第525話 飛行体験!
「おぉ!」
飛んでいる飛行艇に【転移】しようとしたが、位置の把握が難しい為、全然違う場所に【転移】してしまった。
辛うじて、目視出来る範囲に飛行艇は居た。
「タ、タクト!」
隣のアスランは焦っていた。
俺はアスランの手を取り【飛行】のスキルを発動させる。
「悪い悪い、動く物体への【転移】は難しくてな」
アスランは俺の言葉よりも、自分の体が宙に浮いている事に驚いていた。
「これは【飛行】のスキルだ。空を自由に移動出来るから安心してくれ」
「私は空を飛んでいるんですよね」
「そうだな。今は飛んでいるというよりも浮かんでいるって感じだがな」
「このまま飛行艇まで飛ぶ事は可能ですか?」
「勿論だ。しっかり捕まっていろよ」
「はい!」
俺はアスランの腕を掴んだまま、飛行艇まで移動する。
早く飛行する事は可能だが、アスランの体の事もあるので、飛行艇を操縦しているシロに連絡する。
(シロ。少し速度を落としてくれ)
(はい、御主人様)
シロが飛行艇の速度を落としてくれたおかげで、アスランの腕に負担が掛からない速度で跳び、飛行艇に追い付く。
窓から俺とアスランの姿を見たルーカス達は、飛行艇の中から何かを叫んでいた。
どうせ、アスランの身を案じているので、俺への文句だろうと思う。
あまり長くこの状態でいると、余計と文句を言われるので、早々に飛行艇の中に【転移】する。
「今、戻ったぞ」
一応、ルーカス達に挨拶をする。
「タクト! お主は誰かを連れて空も飛べるのか!」
ルーカスは興奮していた。
「当たり前だ。俺が支えているからな」
どうやら、ルーカス達の認識では【飛行】のスキルは俺しか飛べないと思っていたらしい。
普通に考えれば分かる事なのだが……。
「そうか、タクトに頼めば空を飛ぶ事も出来るのか」
ルーカスは嬉しそうな顔をしていた。
「御兄様、空を飛んだ気分はどうでしたか!」
ユキノも興奮気味にアスランに質問していた。
「鳥になった感じで、とても気持ちが良かったよ」
「そうですか!」
ユキノは期待に満ちた目で、俺を見ていた。
それはユキノだけでなく、ルーカスやイースも同じだった。
ヤヨイは高所恐怖症なので、話を聞いて震えていた。
窓の外もまともに見られないので、空を飛ぶなんて行為はヤヨイの中では、ありえない事だろう。
「ユキノは、いつでも一緒に飛んでやる」
「ありがとうございます!」
ユキノは嬉しそうだ。
「タクトよ、余も空を飛びたいぞ」
「私もですわ」
ルーカスとイースが詰め寄ってくる。
「国王だったら、飛行石を集めれば飛ぶ事等、造作も無い事だろう」
「何を言っておる。飛行石なんて手に入れるのも困難だ」
「そうなのか?」
思わずターセルを見てしまう。
「はい。飛行石自体が貴重な石です。実際、国として数個所持しておりますが、念じたとしても軽い物を少し浮かせる事位しか出来ません」
飛行石は握って念じると、その対象物を浮かせる事出来るらしい。
石の大きさや数で、浮かせられる物が変化する。
俺が飛行艇を製作するにあたり【全知全能】に確認した際に、大量の飛行石が必要と回答があったが、大量とは俺の思っていた以上の数だという事だ。
それなら、俺が石に【魔法付与】で【飛行】のスキルを使えば飛行石が出来るという事だ。
しかし、これは空を飛ぶという行為が誰でも出来る為、この世界のバランスを崩す一因になる。
「シロ。少しの間、この辺りを飛んでてくれるか」
「はい、御主人様」
シロは俺が今からやろうとする事が分かっているので、最低限の言葉で伝わる。
「じゃあ、まずは王妃からな」
「はい」
嬉しそうに俺に右手を出した。
俺はその手を握り、【転移】で飛行艇の外へと移動して【飛行】のスキルを使う。
「これは!」
髪が風に流されて、髪飾りが飛んで行くので【転送】で手元に戻して【アイテムボックス】に仕舞う。
他にも服の装飾品等も飛んで行く度に【転送】で拾う。
イースは、そんな事御構い無しに空を飛ぶ行為を楽しんでいた。
飛行艇を見ると、窓からルーカスが羨ましそうな顔で、こちらを見ていた。
仕方が無いので、イースに戻る事を伝えると残念そうな表情をするが、風を浴び過ぎて体調でも崩したら大変だと説得をすると、渋々了承してくれた。
「気持ち良いですわ。本当に楽しかったです」
飛行艇に戻ったイースは興奮気味に感想を述べていた。
「次は余の番じゃな」
嬉しそうなルーカスが俺に話し掛ける。
「ちょっと、待ってくれ。アスラン、服の装飾品で外れている物はないか?」
アスランと飛んだ時には気が回らなかったので、もしかしたら服の装飾品等を無くしている可能性がある。
「大丈夫ですよ、タクト」
確認をしたアスランが答える。
「余の番じゃな」
「まだ、待ってくれ」
俺は【アイテムボックス】からイースが飛ばした髪飾りや装飾品を出して、イースに手渡す。
「髪も乱れているし、ユキノにヤヨイで王妃の恰好を出来るだけ戻してくれ」
「はい」
流石に、爆発でもしたかのように広がった髪をそのままにして王都に戻る事は出来ない。
「もう良いか?」
「国王は先に、飛んで行きそうな装飾品は外しておいてくれ」
俺の言葉に、外せる物が無いと答えるので服を脱いで貰う事にする。
「何故、余だけこのような恰好なのじゃ!」
「それは服に高価な宝石やらを沢山着けているからだ。王妃でも大変だったんだぞ」
確かに、服を脱いだルーカスは少し間抜けな恰好だった。
「屈辱じゃ!」
文句を言うルーカスの手を取り、飛行艇の外に【転移】する。
「うおぉぉぉ!」
すぐに【飛行】を発動せずに、落下する気分を味わってみた。
真っ逆さまに落ちて行くルーカスの顔は青ざめていた。
下着姿の国王が悲鳴を上げて落ちて行く姿は、とても国民には見せられない。
俺はその様子を見ながら、笑っていた。
「もう大丈夫だ」
【飛行】を使い、飛行艇の高度までルーカスを連れて飛ぶ。
「タクト、さっきのは故意か?」
「まさか、一瞬だけスキルを使うのが遅れただけだ」
「一瞬だと!」
「あぁ、一瞬だ。落ちる恐怖で長く感じたのかもな」
ルーカスは腑に落ちていない様子だった。
「まぁ、そんな事より空を飛ぶ気分を味わった方が良いだろう」
「そうだな」
イースの時と違い、ルーカスには宙返りをしたり、飛行艇の一周するようにしたりしてアクロバティックな飛行をしてみた。
ルーカスは驚きながらも楽しんでいるように思えた。
しかし、下着姿ではしゃいでいる中年オヤジの腕を掴んで、空を飛んでいる事を冷静に考えると、なんとも言えない気分になる。
飛行艇の中に戻ると、ルーカスがもう少し飛んでいたいと文句を言ってくるので、イース同様に体調を崩す可能性がある事を伝える。
ルーカスは何か言いたそうだったが、王妃であるイースが了承したのに、国王である自分がこれ以上我儘は言えないと観念したのか、渋々承諾した。
ルーカスが小声で「今度又、頼む」と言ってきたが、聞こえないふりをしてシロの居る操縦席へと移動した。
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