第546話 作戦会議-4

「クロ、今迄の調査内容を皆に説明してくれるか?」

「分かりました」


 クロは紙を一枚出して、机の上に広げた。


「これがタルイの街の地図になります」


 広げられた地図を見て皆、驚く。

 当然、俺も同じだった。


「街の入口は全部で二か所です。そしてここが、領主の館になります。」


 領主の名は『エランノット・タルイ』と言い、代々タルイを統治してきた家系になる。

 貴族の中でもかなり高い地位にいるそうだ。

 俺とライラ以外は、知っている雰囲気だった。

 エランノットの代になり、街がかなり成長をしたそうで、商人の往来も激しく珍しい物が手に入ると、貴族達の間でも評判が良い。

 タルイの商人ギルドは、そう言った貴族達への影響も大きい為、商人ギルドに所属していながらも、独立した組織で運営をしている。

 ノゲイラは奴隷商人だけでなく、タルイの商人ギルドを牛耳っているそうだ。


「ジョイナス様達も御存じですよね」

「あぁ、グラマスから調査するように言われていたからな」


 ジョイナスとクレストは、グラマスであるジラールから、タルイの冒険者ギルドの調査を依頼されていた。

 表だって調査と言う訳にもいかないので、クエスト帰りに街に寄ったという事にした。

 タルイを調査してみたが、冒険者ギルドとして機能はしておらず、無法者の集まりに近いという感想だった。

 ただし、冒険者の中でも格差があり、ランクの低い冒険者等は一見、冒険者とは分からない恰好で顔色も良くなかった。

 ジョイナスが話し掛けても「大丈夫」とだけ言い、何かを隠している雰囲気だと感じる。

 街の人達も、冒険者や商人に逆らえないので怯えながら生活をしているようだったと教えてくれた。

 タルイの冒険者ギルドのギルマス『ザボーグ』はジョイナス達が街に入った事を聞かされると、早々にジョイナス達のもとを訪れて、接待をしようと試みる。


「王都へ戻る帰りに、立ち寄っただけだ」


 ジョイナスは誘いを断る。

 二日滞在してタルイを離れて王都に戻り、ジラールにタルイの事を報告をする。


「今回は、ザボーグの件も含まれている」

「そうなのか?」


 知らないのは俺だけかと思い、周りを見る。

 しかし、コスカや三獣士も首を横にふっていた。

 どうやら、ジョイナスとソディック以外は知らなかったようだ。

 作戦会議と言いながらも、目的があやふやな気がする。

 これがこの世界の常識なのだろうか?

 どちらにしろ、タルイの冒険者が一般人にまで危害を加えているのであれば、冒険者ギルドという組織として責任を取らなければならない。

 話が途切れるとクロは、商人ギルド会館の位置や、歓楽街等を細かく説明してくれた。

 商人ギルドには、奴隷商人が常時居るそうで、タルイでまともに商売をしている商人達は寄っても来ないそうだ。



「そして、此処が闇闘技場になります」


 クロが闘技場の場所を指差す。


「闇闘技場?」

「あぁ、奴隷同士を掛けの対象として戦わせたり、余興で魔獣と奴隷を戦わせたりしている」

「なんですって!」


 ソディックの問いに俺が答えると、コスカが驚きの声をあげる。

 クロは続けて闇闘技場は定期的に開催されて、その度にエランノットやノゲイラが招待した人物のみ入場を許可される為、外部に秘密が漏れる事は無い。

 調査中にも一度開催されていた。

 しかし、近辺の者だけで開催された小規模なものだったらしい。

 今回の大規模な催しが開催される為、招待客の多くはこちらを訪れるそうだ。


「それは許される行為ではありませんね」


 ソディックは冷静ながらも、言葉に力が籠っていた。


「お気に触るかも知れませんが、闇闘技場の魔獣は主でなければ倒すのが難しいかと思われます」


 クロがここまで言うからには、確認があっての発言だろう。


「……どんな魔獣が居た」


 感情的なセルテートが、冷静な口調でクロに質問する。

 クロは自分が発見した魔獣の名を言っていく。

『ポイズンマンティス』『アシッドリザード』『ソニックタイガー』『ガーゴイル』『オーク』『ゴブリン』『コカトリス』『アルミラージ』……。

 俺が思っていたよりも多い。

 余興で、魔族同士を戦わせる事もあるそうなので、様々な個体を確保する必要があるのだろう。


「しかし、ポイズンマンティスとアシッドリザードに、ソニックタイガーは厄介ですね」


 ソディックが難しい顔をする。


「いや、ガーゴイルやコカトリスだって厄介だぞ」


 ジョイナスも険しい顔をする。


「大丈夫で御座います。我が主であれば、単独で数分のうちに討伐出来ます」


 クロは笑みを浮かべながら話しの続きをする。

 この時点で、俺が単独討伐する事に誰も驚かなくなっていた。


「ちょっと、失礼」


 ソディックに【交信】が入ったようで、後ろを向き小声で誰かと話をし始める。


「ねぇねぇ、君ってやっぱり凄いんだね」


 クレストが俺に話し掛ける。


「さぁ、どうだろうな」

「またまた~!」


 揶揄うように話しかけてくる。

 今迄に会った事のない性格なので、対応に困る。


「クレスト。今は会議中なんだから、大人しくしてくれる」

「もう、コスカったら僕の方が可愛いからって嫉妬しちゃって」

「誰が嫉妬しているってですって!」


 コスカが烈火の如く怒る。

 それをライラやセルテートが止めていた。

 その光景を見て、クレストが笑うので余計にコスカが怒る。

 クレスト自身、悪気が無い様なので反省もしないだろう。


 話が終わったのか、俺達の方を向く。


「話しの途中でしたが、国王様がこの会議に参加をすると連絡がありました」

「……毎回、こういった会議には参加するのか?」

「はい。重要な案件については、必ず同席されます。今回は、別の会議があったのですが、そちらが終わったとの事です」


 俺の感覚では、担当者に任せておいて報告だけを聞くのかと思っていたが、国王自らが打ち合わせや会議に参加している事に驚く。

 ルーカスは、いつも暇なのかと思っていたのは、俺の勘違いのようだった。

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