第615話 選択肢!

 俺は枯槁ここうの大地に向かう。


 しかし以前に、フローレンスが枯槁の大地より先に、世界樹の庭園の管理者であるフォーレスに会った方が良いと言っていた事を思い出す。

 世界樹の庭園は、場所は不明だ。

 近くに行けば分かるとしか、教えて貰っていない。

 取り敢えず、枯槁の大地に到着してから考えてみる事にする。


 枯槁の大地は、シャレーゼ国内になる為、エルドラード王国と繋がっている洞窟から、シャレーゼ国に入国する事にする。


 洞窟内にも何匹かの魔獣達が居たが、俺が殺気を放つと皆、逃げて行く。

 魔族は俺の事を覚えている。

 知能の低い魔族は、俺が魔王だという事も分かっていないはずだ。


 洞窟の先に光が見える。

 シャレーゼ国へ入国という事になる。

 洞窟を抜けた先の光景に、俺は驚く。


 木々は枯れ果て、道だったであろう場所の近くには、人や獣の白骨が転がっている。

 長年、使用されていない洞窟だからなのかは分からないが、エルドラード王国側の洞窟入口とは、全く違う風景だった。


 俺は足を進める。

 暫くすると、何者かに囲まれている。

 腕に抱えているシロや、肩に乗っているクロも当然、気付いているが無視するように言ってある。

 俺が進むにつれて、人数は多くなっている。

 シャレーゼ国は、人間族を唯一の人族と認めている国だ。

 そう考えると、俺を襲おうとしている者達は国に仕えている人間族か、シャレーゼ国で行き場を失った獣人族なのだろうと推測する。


「こそこそと隠れていないで、出てきたらどうだ」


 俺は大声で叫ぶ。

 木の影から、ゾロゾロと武器を持った者が姿を現す。

 ……人間族だ。

 武器と言っても、棍棒のような木を削った者や、枝の先に尖った石を付けた槍のような物だ。

 しかも、その武器を持っている者達の半数以上は、痩せ細った子供達だった。


「そっ、その、猫と鳥を渡せ! それと、食糧や金目の物も置いていけ!」


 怯えながら、俺を脅している。

 明らかに栄養不足だ。

 まともな食事にありつけていないのだろう。


「悪いが仲間を差し出すつもりも無いし、金目の物や食糧も持っていない」


 俺はシロを肩に乗せて、服の中を見せる。


「仕方ない……。やれ!」


 男の言葉で、俺を取り囲んでいた者達が一斉に、俺に襲いかかって来た。

 俺が言えた事では無いが、仲間同士の連携も取れておらず、個々の戦闘力も低い。

 当然だが、俺は簡単に避け続ける。

 そのうち、同士討ちや体力切れなのか、一人二人と、動かなくなる。


「お前等は、盗賊か?」


 俺に攻撃の指示を出していた、リーダーらしき男に問いかける。

 しかし、男は無言のまま俺を睨んでいる。

 敵としてしか俺を見ていないので、話が通じない。

 出来れば戦わずに済ませたいのだが……。


「質問を変えよう。俺はエルドラード王国より、シャレーゼ国に来たばかりだ。出来れば見逃してくれないか?」


 男は、表情を変えずに俺を睨んだまま、槍を構えている。

 食料目当てであれば、見逃してくれる筈は無いと思っているが……。


(御主人様。あそこの子供達は毒に侵されています)


 シロが倒れている子供達の様子を教えてくれた。

 子供達の顔色を見ると明らかに苦しそうだ。

 昨日今日、毒に侵されたわけでないようだ。

 意図的に子供達だけに、毒を盛った可能性は低い。


「おい、あの子達に何を食べさせた。毒に侵されているぞ!」


 俺は子供達を指差し、叫ぶ。

 リーダーらしき男は驚き、子供達の方を見る。

 隙が出来たので、攻撃する事も可能だが……。


 男を含めて、大人達は子供の元に駆け寄って声を掛けている。


 俺は何もせずに、その様子を見ていた。

 どうやら、空腹に耐えきれず毒のある植物の実を食べてしまったようだ。


「くそっ!」


 悔しそうに叫ぶ大人達。

 小さな子供達に毒のある植物を食べさせてしまった事なのか、そこまで追い詰められていても何も出来なかった自分達への後悔なのかは分からない。


「どいていろ!」


 俺は大人達を押しのけて、子供達に【神の癒し】で子供達の体内から毒を除去して、HPとMPを回復させる。


「これで大丈夫だ。他には居ないか?」


 俺は驚く者達に確認するが、誰も口を開かない。

 しかし、表情を見ていると明らかに同じ症状の子供がいる可能性が高い。

 俺を、その場所まで連れて行くのに、抵抗があるのだろう。

 素性も知れぬ者を、自分達の拠点に入れる事になるのだから当たり前だ。

 子供の命と拠点に住む者達の安全を天秤に掛けている。


「これを持って行け」


 俺は見つからないように【アイテムボックス】から、エリクサーを取り出す。


「一人一本だ。五本で足りるか?」


 俺が差し出したエリクサーも怪しんでいる。

 とりあえず、俺はエリクサーをもう一本取り出して飲み干す。


「毒消しや、体力回復の効果がある。俺は、ここから動かない。だから、早く持って行ってやってくれ」

「……あと、三本だ」


 俺を疑いながらも、この選択しか残されていないと思ったリーダーらしき男が、追加の本数を口にする。


「ほら、三本だ」


 追加でエリクサーを出す、俺はその場に座り込む。

 動かないという事を、彼等に示す為だ。

 俺の知っている私利私欲の為に強奪を繰り返す盗賊とは違い、生活の為に仕方なく盗賊をしているのだろう。

 人の物を盗むという事では、罪の大小はあるにしろ同じ盗賊な事には違いない。

 リーダーらしき男は、数人に指示を出している。

 エリクサーは自分が届けるつもりのようだ。

 俺は走って行く男達の後姿を見ながら、シャレーゼ国の情勢が思わしくない事を感じていた。

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