第523話 カレンダー!

 アスランと話をしていると、マリーから連絡が入る。

 午前中にはグランド通信社との仕事が終わるので、迎えに来て欲しいとの事だった。

 俺も王都に居るので用事が終わったら、そっちに寄る事を伝える。


「タクトは相変わらず忙しいですね」

「貧乏暇なしってやつだな」

「貧乏暇なしとは?」


 俺はアスランに『貧乏暇なし』を説明する。


「貧乏だと生活するだけで精一杯だ。朝から晩まで働く為、他の事をする余裕が無いって事だ」

「タクトは、そんなに貧乏ですか?」

「それは、言葉のあやだ。この世界の大多数は、働かなければ生活出来ない。遊んでいる余裕は無いだろう」

「そうなのですか?」

「そうだな。多くの者は休むという概念が無いから、誰もが必死に働いている」

「何故、休まないのですか? 体を壊したら大変では?」

「休めばその分、収入が減るからだろう。余裕のある生活をしている者等、極少数だ」


 冒険者は自分で働く環境を決める事が出来る。

 冒険者ギルドで働く者達も、数日に一回休みを取っている。

 しかし、個人で商売をしている者達の多くは年中無休で働いているのが実情だ。

 家族サービス等と言う言葉は存在しない。

 四葉商会のように、店自体休みを取っている事は珍しい。

 大手のグランド通信社等は、当然別だ。


「そうなのですね。それは知りませんでした……」


 アスランは又、深刻な顔をしていた。

 余計な事を言ってしまったと思いながらも、悩んでいるアスランを黙って見ていた。


「王国として、必ず休みを設けるのは、どう思いますか?」

「悪い事では無いが、休みを設けてもその休みで収入を得ている商売もあるから、強制は出来ないだろう」

「たしかに、そうですね……」

「しかし、アスランの考えは良いと思うぞ。提案しなければ、先に進まない事もあるからな」

「タクトにそう言って貰うと嬉しいですね」


 そもそも、この世界には暦が無い。

 ルーカスを祝う生誕祭にしても、空にある月らしき物体の満ち欠きで、大体の日を決めているそうだ。

 国民も満ち欠けの回数で、自分の生まれた日を算出している。

 月が十三回満ち欠けすれば、一つ歳を取ると以前に聞いた事がある。

 民家の柱に傷が有るのは、月の満ち欠けを記録する為だとも、その時に聞いた。

 数を数えれない者は、傷の数で歳を把握している。


 俺は【全知全能】に、前世のカレンダーと同様の物が作成可能かを質問する。

 答えは『作成可能』だった。


 俺は【アイテムボックス】から筆記用具を取り出して、【全知全能】の回答通りに数字を書いていく。

 ひと月は二十八日。一年は十二ヶ月だ。

 前世のように月の日が異なる事も無く、閏年のように年単位で調整する事も無い。

 只、気になったのは四年に一度、一週間だけ月らしき物が二つになる時期があるそうだ。

 他にも、陽が昇る事が無い時期が一週間ある。

 その時期も変わる事が無いらしいので、カレンダーに書き込む。

 ついでに月の満ち欠きも絵で表現する。

 カレンダーの語源は『叫ぶ』だったと思うが、この際『カレンダー』と言う言葉で統一しようと思う。


「これは何ですか?」

「その前に、夜に空に浮かんでいる物体は何だ?」

「月の事ですか?」


 この世界でも『月』と言うらしい。

 多分、俺のスキル【言語解読】で分かりやすい言葉に変換されているのだろう。

 俺はカレンダーの説明をアスランにする。

 そして、六日働けば一日を休みにする事にする。

 強制力は無いが、働く上での目安になればと思っている事も伝える。

 生産職の物が休みの日には、商売する者は働いても良いが別の日に休みを取れば良いだけだ。

 これがあれば、店の定休日も明確になるだろう。


「確かに、これは分かりやすいですね」


 今迄、誰も作成しようと思わなかった事も驚きだった。

 魔法研究所の研究者達であれば、作成可能だと思ったが誰も興味を示さなかったのだろうか?

 そもそも、時間と言う概念で研究をしていないのだから、作成する事さえも頭に浮かばなかったのだろう。


「そうだな。今度の国王の生誕祭の月を一月として、生まれた日を一日にすれば、分かりやすいだろう」

「そうですね。それですと私の誕生日は……」


 指で数えながら、自分の誕生日を探していた。


「月の満ち欠けも書いてあるので、分かりやすいですね。この月と日で分けるのは、とても良いですね」


 自分の誕生日を指差しながら嬉しそうに話す。


「ところで、この日月火水木金土と言うのは何ですか?」

「あぁ、これか」


 流れでつい書いてしまった曜日だが、日曜日は基本休みの日で、他は区別するだと説明をする。


「そうですか、曜日と言うのは良く分かりませんが、呼び名が定着すれば使い勝手が良いかも知れませんね」


 曜日と言う概念が無いので、どのように使われるか分からないだろう。

 時間と言う概念はあるのに、おかしな事だと思いながらも、アスランとの会話を続ける。

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