第552話 特別職!

 ステラもライラが、回復魔法を使っている事には気が付いているようだったが、気にする様子も無い。

 この国で唯一の存在である賢者ステラのプライドなのだろう。


 ライラが雷系統の魔法を出せば、それ以上に威力のある雷系統の魔法で返すステラ。

 その威力でライラにはダメージを受ける。

 それは他の魔法でも同じだ。


「そろそろ、終わりにしますか? 貴女の実力は十分に分かりました」

「いえ、出来ればもう少しだけ御願出来ますか」

「……まだ、何か隠しているんですね」


 ステラは余裕で答える。


「これで最後です」


 ライラは詠唱を始める。

 ステラはライラを攻撃する事無く、静かに詠唱が終わるのを待っているようだった。

 ライラの詠唱の途中で、ステラも詠唱を始める。

 二人共が同時に詠唱が終わり、叫ぶ。


「雷砲」


 二人の杖から、一筋の光が放たれて中間地点で激突する。

 眩い光が訓練場を包む。

 不意の光で、視力が奪われる。

 

 訓練場に立っていたのはステラだった。

 俺は席を立ち、ライラの元に駆け寄り【神の癒し】を施して抱き抱える。


「どうだった?」

「荒削りですが、魔法センスは良いです。流石は九尾ですね」

「賢者様のお墨付きって訳か?」

「そうですね。もしも賢者になりたいのであれば、もっと勉強して知識が必要ですがね」


 少し笑いながらも、ステラは答える。

 周りからはステラとライラに向けて、拍手や言葉が飛んでいた。

 ライラが目を覚ましていたら、どういう表情をしたのだろうと思いながら、ライラの顔を見る。


 俺は観客席まで歩き、ライラを寝かせた状態で置く。


「師匠として、ライラの評価はどうだ?」

「ステラ相手にあそこまで出来れば十分でしょう。ライラの最大魔法の雷砲ならと思った私も甘かったわね」

「目を覚ましたら褒めてやれよ」

「勿論よ。貴方こそ、ちゃんと褒めてあげなさいよ」

「分かってる」


 ライラを見ながら思う。

 本来の冒険者は、ライラのように努力をしながら強くなる。

 だからこそ、自分の技等に確固たる自信を持っているのだろう。

 簡単に力を手に入れた俺は、負い目を感じる。

 真面目にやって来た奴が評価されない。

 それは、前世で俺が嫌っていた事でもある。

 今迄も自覚はしていたが、俺は真面目に努力してきた冒険者達を否定している事と同じだ。

 馬鹿にしていると思われても仕方が無い。

 ライラとステラの戦いを見て、改めて感じさせられた。


 セルテート達もライラの実力が分かったので、文句を言う事も無いだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「気が付いたか?」


 ライラが目を覚ましたので、声を掛ける。

 起き上がったライラは、自分が負けた事を自覚する。


「ステラ相手に、よく頑張ったな」


 頭を撫でて慰める。


「今回は、あくまでライラの実力を確認する為だったから、そんなに落ち込むなよ」

「うん。やっぱり、高ランクの冒険者は凄いね。私も、もっと頑張らなくちゃ」


 ライラは照れくさそうに笑う。


「そうよ。貴女にとって、ランクBは通過点なんでしょう。それに賢者になるつもりなんでしょう」

「コスカさん! それは、まだ秘密……」


 話しの途中で、先程のステラとの戦いで回復魔法を使っていた事が知られていると思ったのか、話す声が小さくなっていった。


「賢者とは、魔法を極める事だけではありません。この世界の知識を知る事が必要です」


 ステラがライラに賢者という存在について教えていた。


「九尾ですので、努力を怠らなければ賢者になる事も可能な事は、私が保証します」

「ありがとうございます!」


 ライラはステラに礼を言う。


「今更だが、ちょっといいか?」


 俺は職業について聞いてみる。

 自分自身が無職確定なので、職についてあまり関心が無かった。

 適性検査で、自分に向いている職業に慣れる事は知っている。

 それであれば、誰でも賢者になろうと思えば賢者という職に就ける。


「貴方、本当にランクSSSなの? こんな事、初級冒険者でも知っているわよ」


 馬鹿にした目で俺を見る。

 他の者も同じような感じだった。

 それ程、当たり前のことを俺は質問した事になる。

 コスカは、仕方が無いという感じで説明をする。

 基本職と言われる職業に関しては、どれでも選ぶ事は可能だ。

 その職業を極めるのも良いが、極稀に二つの職業スキルを習得したり、一定のスキルを得る事により、特別職と言われる職業になる事が可能だ。

 これはスキルの職業欄に転職可能と出るので、職業所で転職すれば良い。

 レベルは一からになるが、それ以上にスキルが魅力なので冒険者の中でも、特別職になろうとして、メイン職業とサブ職業を選んでいる者も居る。

 ロキサーニの『魔法剣士』も特別職らしい。

 しかし、転職条件が決まっていない事や、基本職業のレベルを上げないとなれない為、多くの者は途中で挫折するそうだ。

 その中でも、ステラの職業『賢者』は難しい特別職の一つになる。


「そうなのか、ありがとうな」

「これくらい、常識よ。なんで、貴方みたいな、常識知らずがランクSSSなのか、本当に不思議だわ」


 コスカは若干、不機嫌になっていた。

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