第551話 賢者!

「雷弓!」


 ライラが先に攻撃を仕掛ける。

 ステラは、その場から動く事無く、冷静に魔法詠唱をしている。


「魔法障壁!」


 ライラの攻撃を打ち消した。


「私の魔法壁よりも短い魔法詠唱で、効果もそれ以上ね」


 コスカは悔しそうに呟く。

 そういえば、俺との戦いでコスカは【魔法壁】を使っていたな。


 戦いは一方的に、ライラが攻めていた。

 雷属性や火属性の魔法が得意だと言っていたので、その二つの属性魔法が主だった。

 当たり前だが、ライラの魔法詠唱時間に比べて、ステラの魔法詠唱時間は短い。

 ライラが詠唱に入ったと同時くらいに、ステラはそれに対応出来る魔法詠唱を始めていた。

 時折、魔法詠唱もせずに魔法名だけで発動させている魔法もある。


「そろそろ、私から攻撃しましょうか」


 防戦一方だったステラが攻撃に転じる。

 ライラの攻撃と同じ雷属性や、火属性の魔法を使っている。

 敢えて、実力差を示す為なのだろう。

 ライラは辛うじて攻撃を避けているが、直撃を受けるのは時間の問題だと思えた。

 それにライラは、訓練場を走り回っているが、ステラは一歩も動いていない。

 体力的にも、ライラが不利だ。

 それに万が一、ステラは攻撃を受けたとしても賢者であるので、回復魔法を使う事が出来る。

 しかし、俺が考えてもライラが勝つ事は考えにくい。

 コスカが考えている万が一と言う、何かが気になる。


「おい、コスカ。御前の弟子、もう万策尽きたんじゃないのか?」

「悪いけど、ライラは諦めが悪いわよ」


 コスカはセルテートの言葉に対して、冷静に返す。


 逃げながらもライラは隙を見つけて、攻撃をしようと考えているのは分かる。

 しかし、ステラの魔法攻撃がそれをさせてはくれない。


「上手く避けますね」


 余裕のある口調で、ステラは更に過激な魔法でライラを攻撃する。


「ん?」


 俺はライラを見て違和感に気付く。


「コスカ! もしかして、ライラは」

「流石と言うべきね。もう気が付くとは」

「おい、何がだ。俺にも分かるように説明しろ」


 ライラはステラの攻撃を受けまくっているので、かなりの傷を負っているはずだ。

 俺が贈ったアラクネ製の服が丈夫だとはいえ、体へのダメージは大きいはずだ。

 しかし、ライラは戦闘開始から同じように動きながら、魔法攻撃を避けている。

 仮に【結界】を張ったとしても、ステラの魔法攻撃で破壊されると思う。

 それでも自分の傷や体力を回復させる事が出来るのは、回復魔法しかない。


「おいおい、それって賢者って事か?」

「そういう事よ。賢者って呼ぶには程遠いけどね」


 これで合点がいった。

 今回のタルイ討伐で回復魔法士が居ない事を話した際に、コスカは魔法士のライラを推薦してきた。

 俺的にはライラには【結界】のスキルがあるので、あまり気にしていなかった。


「それにライラは、回復魔法に関しては詠唱無しで魔法名だけよ」

「コスカが教えたのか?」

「私は魔法士よ。回復系の魔法は使えないわ。王宮回復魔法士にも教えて貰っていたみたいよ」


 コスカは又も、悔しそうに話すが寂しそうでもあった。


「私が気付いたのも最近ね。もしかして、回復魔法士になりたいのかと思い、ライラに聞いてみたんだけど……」


 ライラはコスカに黙って、回復魔法士の勉強をしていた事を、泣きながら謝ったそうだ。

 決して、コスカの教えが嫌いになったという訳でなく、たまたま王宮回復士から回復魔法を教えて貰った際に、発動する事が出来た。

 発動といっても、若干体力が回復するだけだった。

 仲間を決して見放さない俺の姿を見ていたライラは、これも運命だと思う。

 コスカに言おうとしたが、なかなか言い出すタイミングが無く、ライラが言い出す前に、コスカが先に知ってしまった。


「そういう事なら、ライラは賢者なのか?」

「違うわよ」


 賢者とは攻撃魔法と、回復魔法の両方を使える事が当たり前だ。

 しかし、ライラの場合は攻撃魔法に回復魔法共に、基準となる強さまで達していない。

 魔法士や回復魔法士の中には、極稀にライラと同じような適性を持った者が居るそうだが、両方を実用レベルまで上げることは至難の業らしい。

 だからこそ、賢者という存在は希少な存在なのだろう。

 当然、ライラも賢者というレベルには達していない。

 少し回復魔法が使える、少し強い魔法士という位置付けになるのだと思う。


「ライラは、寝る間も惜しんで頑張っていたわよ」


 コスカが寝た後でも、一人で魔法書や、歴史等の本を読んだりしていたそうだ。

 賢い者と書いて、『賢者』だ。

 そう考えると、ステラは凄い冒険者なのだと改めて思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る