第580話 前夜祭?
報告も終わり、ルーカスやジラールに、オイラルの三人は生誕祭の話を始めていた。
内心、終わったのであれば帰りたい気分だった。
その時、部屋を出て行った大臣のメントラが戻って来た。
ルーカス達が生誕祭の話をしている事に気が付くと、俺の顔を見て話し掛けてきた。
「ところでタクト様」
「ん、なんだ?」
「前夜祭には、どなたが出席されますか?」
「前夜祭?」
俺には何の事か分からなかった。
「変ですね。御案内を差し上げるにあたって、国王様から直接タクト様に御連絡すると伺っておりましたが?」
「いや、知らないぞ」
俺とメントラはルーカスの方を見る。
会話を聞いていたルーカスは、目線を合わせないようにジラールやオイラルと話を続けていた。
「分かりました。前夜祭には四葉商会様も御招待するよう言われております。それで代表のタクト様は勿論ですが、付き添いに一名同行可能でしたので、お聞きした訳です」
「そういう事か。それなら、副代表のマリーを頼む」
「承知致しました。タクト様にマリー様ですね」
俺に前夜祭の事を話していない事をルーカスは、メントラに叱られるのだろう。
ルーカスに仕える者達は、ルーカスの行いに対して、きちんと 違う と発言出来る者や、意見を述べる者が居る。
国王の暴走を止める事も出来るし、ルーカスも信頼をしている関係だからこそ成り立つ。
このエルドラードが良い国だと思える要因の一つだと思う。
国王であるルーカス達王族の人柄もあるだろう。
そう考えれば、四葉商会も同じだと感じていた。
しかし、マリーに前夜祭の事を伝えると、俺が連絡を忘れていたと思われるのだろう。
「しかし、どうして四葉商会が呼ばれるんだ?」
「それは商人ギルドで大手の方々等、国に貢献されて居る方々に御声を掛けさせて頂いております」
「四葉商会が国に貢献したか?」
貢献するような事と言えば、転移扉や飛行艇になるが、今の段階で発表が出来る訳では無い。
俺がユキノの婚約者だと発表するにしても、四葉商会とは関係無く俺個人の事になる。
疑問に思い、メントラに確認する。
招待する者に関しては、王宮に居る者達から聞き取りをするそうだ。
メントラは理由を述べた。
まず、結婚式という新しい儀式の発案と、結婚した者等を写真に撮り、写真と言う文化を定着させた事。
そして、ジーク領においてはスラム街の撤廃や、孤児院への寄付等慈善事業に尽くした事になるそうだ。
と言うのは建前で、最近勢力を伸ばしている四葉商会との繋がりを持ちたいと思う貴族達が多いそうだ。
一応、国内最高ランクの冒険者である俺が立ちあげて代表を務めているし、ルーカス達王族や、魔法都市ルンデンブルク領領主のダウザー達共、懇意にしている噂は、情報に敏感な貴族であれば当然、耳に入っているだろう。
簡単な話、四葉商会との今の内に仲良くなっておけば今後、甘い汁が吸えると思っている者が多いという事だ。
「私個人的に言えば、タクト様と四葉商会様の国への貢献度は一番なんですがね」
メントラは笑いながら教えてくれた。
「冒険者は呼ばれないのか?」
「はい。ジラール様とヘレン様は代表という事で御越しになられます。なにより、冒険者の方々には警備等を、お願いしております」
街の衛兵や、騎士団だけでは街の警備や、要人の護衛等の人手不足は間違いない。
冒険者にクエストを出して対応させているという事なのだろう。
メントラは大手の会社として、業界第一の『グランド通信社』、二位の『ヴィクトリック商会』、三位の『ジョウセイ社』の代表が毎年来ると教えてくれる。
グランド通信社であれば代表のヘレフォードだが、もう一人は誰を連れて来るのかが気になった。
普通で言えば副代表で義理の息子オージーだが、気弱なオージーが来ても話が弾まなく、グランド通信社の評判を落としかねない。
ヘレフォードは、そう言った事は分かっている筈だが、人材育成も兼ねてどうするつもりなのか、少しだけ興味があった。
人材育成は、四葉商会でも同じ問題が早かれ遅かれ起きる。
それと、ヴィクトリック商会の代表の娘が苦手だと、マリーが以前に言っていた。
代表もマリーの父親とも面識があるようだし、マリーが奴隷になった事も当然知っているだろう。
もし、マリーを馬鹿にする事があれば、絶対に許さない。
「必要無いと思いますが、護衛の方は何名のご予定でしょうか?」
メントラが答えを分かっているが、敢えて質問をして来た。
「勿論、護衛は無しだ。俺が居るからな」
メントラが期待するであろう言葉で返した。
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