第560話 遊びの代償-2

「俺達を家に帰せ。逆らうと、こいつを殺すぞ!」


 マチオは落ちていた剣を拾い、子供の一人を人質にした。


「よくやったわ、マチオ!」


 ショーシアもマチオを褒める。


「早速、約束を破るか……」


 分かってはいたが、あまりにも予想通りの行動だったので呆れていた。

 わざわざ後ろを向いたのも、もしかしてと思っていたからだ。


「約束は対等な者同士で結ぶから、約束なのよ!」


 ショーシアは、俺では理解出来ない約束の定義を誇らしげに語る。


「対等ね……」


 俺は【転送】でマチオが持っていた剣を、手元に引き寄せる。


「えっ!」


 握っていた剣が無くなった事に、マチオは驚く。


「お前達と俺は対等じゃないと言ったよな。俺はお前達を殺しても良いと言うことだな」


 さっき以上の殺気を込めて三人を睨み、マチオに【火球】を放ち、服を燃やす。

 驚きながら、必死で火を消そうとしているが消えないので、強引に服を脱ぐと、必死に服を何度も踏み、火を消そうとしている。

 同じように、ショーシアとベラサージにも【火球】を放つ。

 マチオの状況を見ていたので、すぐに服を脱ぎ回避しようとするが、ショーシアは長い髪の毛にも引火するが、ベラサージやマチオが消火活動を手伝い、髪が短くなっただけで済んだ。


「惨めだな。次は何をしようか」

「主。串刺し等は如何ですか?」

「そうだな。一人くらい死んでも、まだ居るしな」

 

 俺の意図を知っているクロが、より残虐な提案をする。

 ショーシア達の顔からは血の気が引いていた。


「ご、ごめんなさい。本当にもうしません」

「そ、そうです。神に誓ってもうしません」

「許してください」


 泣きながら話すが、この言葉も本心からではない事をクロは教えてくれる。

 俺としても子供を殺したりする気は無い。

 あくまでも脅しのつもりだ。


「お前達、此処から一歩も動くなよ。動いたら躊躇無く殺すからな」


 ショーシア達は俺の言う通り、固まったかの様にその場で立っている。

 俺は項垂れている子供達に、声を掛ける。


「お前達は、あんな醜い奴になる必要は無い。見た目は貧しいかもしれないが、人を思いやる優しい心を持っているだけで、あいつ等よりも十分に価値がある」

「ありがとうございます」

「あいつ等の言葉を借りれば、殺す価値も無いクズ達だしな」


 ショーシア達は、自分達の事を醜いだの価値が無いだのと言われて、怒っているのが分かる。

 しかし、一歩でも動けば殺されると分かっているので、黙ってじっとしている。


 俺は子供達の服を触り、【複製】のスキルで、子供達が着ている服を増やす。


「おい、これを着ろ」


 ショーシア達に服を投げつける。

 唯一、女性のショーシアは、最初に服を手に取り着替えた。

 長かった髪はかなり短くなり、長さもバラバラなので、とても貴族の娘には見えない。

 マチオは脱ぐ際に、顔に軽い火傷を負っていた。

 ベラサージも前髪が少し燃えて短くなっている。

 三人の姿は、先程まで自分達が馬鹿にしていた下民にしか見えない。


「お望み通り、元居た街に返してやる」


 俺の言葉にショーシア達は嬉しそうだった。

 内心、俺に対して復讐の炎を燃やしているのだろう。


「これは俺からの贈り物だ」


 俺は三人に【真偽制裁】を掛ける。


「今から、お前達は嘘を言えば傷付く呪いを掛けたからな」


 三人共、俺の言葉を信用していないだろう。

 ここで確かめなくても良い。

 これからは、正直に生きていけば良いだけの事だ。

 クロに頼み三人を影の中に捕獲する。


「さてと……」


 俺はアスラン達の【結界】を解除する。


「どうだった」

「衝撃的でした。子供とはいえ、あそこまで命を軽視出来るとは……」


 アスランは自分が思っていた以上の光景を、目の当たりにした事が衝撃のようだった。

 それはソディックも同じだった。

 ソディックの場合、王国騎士として時には貴族の護衛任務を行う事もある。

 自分の部下である騎士達が、命を懸けてまで守る価値がある者達なのかと、疑問を抱いただろう。


「奴隷を物扱いして育てば、こういう事が起きる。貴族であれば何をしても良いという風潮がある限り、同じ事が繰り返されて無くなる事は無いだろうな」

「それは国の責任だと?」

「いや、そうじゃない。悪い事をすればいずれ、自分に返ってくると言うだけだ」


 自分で発した言葉に「いずれ、俺もそうなるかもな」と、思っていた。


「俺は一旦、タルイに戻るから子供達を頼んだぞ」

「はい、任せてください」


 アスランは返事をする。

 声とは裏腹に表情は冴えなかった。

 それ程、ショーシア達子供の行いが衝撃的だったのだろう。

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