第578話 封鎖!

 ソディックから、国王ルーカスからの言葉をタルイの領民に告げられた。


「タルイに居る奴隷に関しては、契約無効とする。同時に不法な行いをすれば、それ相応以上の懲罰が与えられる」


 奴隷商人達は渋々、奴隷契約を解除する。

 本来の正当な契約で調達した奴隷も居ただろうが、ルーカスは特例を許さなかった。

 奴隷商人の二束三文の言い値で買われた者達を法外な値を付けて売る。

 商売としては当たり前の事だから、それを非難する事は出来ない。

 しかし、俺の知る奴隷商人達は、商品として扱い、人として扱っていない道義的な問題があったか。

 そもそも、人身売買とはそういうものなのかも知れないが……。

 奴隷契約を解除された者達は、十数人の子供しか居なかった。

 人数が少なかった理由として、生誕祭の時期は地方より多くの人が王都に来る為、地方まで出向いて仕入れるよりも、王都内で職に付けなかった者や、王都に来るついでに家族を売りに来る者等が多いらしい。

 何故なら、商人ギルドや冒険者ギルド等が提携して、地方の領主達が無料で王都に行ける馬車を手配するからだ。

 馬車の数は領主に一任されている。

 毎年、王都に行きたい者は、この時期を選ぶ事が多いらしい。

 しかし、あくまでも国王の生誕を祝う式典の為、王都へは無料で行けるが帰りは自費になる。

 自費と言っても、通常であれば馬車に冒険者等を雇う事を考えれば、安くて安全な事は間違いない。

 王都で一旗揚げようと夢を追いかける者達にとっては、是が非でも馬車に乗りたいだろう。

 そのせいか奴隷商人にとっては、奴隷調達に関して苦労もせずに手に入れる事が出来るので、生誕祭は奴隷商人達にとって、別の意味で嬉しい式典だそうだ。

 華やかな祭典の裏では、こう言った事が当たり前のように行われている事を知った。

 殺された奴隷商人達が、奴隷を調達出来ないと焦っていた理由も分った。

 しかし、エランノットはどのようにして、詫びの奴隷を一人与えるつもりだったのかが疑問だった。


 奴隷契約解除された者達の中に、奴隷契約解除された事により、家族へ払った自分の通貨をどうすれば良いかと、泣きだしそうな顔で訴える者が居た。


「安心しろ。お前達が通貨を払う事も無いし、家族達が通貨を返す必要もない」


 俺がそう答えると、安心した顔をする。

 自分の事よりも残された家族の事を考える。

 とても素晴らしい子供達だと感心する。


 他の領主にも、ノゲイラが関係していたサーバン商会系列から奴隷を購入した場合も、同様だという事が伝えられる。

 後ろめたい事がある領主は即刻、奴隷契約を解除するだろう。


 サーバン商会や系列の奴隷を扱う店は、人の立ち入りを禁止にする。

 何故なら、奴隷を生活させていた場所で、何体もの死体があったからだ。

 病死なのか、虐待なのかは分からないが証拠隠滅されるのを防ぐ為だ。

 売れない者を処分した可能性は否定出来ない。


 商人ギルド本部では、エランノットより賄賂を貰い、便宜を図っていた者達が処分された。

 俺達は王国騎士団が到着するまでの間、タルイでの生活を余儀なくされる。

 そうは言っても、冒険者ギルドと商人ギルドの監視や、人の出入り管理等があり遊んでいるような状況では無かった。

 そう、俺を除いては……。


 俺は単独行動で、エランノットの親で前領主であるレッティの事が気になっていた。

 エランノットが、始末対象として呟いた事を覚えていたからだ。

 シロとクロにも手伝って貰い、レッティの捜査をしていた。

 しかし、レッティはすぐに見つかった。

 領主の屋敷の地下に閉じ込められていた。

 ……何故、エランノットは父親を殺害しなかったのか?

 疑問を感じながら、レッティと面会する為に領主の屋敷に向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あんたがレッティか?」

「いかにも、私がレッティだが、其方は?」

「俺は冒険者のタクトという者だ。【呪詛】の関係で、こんな喋り方だが許してくれ」


 俺は『呪詛証明書』をレッティに見せる。


「その冒険者が私に何用かな?」

「あんたの息子、エランノットを捕まえた」

「……そうですか」

「驚かないのか?」

「はい。いずれは、と思っていましたので……」


 レッティが言うには、エランノットとノゲイラ達に無理矢理、此処に幽閉されたそうで、食事を運んで来る唯一の使用人から、エランノットが領主になってからの事を聞いたらしい。

 その後も、エランノットや領地であるタルイの状況を教えてくれていたそうだ。


「エランノットは何故、あんたを殺さなかったんだ?」

「それは、分かりません。それに使用人が何故、外の状況を教えてくれるのかも私自身、疑問でしたから」

「それで、その使用人の名は?」

「名前は分かりません。私も知らない使用人でした」


 レッティの表情からも嘘は言っていないだろう。

 後に居るクロが、何も反応しない。


「もしかしてですが、タルイ家の隠し財宝を狙っていたのかも知れません」

「財宝?」

「えぇ、噂ですが我がタルイ家には御先祖様が隠した財宝があると伝えられております」

「その財宝の在処を聞き出すために、敢えて殺さなかったという事か?」

「考えられるのは、それくらいですね。財宝など噂なのに……」


 レッティは隠し財宝について、前領主でレッティの父親から話を聞いている事を教えてくれた。

 まだ、タルイの街がここまで大きくなかった随分昔の話だそうだ。

 その頃、タルイの街は治安が悪く、街の中で強盗や空き巣が頻繁に発生していた。

 正確には、タルイだけでなく国自体が荒れていた時期だったそうだ。

 当時の領主は街の人々を強盗等から防ぐ為に、領主の屋敷には一生遊んで暮らせる位の財宝が隠されていると噂を流す。

 それを目当てにした強盗や空き巣は、領主の屋敷に忍び込む。

 しかし、入った瞬間に罠や、護衛の者により捕まる。

 少しでも治安を良くしようとした、先祖の知恵だったそうだ。

 エランノットに何度も説明をしても納得せずに、とうとう白状するまで此処に幽閉する事にしたそうだ。


 俺はその話を聞いて、空き巣や強盗が本当に減少したのか不思議だった。

 しかし、レッティは隠し場所や、それを示す言葉等は何一つ聞いていないと話す。

 昔の領主は、自分の事よりも街の安全、街の人達の生活を守る為に、自分を犠牲にしていた時代があったのかも知れないと納得する。

 こういう考えの領主ばかりだと、この世界も平和なのだろう。


「ところで、領主の座をエランノットに譲ったのは何故だ?」


 今は衰弱しているが、レッティは引退する程、衰えているようには見えない。


「それはエランノットから、ゆっくり休んで欲しいと言われましたし、商人ギルドや冒険者ギルドとも、エランノットは友好な関係を築いておりました。若者達に譲るのも良いかと判断した次第です」


 エランノットが強引に領主の座を、レッティから奪ったのでないと分かっただけ十分だった。


「そうか。自分の意思で領主の座を譲ったのであれば、俺から何も言う事は無い」


 レッティに向かいそう言い、レッティを開放して地上へと連れ出した。

 我が子エランノットが、食事を持ってきた使用人からエランノットの事をどれだけ聞いていたか分からないが、エランノットが行ってきた悪行を知る事は親として耐えられないかも知れない。

 しかし、レッティは前領主として、エランノットの親として逃げる事は出来ないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る