第583話 お悩み相談!

 ルリが子供達に大事な話があるので、部屋から出るように言うと、大人しく部屋から出て行った。

 ルリの言う事を素直に聞いていたのには、感心する。


 暫くすると、院長のサジとシュカが部屋に入って来た。


「邪魔してる。元気か?」


 俺はサジに挨拶をする。


「はい。タクト殿達のお陰です」


 サジは笑顔で答えてくれた。


「悩みと言うか、相談事があるとマリーから聞いたが?」

「そうですね……」


 サジは少し悲しそうな表情で話し始めた。

 孤児院を出ていた子供達の中で、社会に上手く溶け込めず、職を転々としたりしている者が多くいるそうで、何人かは孤児院に相談に戻って来るそうだ。

 比較的、孤児院時代に大人しい子が多いそうだが、サジも何かしてあげられる訳ではなく、話を聞くだけだった。

 孤児院の責任者と言うより、子供達の父親として心配しているのだろう。

 横で話を聞いていたシュカが、音信不通の子供達が何人か居る事も教えてくれる。

 二人の中で、音信不通の者達の何人かは既に死んでいるだろうと感じている事は分かった。

 なかには騙されて奴隷にされ、酷い扱いを受けている子も居るそうだ。


「それなら、心配無いぞ。近々、奴隷制度は無くなる。今でも奴隷契約を無効にするよう国王から商人ギルドや領主達に通達が回っている筈だ」

「そうなのですか?」

「間違いないから、安心しろ」

「もしかして、タクト殿も奴隷制度を撤廃する為に御協力を?」

「少しだけな」


 本当の事は言わずに、誤魔化す。

 サジは続けて話をするが、孤児院の子供達だけでなく、誰もが仕事を探すのは大変なので、冒険者という選択を選ぶ者が多いと話してくれる。

 俺もサジと同じ考えだった。

 その為、以前にグランド通信社に求人システムの事を提案している。

 四葉商会よりもグランド通信社の方が各領地等に支社がある為、連携しやすいだろうと思ったからだ。

 前夜祭の時に、ヘレフォードにでも聞いてみる事にする。


「マリーから洗濯屋の事は聞いているか?」

「はい。色々と相談に来て頂いております」

「そうか。きちんとマリーに意見を言ってくれよ」

「ありがとうございます。マリー殿には感謝しております」


 サジは頭を下げた。

 

「しかし、流石タクトさんの右腕ですね」

「いやいや、マリーは右腕と言うより、俺を超えているからな」

「成程。女帝と言われているのも頷けますわ」


 シュカが笑いながら話す。


「……女帝って、誰から聞いた?」

「誰かと言われれば記憶にありませんが、四葉商会の女帝と街の皆さんは噂してますよ」

「そうなのか?」

「はい」


 マリーが女帝と呼ばれていたのは、ゴンド村だけだ。

 ゴンド村と、ここジーク領を行き来していて口が軽い奴……いた!

 間違いなく、ムラサキだろう。

 本人は悪気が無いのが分かっているので、叱るのにも躊躇する。

 しかも、既に噂が広まってしまっているようなので、時すでに遅しだ。

 マリーは自分が、女帝と呼ばれている事を知っているのだろうか?

 今度、聞いてみる事にする。


 サジの相談と言うか、悩みを聞いただけで解決策は無かった。

 今、孤児院に居る子達は孤児院を出る年齢になっても、四葉商会が職等を紹介出来る様にはしたいと思っている。

 一応、サジには今後、訪ねて来た子供が居たら俺かマリーに知らせる様に言う。

 

「それと、シュカの方も相談があると聞いたぞ」

「えぇ、相談というよりも四葉商会の経営者としての意見を聞きたかっただけね」

「マリーじゃ駄目だったのか?」

「マリーさんに聞いたら、タクトさんの方が良い意見を聞けると言われました」

「そういうことか。それで、相談は何だ?」


 シュカの相談とは二つだった。

 一つ目は、シュカとルリの店だった『ベリーズ』の事だった。

 既に、後輩に店を譲っているので、シュカとルリには関係の無い話だが、二人が抜けた事で客離れが起こり、売上が落ちているそうだ。

 引き継いだ後輩の店主がルリとシュカに「戻って来て欲しい」と頼みに来たそうだ。

 シュカとルリは、既に四葉孤児院で仕事をしているので、無理だと断ったが面倒を見てきた後輩なので、助けてあげたいと思っていると話す。


「厳しい事を言うが、ここでシュカとルリが助けても、問題解決にはならないだろう。店主としての力量と言うか、考えが甘いんじゃないのか?」

「確かにタクトさんの言う通りよ。私達だって、最初は必死で働いていたしね」

「そう、はっきりと断れば、後輩店主も頼みに来なくなるだろう。思わせぶりな返答をしたんだろう」


 シュカは黙っていた。


「シュカやルリの気持ちも分かるが、いつまでも二人を頼ったら駄目だろう。ちょっとした相談や愚痴位なら、少しくらい聞いても良いと俺は思うけどな」

「そうね。私達も甘かったかも知れないわね」

「残された者達で店を守っていくんだから、自分達の力で乗り越える努力をしないと、その後輩達は成長しないぞ」

「ありがとうね。そこまで考えてくれて。今度来た時に、はっきりという事にするわ」

「それも良いが、実際に客として店に行ってみて感じた事を話した方が、いいんじゃないのか?」

「女性の私達が御客として、店に行くって事?」

「あぁ、別に男性限定の店って事じゃないだろう」

「まぁ、そうだけど……」

「それなら、元従業員のクルーニーと三人で行けば良いだろう」


 経営者や店長が変わる事で、今迄と違う業務形態になる事は、よくある事だ。

 しかし、その影響を受けるのは従業員達で、業務過多になってしまう。

 今回は業種は違うが、多少なりとも雇っている女性達も店主がシュカから変わった事で戸惑いはあるのだと思う。

 去って行った者が、良かれと思い何度もその場所に訪れるのは、必ずしも歓迎されるとは限らない。

 忘れた頃に少しだけ顔を出すのが良いと、個人的には思っている。

 シュカはルリとクルーニーと相談した上で、後輩店主の新しいベリーズに行ってみると、自分なりの答えを出す。


 二つ目の相談事だったが、マリーには話をしていないが、シュカとルリの商人ギルドの所属先を、四葉商会に変更したいという事だった。

 ベリーズを止めてからは無所属になっている。

 特に問題無いが、今後の事も考えると無所属よりは四葉商会の方が良いと判断したようだ。

 この相談は俺にとっても好都合だ。

 俺は即答して、詳しくはマリーに聞いてくれと伝えた。

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