第561話 遊びの代償-3

「この辺りでいいだろう」


 タルイに戻ると、裏通りの子供達を保護した場所で、ショーシア達三人の子供を開放する事にする。

 俺は【隠密】で隠れて少し様子をみる事にした。

 最初は、開放して逃げるのを見てからにしようと思ったが、俺が「もう人を痛めつけるなよ」等を言ったら、「はい」と嘘をついて【真偽制裁】が発動してしまう。

 敢えて、痛めつけるつもりは無い。

 クロが三人を解放すると三人共、自分が居る場所がタルイだとは思っていない。


「アイツ、騙したな!」


 マチオが怒り、足元にあった石を蹴飛ばす。


「ここに居ても無駄だわ。声がする方向へ行きましょう」


 ショーシアが指示を出して、三人は歩き始める。


「私が真ん中で、マチオが先頭。ベラサージは一番後ろよ」


 隊列もショーシアが決める。

 マチオとベラサージは不満な表情を浮かべながらも、ショーシアの指示に従っていた。

 貴族の階級差なのだろう。


 歩いている最中、誰も口を開かなかった。

 不安からなのかは分からないが、険悪な雰囲気だ。

 仮に、元に戻っても以前のように、三人仲良くはやっていけないだろう。


 大通りが見える場所まで来ると、三人は小走りになる。

 しかし、大通りとの境には大きな柵がある。


「そこの者!」


 ショーシアが、大通りに居る商人に向かい声を掛ける。

 閉店の準備をしていた商人は、声を掛けられて明らかに不機嫌そうだった。


「この柵を開けなさい!」


 子供に命令された商人は、ショーシアの言葉を無視して片付けの続きをする。


「聞こえているんでしょう。早く柵を開けなさい!」


 商人は持っていた木箱を柵に向けて、投げつけた。


「おい! 何を偉そうに喋ってるんだ」

「ぶ、無礼な。私が誰か知っていて、そのような態度」

「うるせぇ!」


 商人は近くにあった木箱をもう一度、柵に投げつける。


「ノゲイラ様の家畜のくせに、生意気なんだよ」

「か、家畜ですって!」


 ショーシアは自分を家畜と言われた事に、激怒する。

 騒ぎに気が付いた他の商人達も集まって来て、面白がって石や、廃棄する生ゴミ等を三人に向かって投げつける。

 ショーシアやマチオの声は、商人達には動物の叫び声を同じにしか聞こえていないのだろう。


「痛っ!」


 ベラサージの顔に投げつけた石が当たる。

 それが面白かったのか、商人達は遊戯感覚で、更に石を投げ始めた。

 ここの商人達もノゲイラの影響なのか、この柵の向こうの者達は人ではないと思ってしまっているのだろう。


 ショーシア達は危険だと感じたのか、その場から逃げ去った。

 俺は静観していたが、気分の良いものではなかった。


「どういうことなのよ!」


 ショーシアは、自分の思い通りにならない現状に苛立っていた。


「私は此処に居るから、あんた達で出口を見つけてきなさい」


 疲れたのか面倒臭くなったのか、ショーシアはマチオ達に命令する。


「いい加減にしろ!」


 マチオがショーシアに向かって、怒鳴り声をあげる。


「俺は勝手に出口を探させてもらう。ショーシアの面倒は見ないからな。ここでお別れだ」

「なんですって! マチオ、私に向かってその口の聞き方は何よ! 謝りなさい」

「マチオ、落ち着いて。ショーシアもだよ」

「ベラサージは、どっちの味方なのよ。私、それともマチオ」

「ぼ、僕は……」


 先程、石が当たり顔から流血しているベルサージ。

 優柔不断な性格なのか決めかねていた。


「もういいわ。私も勝手にさせてもらうから。あとで覚えておきなさいよ」


 ショーシアは捨て台詞を吐いて、一人で崩れかけた家の奥へと入って行った。

 マチオが歩き始めると、ショーシアとマチオを交互に見ていたベラサージだったが、最後にはマチオの後を追って行った。


 一部始終を見て俺は、やはり簡単に性格は変わらない事を知る。

 少しでも心を入れ替えてくれる事を期待していたのだが……。

 もう、戻ろうとすると二人組の男が歩いて来る。


「おい、居たか」

「駄目だ。本当に何処に隠れていやがるんだ」


 奴隷商人の男達が、奴隷にする子供をまだ捜していた。

 見つからなければ、自分達が殺されるので必死なのだろう。


「もう、明日にするか?」

「そうだな。明日、見つからなければ……」


 悲壮感を漂わせながら、二人して溜息をついていた。


「うるさいわよ! 早く、何処かに行きなさいよ」


 家の奥に居たショーシアが、マチオだと思い文句を言いに出て来た。


「えっ!」


 マチオとベラサージの姿は無く、男二人組だった事にショーシアは驚く。

 男二人も、やっと見つけた子供に歓喜の声を上げる。


「な、何をするつもり」


 抵抗しようとするが、あっという間に手足の自由を奪われる。


「貴方達、縄を解きなさい」


 相変わらず高飛車な態度なので、男達の逆鱗に触れる。


「奴隷の分際で!」

「うっ!」


 ショーシアは腹を殴られて悶絶する。

 何故、殴られたのかショーシア自身、分かっていないのだろう。

 ショーシアが意味を分かるまでは同じ事を繰り返されるのだと思う。

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