第582話 子供達の英雄?

 ヘレフォードとの連絡を終えた俺は再び、マリーに連絡をする。


「手土産と言うか、祝いの品はいるそうだ」

「やっぱりね。それで、お祝いの品は決めたの?」

「いいや、ヘレフォードからは新技術の紹介を兼ねた試作品や、珍しい食材等を言われたぞ」

「新技術と言えば、洗濯機よね」


 マリーは余程、洗濯機が気に入っているのか嬉しそうに話していた。


「丁度、良かったのだけど洗濯を商売する事などで、タクトに相談もあったのよね」

「なんだ。マリーが決めたのでなら、それでいいぞ」

「あのね。私はタクトと違って、決定事項を伝えるんじゃなくて、相談するのよ」


 俺は良かれと思って言った事だったが、マリーは若干不機嫌になっていた。

 相談事とは、スラム街跡地に洗濯機場を造りたいそうだ。

 受付は孤児院の子供達に御願いをして、大人達と一緒に仕事をすれば負担も少ないし、孤児院に賃金を払う事で、支援に頼らずとも孤児院を維持出来る仕組みにしたい事。

 防犯の面で言えば元冒険者のシュカや、ルリが居る。

 四葉商会からは、赤ん坊が居るラウムに働いて貰うそうだ。


「流石はマリーだな」


 小さい頃から通貨の計算が出来る為、大人になっても優秀な人材になる。

 それにラウムの赤ん坊の事も考えている。

 誰かと一緒に居れば目を離さないので、事故が起きにくい環境になる。


「しかし、ラウムが居なくなるとブライダル・リーフは、人手不足にならないか?」

「それは大丈夫よ。今のブライダル・リーフは、フラン達の撮影と、小物の販売だけで予約等は無いので、その場で撮影しているから手間も少なくなっているわ」

「……経営が苦しい訳では無いよな」

「代表の言葉とは思えないわね」


 マリーが笑いながら話す。


「利益はかなりあるわよ。と言うか、順調過ぎて怖いわ。私の鞄に、どれだけの金貨が入っていると思っているのよ」


 マリーの鞄は店の金庫にもなっている。


「それに求人を出していないけど、雇って欲しいと来店する人もいるのよね」

「まぁ、四葉商会は従業員に優しいからな」

「えぇ、休みがきちんと有って、業績も順調だし賃金も多分多く貰っていると思うわ。あっ、孤児院の方も大変そうだから、相談に乗ってあげてね」

「問題でもあったのか?」

「私もフランから聞いただけなので詳しくは知らないけど、四葉孤児院の方にも孤児院を出て行った子や、シュカさんが経営していた店の子達が来ているそうよ」


 多分、仕事に行き詰った事か、夜の世界ならではの悩み事なのだろう。


「分かった。後で連絡しておく」

「そうね。御願いよ。それと、お祝いの品は任せるから」

「分かった。決まったら連絡する」


 マリーとの連絡を切る。

 しかし、こんなに長々と話すのであれば、直接会って話した方が良かったのでは無いかと思った。

 四葉孤児院も話が長くなりそうな気がしたので、直接四葉孤児院に行く事に決めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 いつものように四葉孤児院を外から見ていた。

 タルイで醜い奴ばかり見てきたので、元気に駆け回る子供達を見ると、心が癒される。

 子供達が俺に気が付くと、駆け寄って来てくれる。

 柵越しに話をしていたが、面倒なので【魔法反射(二倍)】を外して、入口から孤児院に入る。

 子供の世話をしていたシュカが走って来た。


「よぉ、元気か」

「お陰様でね。洗濯機とかいう機械は、とても助かっているわ。ありがとうね」

「そうか、それは良かった」


 俺はシュカの話し方が、以前から気になっていた。


「マリーから聞いたが、俺に相談事があるらしいな」

「そうね。お父さんを呼んで来るわ。院長室にはルリが居るから、先に行ってて貰える?」

「分かった」


 俺はシュカの言う通り、院長室に向かう。

 歩いている途中でも、子供達は気さくに声を掛けてくれるし、俺の後ろを着いてくる。


「着いて来ても何も無いぞ」


 俺がそう言っても、笑いながら着いてくる。

 以前、来た時に綿菓子を食べさせたので、今回も食べられると思っているのだろう。

 今、材料の粗目を持っていないので、子供達に期待をさせてはいけないので「綿菓子は無い」と話す。

 しかし、子供達はその後も俺の後ろを着いてくる。

 院長室に到着すると、ルリが掃除をしていた。

 ルリに声を掛けると驚いていたが、椅子に座るよう案内してくれた。

 子供達は俺の近くにいる。


「俺の近くに居ても、菓子等は無いぞ」


 もう一度、子供達に話す。


「違うんですよ」


 ルリが笑いながら、飲み物を運んで来た。


「タクトさんの話を聞いて、憧れているんですよ」

「どういう事だ?」


 どうやら、子供達は俺の噂を街で聞いていたらしく、冒険者として最短でランクSSSまで昇級した事や、ロード討伐のパーティーだった事。

 そして、この街で発生した暴漢を退治した事等……。

 ルリは俺が子供達の英雄だと教えてくれた。


「なにより、タクトさんがこの孤児院の為に色々としてくれた事も、かなり影響してますしね」


 俺の知らない所で変人扱いされていたり、変な二つ名が広まっていたりしたのに、今度は英雄扱い。

 俺のような奴に憧れなくても、もっと立派な大人が沢山いるだろうに……困ったものだ。

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