第577話 無職無双!

 タルイの街は全面封鎖になる。

 冒険者ギルド会館や、商人ギルド会館に居なかった者達でも、今回の闇闘技場や不正な奴隷売買に関与している者が居る。

 それに何よりも、街ぐるみで関与して、今回の事を隠蔽しようとしている可能性も考えられる。

 王都より個別にルーカスから指名された者や、王国騎士団及び、冒険者ギルド本部に商人ギルド本部から調査を含めて、大人数がタルイへ移動をして来てる。

 俺達と同時に調査団を派遣させていれば問題無かったのだが、俺の判断ミスだ。

 正直、タルイの街がこのような状態だとは、調査で事前に来るまで想定外だった。

 俺の判断ミスで、ソディック達はタルイでの生活を余儀なくされているので、申し訳ないと思っている。

 闇闘技場に居た奴らは既に、クロによって王都の牢獄に収監されている。

 クロに捕獲されるまで、俺は魔獣達を少し動かしたりしていた。

 その度に、悲鳴があがっていたが、動かない魔獣達は冒険者達の恰好の的だったようで攻撃しようとしていたので、その度に拘束を解いていた。

 次第に、冒険者達が攻撃しなければ魔獣達も大きな動きをしない事に気が付くと、非難の先を冒険者達に変える。

 冒険者達も反論をするが、貴族と冒険者という地位があるのか、貴族達が上目線で文句を言う事に、冒険者達の堪忍袋の緒が切れる。


「分かった。俺達はもう何もしない」


 そう言うと、闘技場の一角に集まり座っていた。

 俺は魔獣達の拘束を再度解き、暴れさせる。

 暴れまくる魔獣。

 意図的に殺さなくても、重症な者は多数居た。

 文句を言われた冒険者達は、貴族達が襲われているが座ったまま動こうとしない。

 あれだけ罵声を浴びせられれば、当たり前だろう。

 貴族達が冒険者達に「助けろ!」と叫んでいる。

 どれだけ自分勝手なんだと思いながら、俺は見ていた。

 冒険者達も俺と同じように笑っていた。

 暫くは動かない魔獣達を放置して、貴族達に恐怖を感じさせていたが、そろそろ潮時だと思いクロに捕獲させる。

 一人、又一人と影に人が吸い込まれていく状況を見て、悲鳴があがる。

 逃げ惑うが最後には貴族達は影に吸い込まれてしまう。

 この闇闘技樹に残っているのは、冒険者達だけだ。

 普通であれば助ける対象だが、闇闘技場の存在を知ったうえで協力をしているという事は、俺にとって貴族達と同罪だ。

 俺は魔獣達を自由にする。

 制限を掛けていた「意図的に殺さない事」も当然、解除しているので野生に戻っているのか、攻撃対象を冒険者だけで無く、他の魔獣にも攻撃をしていた。

 冒険者達は逃げ隠れて、魔獣同士の戦いを観戦していた。

 結局、最後に残ったアシッドリザードとポイズンマンティスは冒険者達を的にしたので、仕方なく俺が殺した。

 当然、魔石は俺が回収した、

 冒険者達もクロに捕獲して貰う。


 捕獲された貴族達を見ようと移動したが、奴等は檻の中でも不平不満を言っていた。

 自分の地位を高らかに叫ぶ者もいたが、俺から見れば滑稽だった。

 しかし、時間と共に喋る度に傷を負う者が居る事を知る、

 次第に、喋ると損傷を負う事を認識すると、次第に誰も喋らなくなっていた。



 タルイの街は大きく揺れていた。

 領主主催による闇闘技場の発覚に、非合法な奴隷契約による奴隷売買。

 どれに関与していても死刑は免れないであろう犯罪になる。

 タルイの商人達は戦々恐々としていた。

 ノゲイラの指示とは言え、自分達も大なり小なり関与して儲けていた事は、紛れも無い事実だからだ。

 当然、それなりの恩恵も授かり、良い生活をしている。

 仮に「知らなかった」と嘘の供述をしたとして、正直に供述した者達から非難される。

 幸い街には、三獣士達が滞在しているので、大きな揉め事は発生していない。

 今、何か事を起こせば自分が不利な状況になると分かっている。

 逆に、ノゲイラ達に虐げられていた者達からは歓迎されているようだった。

 奴隷商人でない商人達は、サーバン商会や系列の紹介の者達に、好き放題されていたので、これを機に今迄の事を告発するつもりでいるらしい。


 闇闘技場や冒険者ギルド会館に、商人ギルド会館に居た連中は、全員が俺を誰だか知らなかった。

 三獣士や、コスカ達が俺の名を呼ぶと、噂のランクSSSの冒険者と同じ名前だと気付く。


「無職無双かよ!」

「大物冒険者の無職無双まで出て来られたら、俺達では太刀打ち出来っこない……」


 捕まえた冒険者達が、口々に俺の事を『無職無双』と呼んでいた。

 どうやら俺の知らない間に、俺の二つ名は『無職無双』になっていた。

 無職の癖に、誰も勝てない強さの持主だからだろうと、言葉から推測は出来るが……。

 この二つ名が素晴らしいかは別として、俺が無職だという事は誰もが知る事になる。

 変な意味で無職が正当化されるのは避けたいと思った。

 無いとは思うが、憧れの職業と聞かれて「無職!」と答える子供達が居ない事を祈る。

 そもそも、無職は職業でさえ無い。


 三獣士やコスカ達に俺の二つ名を知っていたかと尋ねる。

 皆が目線を反らしながら「知っていた」と答える。

 知らなかったのはトグルだけだった。

 王都で誰かが発した言葉が、広まったのだろう。


「無職無双のタクトか……」


 俺の二つ名を聞いた時に、トグルは必至で笑いを堪えていた。

 他の者達も遠慮して、俺に二つ名の事や、その話題に触れなかったのだろう。

 世間的に言えば、変な二つ名の部類に入る。

 普通、ランクSSSであれば格好良い二つ名が自然と広まる筈なのだが……。

 シキブの『疾風の鬼姫』や、トグルの『漆黒の魔剣士』の方が断然マシだ。

 トグルの二つ名を揶揄って付けた報いなのだろうか……。

 前にも似たような事があったので、エリーヌの【呪詛】かと一瞬、頭を過ぎったが【呪詛】は発動されていないので、これがこの世界での俺の評価なのだろう。

 無双と言う響きは好きなのだが、それを打ち消すほどの無職と言う響き。

 俺はこれから『無職無双』という名を背負いながら、冒険者生活をする事になる。

 マリー達や、シキブにジークの冒険者達が知れば間違いなく大笑いするだろう。

 その光景が目に浮かぶ。


 道具屋の店主に、自分に不利な事を言わないように、脅しをかけていた奴隷商人が居た。

 丁度、俺とセルテートが見ていたので捕まえて、街の広場で一日中、罪人として放置をした。

 その捕まえた奴隷商人は商人ギルドに居なかった奴なので、捕獲と同時に【真偽制裁】を掛けてある。

 まだ、こういったノゲイラの残党が隠れている。

 俺としては、ノゲイラの残党もそうだが、真面目な冒険者や商人達。

 街の人々の前で、俺や三獣士に対して、大声で必死に弁明をする奴隷商人。

 しかし、その度に体に傷を負うという不可解な現象を目にする。

 見ていた街の人々は次第に、奴隷商人が嘘や、自分を正当化しようとすると、体の何処かに損傷を負う事を理解し始める。

 そのせいか、ノゲイラのお陰で美味しい思いをして居た奴には【呪詛】が掛かるという噂が広まっていた。

 結果として、やましい事がある者達は口数が減り、潔白な者達だけの話し声がするという光景になる。

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