第547話 作戦会議-5

 部屋の外に居る騎士が、ルーカス到着を俺達に伝える。

 ソディックの返事でルーカスが入って来た。

 正確にはルーカスと、アスランに大臣のメントラ、それに冒険者ギルドのギルマスであるジラールと、面識の無い狸人族の男性の五人だった。

 ソディック達は一斉に頭を下げる。

 俺も一瞬遅れて頭を下げた。


「面を上げよ」


 ルーカスの言葉で俺達は頭を上げる。


「とりあえず、詳しく説明をしてくれるか? 今回の件で冒険者ギルドと商人ギルドのグランドマスターにも同席して貰う事とした」


 狸人族の男性は、商人ギルドのグランドマスターのようだ。


 ソディックが説明を始める。

 クロもソディックから言われて、タルイの状況を説明した。


「なるほどの……」


 ルーカス達は深刻な面持ちで、クロの地図をじっと見ている。


「ジラールに、オイラルよ。ギルドとしてどう考える」


 ルーカスが各グラマスに意見を聞く。

 商人ギルドのグラマスは、オイラルと言うらしい。


「お恥ずかしい話ですが、タクトから情報を得てジョイナスからの報告を受けて、今回の件が判明致しました」


 ジラールは申し訳なさそうに話す。

 しかし、今回のように領主が関わっていた場合、発見するのは難しいとも話す。

 処分については、ルーカスに一任するそうだ。

 続けてオイラルが、商人ギルドとしての考えを話す。


「今回の件は、商人ギルドとしても、冒険者ギルド同様にお恥ずかしい話になります」


 ジラール同様に、領主と関わっている事で隠蔽しやすい為、発見が難しいと話す。

 それと本来、奴隷とはいえ人権がある事や、人格を否定するような行為は無い事が条件だとも言う。


「いやいや、奴隷は人以下の扱いで、自分自身の命の選択等出来ないぞ」


 俺はオイラルの話に口を挟む。


「タクト殿でしたね。それはどういう事でしょうか?」


 俺は今迄の奴隷商人達の話をする。

 勿論、自分の意思なく奴隷契約までしたルンデンブルク領主ダウザーの娘ミクルや、セルテートの妹リンカの件を話す。

 それと禁止されているエルフを奴隷にした事も話した。


「それは本当ですか?」


 オイラルを俺が嘘でも言っているかのように答える。

 信じられないのも無理は無いかも知れない。


「オイラルよ。タクトが言っている事は全て本当だ。エルフ族との交渉もタクトに頼んでおる」

「そっ、それは本当で御座いますか!」

「あぁ、証言は全て揃っておる。それにナーブブル領領主のロスナイの屋敷から大量の女性の死体が発見されておる。女性達は全てタルイから運ばれている事まで調査積みだ」

「そんな、馬鹿な」


 オイラルは信じられない顔をしていた。


「オイラルを責めるつもりは無いが、商人ギルドや奴隷制度が殺人の隠れ蓑に利用された事も事実だ」

「……それが国王様が奴隷制度を廃止したい理由ですか」

「全てでは無いが、自分の意思に関係なく奴隷にされるのであれば、制度の根本に関わる問題だろう」

「確かにそうです……」

「オイラルよ。お主も奴隷制度を良くは思っておらんのだろう。商人ギルドのグラマスとして、今回の責任も踏まえてどうするかを考える時期に来ているのでは無いのか?」


 オイラルはルーカスの問いに答えられないでいた。

 しかし、ロスナイに殺された女性達が、タルイから調達された事まで調査済とは驚いた。


「まぁ、良い。今回の件が終わってから、奴隷制度の見直しは考えるとしよう」

「はい……」


 オイラルは思っていた以上の事を聞かされて、困惑しているようだった。


「俺から質問をさせて貰ってもいいか?」

「はい」


 俺は奴隷制度について、もう一度聞く事にした。

 オイラルは奴隷商人と呼ばれる者達には、必ず守らせる項目があるそうだ。

 まず、奴隷とはいえ人であるので、必ず人として扱う事。

 そして、食事を与える事や、住居か部屋の確保。

 これは、奴隷を売る際にも必ず購入者にも約束させるそうだ。


「それは建前だけで、今は守られていない事の方が多い事は、商人ギルドのトップに居るグラマスが知らない訳ないよな」

「それは……」


 オイラルとしても認識はしていたが、見て見ぬ振りをしていたのだろう。

 昔から慣例化されていたのだろうと思う。

 組織が大きくなれば、こういった事もあるのは間違いない。

 しかし、奴隷商人は商人ギルドに所属しているとはいえ、独自の組織のようにも思える。

 商人ギルドの影響力が、どこまであるのかさえも疑問だった。

 オイラルを追い詰める気は、さらさら無い。

 俺的に商人ギルドと奴隷商人との関係をはっきり確認したかっただけだ。


「タクトよ。先程、余も申したが、その問題は後でも良いか?」

「あぁ、そうだったな。中断させて悪かった」


 俺はルーカスに謝り、ソディックに作戦の続きを話して貰う。

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