第609話 似た境遇!

 ゾリアスが「客人という事で、現状の村を見てはどうか?」と提案があった。

 俺の素性を知って、ゾリアスなりに気を使ってくれたのだろう。

 ドワーフ族のトブレ等には、今後の四葉商会との関係の事も含めて話をするつもりだったので、丁度良かった。

 俺はゾリアス達と一緒に村を見て回る事にする。


 人族は見慣れぬ俺が居る事を、遠くから見ていた。

 この間まで親しげに話してくれていた者達が、今迄とは違う目で俺を見ている。


「タクト!」


 俺の名を呼びながら走ってくる者が居る。

 ローズルだ。

 闇落ちした為、半魔人であるのか俺の事を覚えていた。

 ローズルが俺の事を覚えていたのであれば、俺は言わなくてはいけない事がある。


「一体、何が起こったんだ。お前の事を覚えている奴が殆ど居ない」

「そうだな。ローズルには、詳しく話す必要がある」


 俺はそう言うと、ローズルと二人っきりにして貰う様、ゾリアス達に頼む。


「分かった。話し終わったら、声を掛けてくれ」


 ゾリアス達は、俺とローズルから離れて、目の届く場所で待っていてくれる。


「ローズルには、謝らなければならないな」

「何をだ?」


 俺はユキノを守れずに、死なせてしまった事。

 そして、ユキノを蘇生させた代償として、人族の記憶から個人的な関係は全て抹消された事を告げる。

 ローズルは黙って俺の話を聞いてくれていた。


「勿論、ユキノも例外でなく俺との事は忘れている。だから、婚約も破棄だ。ローズルと約束したユキノを幸せにする事が出来なくなった。……悪いな」

「謝る必要は無い。ユキノ様を守れなかった事は、タクトだけの責任では無い。その場に居なかった俺自身にも腹が立っている。何より、タクトの方が辛い事は理解している」

「ユキノを守れなかったのは事実だ。俺で無くて、もっときちんとした奴と結婚した方が、ユキノも幸せなのかも知れないしな」

「そんな事……」


 ローズルは慰めの言葉を言おうとしたが、俺の顔を見ると話すのを止めた。


「まぁ、そういう訳だ。この村でも俺の事で混乱が生じている事は、ゾリアスから聞いた。俺が原因で村が揉めるのは、俺も嫌だしな」


 人々の記憶からは、死んだ事になっているローズル。

 人々の記憶から抹消された俺。

 状況は違えど、似たような境遇のローズルには、俺の気持ちが理解出来るのだろう。

 ローズルは、俺への言葉が見つからないのか無言のままだった。


「まぁ、この村の事や、国王達の事を頼むな」

「あぁ、分かった」


 そう答えるローズルだったが、覇気は無かった。

 俺はゾリアス達にローズルと話し終わった事を伝える為に、ローズルと別れる。


「タクト!」


 ローズルと話し終わるのを待っていたのか、トブレが声を掛けて来た。


「よっ、トブレ」


 俺は普通に返事をする。

 トブレも状況が把握出来ないようで、俺に説明を求めて来た。

 俺はゾリアスに説明した内容で、トブレにも話す。


「タクトには随分と驚かされたが、これは予想以上だな……」

「それは俺も同じだ。マリーが来たら、適当に話を合わせておいてくれ」

「分かったが、商品は俺から渡して良いのか? なんなら、タクトからでも問題は無いだろう」

「今の俺はマリーいや、四葉商会に対して信用が全くない。俺と取引するよりトブレと取引していた方が、マリーの負担も減るだろう」

「相変わらず、他人には優しいの」


 トブレは笑って、俺の案を受け入れてくれた。


「ゾリアス達を呼んで来るから、タクトは待っていろ」

「悪いな」


 ローズルやトブレと話していると、人族が俺の事を忘れた事を夢では無いかと思ってしまう。

 しかし、離れて俺を見ている者達を見ると、それが夢で無い事を実感する。


「改めて、人族のみが記憶を消されたんだと認識した」


 ゾリアスは俺がローズルや、トブレと話をしている姿を見ていた感想を言う。

 俺の事を忘れてしまった自分が申し訳無いと思っているのか、そんな表情を浮かべていた。

 そんなゾリアスの顔を見た俺は、逆に申し訳ないと気持ちになる。


 村を回ると、コボルト達が嬉しそうに寄って来てくれる。

 俺に見せていない、生まれた子供達を紹介してくれる。

 子供達は始めて見る俺に警戒を見せていたが、人見知りのようなもので防衛本能がそうさせているのだと思いながら、コボルトの子供達と接していた。

 子供達に俺が「命の恩人」やら「凄い人間族」と言っていたが、俺に対してそう思ってくれるのは、魔族しかいない。

 この子供達が大きくなるまで、今の俺に何が出来るのだろうと考えていた。

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