第524話 特殊な期間!

 俺はアスランに『月が二つになる事』と『陽が昇る事が無い』二点を尋ねる。


「月が二つとは、『紅月』のことですね」


 通常の月は本来『黄月』と呼ぶそうで、紅月は黄月の二倍程の大きさで、街を赤く照らすという。

 その間は発光石も赤い光を発する。

 一説によれば、魔族が活発になるとも言われているらしい。


「この間は街の中でも夜間の外出禁止令が出ます。昼間でも街の外に出る事も当然出来ません」

「何か被害でもあったのか?」

「特にそういった事は聞きませんが、昔からの風習ですね」


 ロードの眼が紅い事と関係があるのだろうと、俺は思った。

 アスランが知らないだけで、もしかしたら魔族による被害が出た事もあるのかも知れない。

 【全知全能】に聞けば答えてくれるだろうが、知りたいとも思わなかったので聞かない事にする。


「もう一つは影の季節ですね」


 暗闇の時間が続く為、いつ頃からかその期間を『影の季節』と呼びようになったらしい。

 季節と言うには、一週間しかないと突っ込みを入れたくなったが、季節の概念が違う為だと堪える。

 アスランの説明だと、実際には輪になった陽の光だったり、黄月のように欠けた光が少しだけ照らすらしいが、その時によって異なるそうだ。

 俺の知っている『日食』だろうと推測出来たが、一週間も続くのは異常だと思えた。

 月でない他の物体に陽の光を遮られているのだろう。

 もしかして紅月かと思ったが、何でも知るのは夢が無いと思い【全知全能】には聞かなかった。

 この期間も外出は極力控える事になる。

 但し、冒険者等は街の外に出たりする事も可能らしい。

 この『影の季節』と呼ばれる一週間しか採取出来ない花が、あるのが理由だ。

 その花の名は『陽影花』と言い、素晴らしい花を咲かせるそうで、一部の貴族が観賞用にクエストを出すらしい。

 花自体は影の季節が終わると散る為、自分の力を誇示したい貴族は我先にと入手するそうだ。

 自分の専属冒険者の他に、冒険者ギルドへのクエストも出来る限り入手の確率を上げる為らしい。

 貴族によりクエスト報酬が異なるが、基本的にクエストは早い者勝ちだ。

 しかもこの『陽影花の採取』に至っては、複数クエストを出す貴族も居る。

 クエスト失敗による罰金も、依頼者権限で報酬の三分の一程度にしている事も多いらしいので、冒険者にとっては稼ぎ時になるそうだ。

 アスランも一度だけ陽影花を見た事があるが、綺麗だと感じたそうだ。



「このカレンダーなる物を貰っても良いですか?」


 アスランは俺に尋ねる。


「あぁ、いいぞ。日曜日の他にも、国として大事な日は休みにすれば国民も喜ぶかもな」

「そうですね。歴代国王の生誕祭の日ぐらいですかね」

「それでも良いんじゃないのか? まぁ、そこら辺は国王と勝手に決めてくれ。カレンダーも出来れば無料配布してくれると良いが、予算の関係もあるだろうから難しいかもな」

「そうですね。具体的な話になったらタクトに相談します」

「まぁ、四葉商会の仕事としてくれれば、喜んで相談には乗るぞ」

「そうですね。タクトは商人でもありましたね」


 アスランは笑う。

 俺が冗談で言っている事は、アスランも分かっていただろう。


「トランプにしても、このカレンダーにしてもタクトは凄いですね」

「前世の記憶があるからな」

「タクトの前世は、私達の世界と随分と違いましたよね」

「そうだな。便利な世界だったが、便利さを追求するあまり多くの物を犠牲にした気もする」


 産業機器が発展する度に、自然破壊が問題視されていた。

 死ぬ間際では、温暖化が特に問題視されていた。

 俺が前世の記憶で産業を劇的に発展させれば、同じ様な事も起こりうるだろう。


「悲しそうな顔ですね」

「そうか?」


 アスランからはそう見えたようだ。

 俺自身、この世界が好きだし気に入っている。

 この【呪詛】さえなければ、もう少し楽しい異世界での人生を満喫出来ただろうに……。

 久しく顔を見ていないエリーヌに対して、忘れていた怒りを思い出す。


(御主人様。そろそろ王都に着きます)

(そうか、ありがとうな。今から、飛行艇に戻る。)


「シロから連絡があったので、飛行艇に戻るか」

「はい」


 アスランは俺が書いたカレンダーの紙を急いで丸めた。

 カレンダーを懐に仕舞うと俺を見て頷いたので、俺はアスランを連れて飛行艇に戻った。

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