第633話  犠牲と真実!

 部屋に残ったルーカスとイースにアスラン。

 その他にターセルと、カルア。

 俺一人だけ、違う所に居るので疎外感がある。

 関係者以外を退室させたルーカスも、なにも話さないでいる。

 誰かを待っているのか、どう話を切り出して良いのか迷っているのかが分からない。

 部屋の扉を叩く音がして、扉が開く。

 ユキノとヤヨイが部屋に入って来た。

 俺が【蘇生】を行ってから、初めてユキノを目にする。

 元気そうで何よりだった。

 俺は、その姿を見れただけでも満足だった。


 ルーカスは王族が揃うのを待っていたようだ。

 カルアが俺の前に、嘘発見器を置いた。

 俺の証言の真偽を確かめたいのだろう。


「タクトよ。待たせたの、本題に入ろう」


 俺は言われる前に、嘘発見器に手を置いて、ルーカスの目を見る。


「お主が人族の記憶から消えたと言うのは、本当か?」

「本当だ」

「その前は、余達とも交流はあったのか?」

「あぁ、あった」

「記憶が消えたのは、余を含む王族が原因なのか?」

「……そうだ。しかし、俺が勝手にやった事だ。国王達に非は無い」


 ルーカスの質問に答えるが、嘘では無い事を嘘発見器が証明していた。


「そうか……覚えていないとは言え、我等のせいで、お主が犠牲になったのは間違いないのだな」

「犠牲じゃない。俺の判断で勝手にした事だ」

「その原因を教えてはくれぬか?」

「悪いが話すつもりは無い。それは、これからも同じ事だ」


 ユキノ達を生き返らせた事だけは、絶対に知られてはいけない。

 たとえ、俺が非難されるとしてもだ。


「お主の意思が固い事は分かった……」


 ルーカス達の目には、俺が可哀想に映っているのかも知れない。

 自分達が覚えていないのだから、余計と複雑な気持ちなのだろう。


(そういえば……)


 俺は思い出したように懐に手をやり、【アイテムボックス】から以前にルーカスから貰った『王家の紋章』を取り出して、ルーカス達に見せる。


「これは以前、俺が国王から貰った物だ。今は状況が違うので返却するつもりでいた」


 俺が王家の紋章を見せた事に、皆が驚く。

 同時に、王族に信用されていた存在だったという事が証明された。

 カルアに王家の紋章を渡して、ターセルが鑑定する。

 当然、本物だ。


 鑑定し終えたターセルから、紋章を受け取ったルーカスは悲痛な面持ちだった。

 これを渡した事さえも覚えていない事や、自分達の為に犠牲になった俺の事を考えているのだろう。


「タクトよ。国王として改めて、礼を言う」


 ルーカスが立ち上がり、俺に礼を言うと他の者達は俺に向かって頭を下げた。


「俺のような冒険者に頭を下げる必要はない」


 当たり前の事だが、王族が冒険者に頭を下げる事等、滅多にない、


(あれは!)


 頭を下げた際に、ユキノの髪止めに気が付く。

 俺が以前に贈った物だ。

 入っていた時は、反対側だったので気が付かなかった。


「お主から何か要望があるか?」


 俺は個別で話をしたいと伝える。

 ルーカスとアスランそれに、ターセルとカルアの四人。

 イースとカルアの二人。

 ヤヨイとカルアの二人。

 そして、ユキノ。

 ただ、ユキノだけだと護衛が居ないので、カルアと二人にする。

 大事な話もあれば、これが最後かも知れないので言っておきたい事等もあった。


 ルーカスは俺の要望を受け入れてくれた。

 部屋はこのまま使用する。

 関係無い者達は隣の部屋で待機して貰う。



 最初はルーカス達だ。


「まず、記憶が無くなる前でも、ここに居る五人しか知らなかった事だ」


 俺の言葉を四人は真剣に聞く。


「記憶の整合性を取りたい。俺の言う言葉で思い出す言葉を言ってくれ」


 四人共、顔を見合わせて頷く。


「初代国王フレッド・エルドラード、隠し部屋、日記、ガルプ神と六人の魔王」


 四人は驚く。

 俺の言った言葉で思い出す言葉は『転生者』もしくは、『転移者』だ。

 四人の記憶では、俺がその場に居ない事になっている筈だ。


「お主は転生者か?」

「いいや、俺は転移者だ。確か、近くに異常な強さを持っている者には、注意しろとも書かれていたよな」

「その通りだ。しかし、その日記は既に、この世から消し去った筈だ」

「あぁ、カルアが魔法で日記を燃やしたからな」


 日記の最後を伝えると、俺がその場に居たのだと半信半疑ながらも納得していた。


「俺が教えたところで、どうなる話でも無いが、国王達には転移者という事は知っておいて貰った方が良いと思った」

「本当に、余達にはお主の記憶が無いのだな……」


 改めて、俺の記憶が欠損している事を自覚していた。

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