第562話 遊びの代償-4

 ショーシアは、男達から他に子供が居ないかを聞かれると、マチオとベラサージの事をあっさりと話す。

 俺は二人を庇った際に【真偽制裁】が発動して、ショーシアが傷付く事を気にしていたが、心配する必要が無かった。

 男達はショーシアの言葉の通り、マチオとベラサージを探しに行く。

 ショーシアは手足を縛られたまま放置される。

 自分の身可愛さに二人の事を喋ったのか、それとも自分だけが貧乏くじを引く事に我慢ならなかったのかは、俺には分からない。


 十数分後にマチオとベラサージは、男達に捕らえられて戻って来た。

 ショーシアが、自分達の事を男達に話した事を知っているのか、ショーシアを見るなりマチオは大声で文句を言うが、男に殴られて黙る。

 男達は奴隷契約をせずに、ショーシア達を地下へと連れて行った。

 俺はその光景を見ながら、奴隷契約について思い出す。

 本人の意思無しに契約は成立しないはずだ。

 そんな俺の疑問はすぐに解決する。

 地下に入ると、既に居る奴隷の子供達とは別の場所に連れてかれる。


「さてと、作業に入るか」


 男はそう呟くとショーシア達三人を見る。


「お前だな」


 男はマチオを選んだ。


「おい、お前は奴隷になるよな」

「何を言って……」


 マチオが言い終わる前に殴る。

 もう一人の男も、ショーシアとベラサージの近くで同じ事を言っていたが、殴る行為はしなかった。

 

 マチオが奴隷契約をすると言うまで、同じ事を繰り返していた。

 それを見ていたベラサージが、最初に奴隷契約を結ぶ。

 子供の恐怖心を増幅する事で、奴隷契約を結んでいるようだ。

 一応、本人の意思での契約になるので、手段はどうあれ契約は成立する。


 最後まで抵抗していたマチオとショーシアだったが、男が熱い鉄の棒をマチオの体に押し付けると、マチオとショーシアの心も折れる。


「手間かけさせやがって」


 思っていた以上に時間が掛った事に、男は苛立っていた。

 奴隷アイテムを首に付けると、男達は奴隷たちの部屋に三人を入れて去っていった。

 ショーシアやマチオに、ベラサージの三人は奴隷になった事実を受け入れる事が出来ずに、先に奴隷になっていた子供達に苛立ちをぶつけていた。

 ショーシア達に逆らう子供もいない事もあり、ショーシア達の行動はどんどんとエスカレートしていく。

 ベラサージは二人に合わせている感じがするが……。

 しかし、この三人は学ぶという事を知らないのだろうか?

 俺は三人に【転送】を使い、部屋から出す。

 突然、部屋から出された三人や、他の子供達は驚く。


「に、逃げるわよ」


 ショーシア達は逃げるように走って行く。

 捕まって、酷い仕打ちを受ける事は分かっていたが、他の子供に暴力を振るったりする振る舞いは断じて許す事は出来なかった。

 何度か更生の機会を与えたが、全て無駄に終わっている。

 格下の者が何を言っても、心には届かないのかも知れない。


 俺の思った通り、三人は捕まり暴行を受けたうえで、別の部屋に閉じ込められる。

 大声で叫んだりしていたが、意味が無い事に気が付いたのか、叫ぶ事を止める。

 結局、自分達以外へ鬱憤をはらせなくなると、仲間内で罵り合う。

 どうしても他の者より自分が優位でないと、気に入らないようだ。

 特に、ショーシアとマチオはその傾向が強い。

 男性と女性、貴族の地位等もあり、二人は対立している。

 仲が悪くなると、お互いの嫌な面しか見えなくなっているのだろう。

 

 徐々に声が大きくなり、ショーシアとマチオの罵り合う声が周囲に響き渡る。

 監視員なのか、当直なのか分からないが先程の男達が現れた。


「お前等、静かにしろ!」


 明らかに不機嫌な表情をしている。

 ショーシアは控えめ気味に自分の名前と家名を話す。


「あぁ、お前のように貴族の名前を言えば、見逃してくれると思っている奴がいるんだよな」

「そうそう」


 男達は、以前にも何度と同じ事を経験しているのか、ショーシアの言葉を本当だと思わずに真剣に取り合わない。


「とりあえず、お前等はこれから名前や家名を言うのを禁止な」


 奴隷契約上、契約者から制限を掛けられた。

 これで、三人は名前や家名を名乗る事が出来なくなる。

 今迄、奴隷に命じてきた経験から、逆らえない事は身をもって知っているだろう。

 小声で自分の名前等を言ってみるが、言えない事を実感していた。


「まぁ、お前等も残り少ない命を大事にしろよ」


 笑いながら男達は去って行った。

 ショーシア達は男達の言った「残り少ない命」という単語に青ざめていた。

 やっと、自分達が置かれた状況が分かったようだった。

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