8章

第608話 記憶操作!

 分かっていた事だが、アルとネロから連絡がくる。

 用件はゴンド村の者達が、俺の事を覚えていないという事だ。

 魔人や半魔人等は、俺を覚えている為、村の中で混乱が起きているそうだ。

 とりあえず、アルとネロに、村長のゾリアスと、ゾリアスの補佐をしている半魔人のナタリーの五人で会う事になった。

 場所はゴンド村の俺の家だった所だ。



「タクト、遅いのじゃ!」

「そうか?」


 アルとネロはいつも通りだ。

 ゾリアスは、俺を警戒しているのがよく分かる。


「初めて……と言った方がいいのか?」


 ゾリアスに笑いながら問い掛ける。

 しかしゾリアスも、どうして良いか分からないようだ。


 俺はユキノ達の事は話さずに、ある事件の代償として人族の記憶から抹消された事を伝える。

 どうやら、俺と契約している為、シロとクロも同じように記憶から抹消されている。


「未だに信じられんな。それが本当なら、俺もタクトと面識があるという事になる。しかし、村の中でも記憶が異なっているのも事実だ……」

「タクトはタクトじゃ。この村に住む予定だしの」

「アル。悪いが村の人々は、俺の事を覚えていない。どんな奴かも分からない者が現れて、いきなり住んだとしても、混乱や不満が生まれるだけだ」

「……お主は、この村に住まんのか?」

「正確には住めなくなった……だな」


 アルとネロは不満そうだ。

 俺と暮らす事を楽しみにしていた分、反動も大きのだろう。


「たまに遊んでやるから我慢しろ」

「……仕方ないの」


 二人の頭を撫でる。


「……タクトは冒険者なのか?」

「あぁ、そうだ」


 俺は冒険者ギルドカードを、ゾリアスに見せる。


「ランクSSSだと!」

「一応、そうだ」

「という事は、無職無双のタクトと言うのは、お前の事か!」


 ……無職無双って言葉を何故、ゾリアスが知っている?

 オーカスが記憶操作する際に、そこら辺の情報も誤って操作したのだろうか?


「世間的には、そう呼ばれているらしい……」

「って事は、エターナルキャットやパーガトリークロウを従えているよな」

「あぁ、そうだ。シロ、クロ」


 俺はシロとクロを呼ぶ。

 驚くゾリアスだが、以前にも同じような事があったなと思い出す。

 俺との記憶が無くなるという事は、同じ事をもう一度繰り返すという事になるのだろう。


「シロ。ゾリアスに握手でもしてやってくれ」

「はい、御主人様」


 猫系獣人の中には、シロを聖獣と崇めている者が居る。

 ゾリアスもその一人だった。

 照れながら緊張しているゾリアスが、とても新鮮に感じた。


「そういえば、プルガリスに会ったぞ」

「そうか。それで、強かったのか?」

「……なんで、戦った事を前提で話をするんだ?」

「今迄の話の流れであれば、そうなるじゃろう」

「まあ、そうだな。倒したが、倒していない」

「ん? どういう事じゃ」


 俺はアルにプルガリスの正体が、ガルプスリーである事。

 そして俺が簡単に殺したが、生きている事を話す。


「成程の。妾達等とは異なる不死のスキルかも知れんな」


 アルは、いつになく真剣な顔をしていた。


「影の世界に逃げ込んでいるという事が……厄介じゃな」

「確かにな」


 俺はそう答えながらも、クロのスキルを習得すれば対策は可能では無いかと、考えていた。

 以前から、シロやクロからスキルについては、俺の身を案じて何も話さないようにしている。

 俺が強引に聞けば、教えてくれるかもしれないが、お互い納得した上での方が良いに決まっている。

 俺にとっては仲間であり、家族だからだ。


「話を戻してもいいか?」


 ゾリアスは、シロとの触れ合いが終わったようだ。


「あぁ、他に質問はあるか? 俺で答えられる事なら、答えるぞ」


 もう一度、一から信頼関係を築かなくてはならない。

 俺だけが一方的に、昔から知っている友人等になるので、非常に面倒と言うか厄介だ。

 しかも、俺の情報がどのように記憶操作されたかも分からないので、最初の内は慎重に進めないと、今以上に失礼な奴だと思われてしまう。

 エリーヌを神として布教する上で、今回の件が障害にならなければとも思う。


「話の内容的にも、タクトがこの村に貢献して来た事は間違いない。今の状況からして、我々人族がタクトの事を忘れてしまっている事で今後、問題になる事はあるか?」

「そうだな。別に俺が居なくても大きな問題は無いと思う。アルとネロが暴れたりしなければだけどな」

「失礼じゃぞ。妾は、むやみに暴れたりせぬ」

「わたしもなの~」


 俺は疑いながらも話しを続ける。


「国王が、ゴンド村に対してどう考えるかが、俺的には気になる」


 今迄であれば、俺が前面に立って色々としてきたが、これからはそういう訳にはいかない。

 何かの拍子で世間に広まれば、良くも悪くも注目されるし、村に訪れる者達も増えるだろう。

 人族と魔族の共存は、簡単にはいかない。

 良く思っていない者達からの攻撃も予想される。

 間違いなく、アルとネロに反撃されて終わりだが、魔族への不信感はより大きくなるだろう。

 一番大きな問題だ。


「それは国王様も、慎重になっておられる。すぐに決断は出来ないのだろう」


 分かっていたが結局は、ルーカスに任せるしかない。


「それでタクトは、これからどうするのじゃ?」

「そうだな。少し旅でもしようかと思っている」

「……そんなの【転移】を使えば、何処でも行けるじゃろう」

「自分の足で、ゆっくりとこの世界を見ようと思っている」

「面倒じゃの」

「確かに面倒だな」


 俺はアルへ言葉を返しながら、傷心旅行になるのだろうと思っていた。

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