったが、ルーカス達の頼みもあり結局、「タクト様」と、冥界で最後に呼ばれるまで、呼び名が変わる事は無かった。
ユキノに、「タクト殿」と呼ばれる事で、俺との繋がりは完全に無かった事になったのだと実感する。
「……その髪飾り、似合っているな」
「有難う御座います。この髪飾りは、とても気に入っているのです」
「そうか」
その髪飾りを手に入れた経緯も聞きたかったが、聞けずにいた。
俺が不自然な質問をすれば、カルアに疑われてルーカスに報告される事も分かっていたので、他の者同様に以前の礼等を言いながら、他愛も無い話をしていた。
ユキノも社交辞令だと思うが、俺の事を聞いてきたので、冒険者だと言う事やシロとクロ等を紹介した。
やはり、俺が思っていたよりも俺自身、ユキノに未練がある事を自覚する。
「これも、お気に入りなんです」
ユキノは収納袋を嬉しそうに見せて、袋の中から色々な物を出し入れして説明してくれる。
俺は、ユキノの説明を頷きながら聞く。
頷きながら、「この何でもない時間が続けばいいのに」と心の中で何度も思った。
これが直接会えるのが最後だと思うと、悲しみが俺を襲う。
他の者よりも時間が長いと思いながら、断腸の思いで話を終える。
「忙しいのに悪かったな」
「いえ、お気になさらずに」
笑顔のまま、言葉を返してくれる。
「それと、カルア」
「はい……」
「部屋は綺麗にしておけよ」
「なっ、何を!」
片付けられない女性のカルアに向い、秘密を口にする。
ユキノは何の事か分からずに、カルアの方を向く。
カルアへの口止めではないが、秘密を知っている事を伝えてみた。
動揺するカルアが心配なのか、ユキノが声を掛けていた。
一時でも楽しい夢を見せてくれたのだと、自分に言い聞かせながらユキノを見ていた。
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