第554話 ノゲイラ!

「今回のノルマは何人だ?」

「それなりの年齢の男を四人と、売買用の女が二人だな」

「男は賭博用か……それなりに楽しめそうな奴で無いと、ノゲイラ様から文句言われるな」

「そうなんだよな。あっと言う間に死ぬと、御客からブーイングだからな」

「そんな奴は、もう此処には居ないだろう」

「外から新しい奴を調達するしかないよな」


 笑いながら話す男達。

 話の内容からすると、奴隷商人のようだ。

 ここは、奴隷達を一時的に住まわせている地区のようだ。

 そして、闇闘技場も関係している事が明らかになった。

 先程の子供達は、この商人達に捕まらない様に隠れた事も理解する。

 しかし、捕まっても地獄。この状況で生きていても、地獄だ。

子供達に明るい未来は無い


「今日は適当に巡回して、戻る事にするか?」

「そうだな。明日、捕まえればいいだけだしな」


 奴隷商人の男達は笑っていた。

 俺は、この奴隷商人達の後を付いて行く。


 奴隷商人の男達は、この辺りでは不釣り合いな建物の前で立ち止まる。

 鍵を開けて、建物の中に入った。

 建物の中には、地下へと続く階段があり話しながら男達は下りて行く。

 地下には長い廊下というより、坑道に近い感じの道が続き、途中に鍵付きの扉が設置されていた。

 二つ目の鍵付きの扉を開けると、異臭がする。

 扉の向こうには左右に鉄格子付の部屋がある。


 一つの部屋に数人が閉じ込められているが皆、元気が無い。

 地上の子供達と違うのは、奴隷契約のアイテムが装着されている。

 閉じ込められていた者達は、男達の気配を感じて怯えていた。


「ったく、お前等が簡単に死ぬから、俺達が忙しくなるだろうが!」


 憂さ晴らしでもするかのように怒鳴り、鉄格子を蹴る。

 その動作で更に、閉じ込められている者達は怯える。


 俺はクロに連絡をして、地上に居る子供達を助ける事を伝えると、すぐに行動に移すと答えてくれる。

 しかし、クロがいきなり現れて、影の中に収監されるのは流石に驚くだろうと思い、俺が一度会話を試みる事にする。

 クロには、とりあえず子供達の居場所を全て確認する事を頼む。

 又、作戦開始と同時に、此処に居る者達を優先で助け出すようにも伝えた。


 鉄格子越し向こうの奴隷達も、子供しか居ない。

 先程の奴隷商人の話から、大人から優先的に殺されていったのだろうか?

 奴隷達を威嚇する、奴隷商人達を見ながら考える。


「おい、そろそろ戻らないとノゲイラ様に叱られるぞ!」

「おぉ、もうそんな時間か!」


 男達は急いで、奥へと走って行く。

 向かった先には、闇闘技場のようで奴隷が闘う場所には既に、大勢の奴隷商人らしき者達が待っていた。

 話を聞く限り、生誕祭前の大きな興業の件でノゲイラから話があるようだ。


 暫くすると大きな銅鑼の音が響き、入場口らしき所から奴隷の男達数人が椅子を担いで登場する。

 椅子に座っているのがノゲイラだと、周りにいる奴隷商人達の話から分かる。

 ノゲイラの両脇には綺麗に着飾った女性が座っている。

 首に奴隷の証であるアイテムが装着されているので、彼女達も奴隷なのだろう。


 ノゲイラが座った椅子は、観客席の方に移動して用意されている高台に上がっていく。

 ノゲイラを担いでいる奴隷達は、とても辛そうだった。

 高台を上がりきると、集まった者達の誰もがノゲイラの姿が見える。

 ノゲイラは椅子から立ち上がると、大きな歓声が沸く。


「お前等、明後日の興行は一年で一番デカいから、気合を入れろよ!」


 ノゲイラが叫ぶと、歓声は更に大きくなるが右手を上に上げると、歓声は止む。

 静かになるとノゲイラは三人の男の名を呼び、自分の所まで来るように叫ぶ。

 呼ばれた男達は、ノゲイラの指示通り台へと上がって行った。

 ノゲイラは最初の男に、前回興行で調達した魔獣の評判が良かったと言い、両脇に居た女性を褒美だとその男に突き出した。

 女性達は言われるがまま、その男の元に行き跪いた。

 ノゲイラと男の間で、儀式のような事をしていたが多分、奴隷譲渡に関する事だろう。

 儀式が済むと、男は女性二人を連れて台から下りる。

 次に残り二人の名を呼ぶと、男達は褒美が貰えるのだと笑みを浮かべていた。


「お前たちには、これをやろう」


 そう言うと、ノゲイラは笑いながら男達を台から突き落とした。

 男達は鈍い音を出して、観客席の椅子に激突する。

 誰もが、突き飛ばされた男達が死んだ事を理解する。

 そして、静まり返った奴隷商人達を見下ろしながらノゲイラが発言する。


「たいした働きをしない奴はこうなる。今晩中に、自分が何をすべきか思い出せ」


 隣の奴隷商人が生唾を飲み込む音が聞こえた。

 突き落とされた男は、明日の自分だと思ったのかも知れない。

 俺は、嫌な予感がしたので前言撤回して、急いで地上に居る子供達の保護をクロに頼んだ。

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