第635話 頼まれ事の条件!

 動揺したカルアを介抱するかのように、ユキノはカルアに付き添って部屋から出て行った。

 俺的には、これで良いと思っている。

 ユキノの元気な姿を見られただけで、満足だ。

 俺でなくても、好きな男性と結婚をして幸せに暮らしてくれれば、それで良いと思っている。

 今回の事があって、もう一度会えるという事は無いかも知れないと、頭の片隅に置いておく必要があった。

 それは今回のような事もあるし、事故等で会えなくなる事もある。


 全員と話が終わったので、部屋に一人きりになる。

 このまま、帰ってよいのか悩んでいると、ジラールとへレンが部屋に入ってきた。


「もう帰っていいのか?」

「そうだな。俺からも一つ聞いていいか?」

「あぁ」

「タクトは自分より強い人族と会った事はあるか?」


 遠い昔に人族だと言っていた龍人族のアルは今、魔族だ。


「いいや、俺より強い人族とは会った事がない」

「そうか。タクトが最強という事に間違いないか……」


 ルーカスに何か言われたのだろうか、深く息をして俺の返した言葉に納得していた。


「いずれ、タクトに指名クエストがあると思う。その時は、グラマスとしても受注して欲しい」

「まぁ、内容によるが前向きに検討する」

「分かった」


 以前は、指名クエストもあったが、殆どがボランティアのようなものだった。

 正確に言えば、指名クエストの報酬も全て貰っていない。

 今となっては、どうでもよい事だ。


「指名クエストではないが、グラマスとして頼みがある」

「なんだ?」

「その……騎士団や王宮にいる冒険者と闘って貰えないか?」

「理由は?」


 俺のステータスを見たターセルから、俺の情報は聞いているはずだ。

 ましてや、ランクSSSで無職無双と言う二つ名も広まっている。

 俺の闘いたいという事は、俺のステータスを信用していない者か、稽古をつけて欲しい者かのどちらかになる。


「その……手合わせを頼みたいそうだ」

「誰がだ?」


 俺の返した言葉に、ジラールはセルテートと、コスカだそうだ。

 この二人は間違いなく前者で、俺のステータスを信用していないのだろう。


「分かった。俺からも条件を出していいか?」


 俺は、セルテートはロキサーヌと、コスカは弟子の二人との一対二なら受けて立つと伝える。

 セルテートとコスカは、馬鹿にされたと烈火の如く怒りまくる事は想像出来た。

 しかし、俺の強さを見たいのであれば、それ位の方がいいだろうと判断した。

 体技に特化したセルテートに、魔法も使うロキサーニ。

 魔法のみでの戦闘を得意とするコスカ。

 それに、コスカの弟子であるライラの成長も見てみたかった。

 ライラは俺の事など覚えてはいないだろうが……。


 ジラールは誰かと連絡を取っていた。

 話し振りからして、セルテートだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ここで闘うのも、久しぶりだ。

 セルテートを相手にするのは二度目だが、セルテートは覚えていないだろう。

 護衛衆になっても、すぐに冷静さを失う性格は変わっていない。

 反対にロキサーニは冷静に俺の事を見ていた。


 勝敗は気絶するか、敗北を認めるかのどちらかになると、審判役のステラが話す。


「セルテートが倒されたからと言って、俺を攻撃するなよ」

「……何を言っているのですか?」


 ステラは呆れた顔で俺を見るが、前回の戦いではセルテートを倒された事で我を忘れて攻撃をした事がある。

 当然、その記憶も改ざんされているのだろうが……。


 周りには戦いを一目見ようと、騎士や王宮に居た冒険者達が集まっていた。

 次の戦いを控えているコスカとライラの姿もある。

 コスカは凄い形相で俺を睨んでいた……。

 俺にとっては、その表情さえも面白かった。


「本当に無職なのか?」

「あぁ、そうだ。遠慮せずに攻撃してきてくれ」


 俺の態度が気に入らなかったのか、俺を睨みつける。

 セルテートとロキサーニが、どのような連携で攻撃をしてくるのか楽しみだった。

 にやついた表情をしていた俺を見たセルテート。

 闘争本能に更に火を付けてしまったようだ。


 ロキサーニがセルテートに何か話しかけていた。

 熱くなったセルテートを冷静に戻そうとしているのだろう。

 セルテートも、ロキサーニの言葉を素直に聞き入れたのか、先程とは雰囲気が変わった。

 さすが元三獣士のリーダーだったロキサーニだと、感心する。


 俺はステラに、観客席に被害が出ないような細工が施されているかを聞く。

 カルアが【結界】を張るそうだが、まだ到着していないのでカルア待ちだと教えてくれた。

 俺がカルアの事を「片づけが出来ない女性」だと秘密を暴露した事が、余程ショックだったようだ。

 仕方が無いので、カルアが【結界】を張るまで、準備運動の動作でもして時間を潰す事にした。

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