第553話 街の表と裏!

「あれがタルイか」


 俺は一人で、王都からタルイまで移動していた。

 タルイを空から眺めていた。

 【神眼】でタルイに結界が張っていないかを確認するが無かった。

 一応、【全知全能】にも確認をするが、防衛する魔法等は何も無かった。

 夕暮れなので、街に光が灯し始める。

 その風景を見ながら、綺麗だと感じながらも俺は地上に降りる。


 商人の馬車がタルイに入るので、【隠密】を使って荷馬車に入り込む。

 荷馬車の中には、地方からの民芸品のような物が幾つかある。

 布で破損を防ぐような措置はされていた。


 タルイの街に入ろうとすると門番に止められて、荷馬車の中を見られる。

 門番は荷馬車の中に入り込み、怪しい物が無いかを確認していた。

 後には商人も一緒に居た。

 狭い荷馬車の中で、俺はぶつからない様に移動をする。


「ん? これは……」


 商品と商品の間に保護材のように四角く少し潰れたような箱を手に取り、中を開ける。


「へへ、旦那。これで、いい酒でも飲んで下さい」


 商人は袋を門番に手渡すと門番は、何も言わずに受取ると懐に仕舞った。

 門番は何事も無かったかのように荷馬車から出て行く。

 荷馬車から誰も居なくなったので、俺は門番が不審に思った箱の中身を確認する。

 箱の中身は、宝石が幾つか散りばめられていた豪華な宝石だった。

 何故、これを隠しているのかが分からなかったが俺は箱を元に戻す。

 門番を通り過ぎるとすぐに、荷馬車が止まる。

 何事かと思いながら、外に出てみると先程の商人が、別の商人らしき門番に紙を渡していた。

 紙を受け取った門番は、荷馬車を一つ一つ確認していく。

 確認を終えると門番は、商人から金貨を受け取り枚数を数えていた。


「行っていいぞ」


 門番がそう言うと荷馬車は街の中へと移動を始めた。

 どうやら、通行税や街に商品を入れる為の関税のようだ。

 王都や、他の都市では、このような事はしていない。

 そう考えれば、タルイの領主はかなりの切れ者だと思う。

 又、同時に集めた金貨等の通貨を還元しているのか、それとも私欲を肥やす為に使っているのかも気になったが、間違いなく後者だろう。

 街に入ると荷馬車から下りて、街の様子を見て回る。

 クロには作戦実行までの間、この街の調査を頼んでいるので、何かあれば連絡をくれる様頼んである。


 街は一見、華やかで活気がある様に思える。

 店づくりを見る限り、この街に来た貴族や商人相手に商売をしている店が多いと感じる。

 この街で生活する人向けの、生活雑貨や食料を扱う店は別にあるのだろう。

 この華やかな道は途中で分かれたりもするが、最後には領主の屋敷まで続いているそうだ。

 細い脇道には『関係者以外立入禁止』と札が掛けられた柵が据え付けられていた。

 柵の向こう側には、見栄えの良い壺のような物が幾つか置いてある。

 タルイに来た観光客は、この華やかな道以外でタルイの街を散策する事が出来ない。


 俺は『関係者以外立入禁止』の柵を飛び越える。

 壺の中身を確認すると、固形物や、液体が入っていた。

 

 数メートル進むと、スラム街のように荒れた街並みになっている。

 一応、表の道から見える所に関しては建物の整備はされているが、見えない箇所については酷い。

 害虫と呼ばれる動物や虫等の姿も発見出来ない。

 先程の壺は、それらを寄せ付けない為の対策だろうと推測する。


 【隠密】で気配を消しているので、誰も俺の事に気が付かない。

 進んでいくと、獣と思われる骨が無造作に転がっている。

 灯りらしき光も無いし、人の気配もしない。

 異様な光景だと思いながら、俺は足を進めた。


 暫くすると、野良犬や野良猫の存在が確認出来た。

 柵にあった壺の効果が無くなる場所まで来たようだ。


 家の中からも小声ではあるが、人の気配を感じる事が出来る。

 枠だけで硝子も無く、風が入り込む窓から家の中を確認すると、小さな発光石で生活をしている。

 十代の子供達だけだ。

 近くに大人の気配が無いので、数人で暮らしているのだろうが、身なりや体格を見る限り、生活に困っている事は、すぐに分かった。


 他の場所も見てみるが、幾つか同じように数人の子供達だけで生活をしている。

 誰もが痩せ細っている。


 遠くから話し声が聞こえる。

 子供達は、話し声が聞こえると静かに家の奥へと隠れて行った。

 俺は話し声がする方向へ移動をする。

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