第512話 思わぬ伏兵!

 四葉孤児院に到着した俺は、家の中から聞こえてくる笑い声や泣き声等を暫く聞きながら、窓から中の様子を見ていた。

 周りに建物も無い為、声が良く響く。


「どうしたんですか?」


 孤児院の入口の扉が開き、サーシャが俺に声を掛けてきた。

 窓から誰かが俺の存在に気が付き、サーシャに言ったのだろう。

来る事は事前に聞いていたが、中に入らない俺が気になったようだ。


「外から孤児院の様子を見ていただけだ。気にするような事でも無い」

「そうだったんですね」


 サーシャが外に出てきたのが申し訳ないと思い、早々に孤児院に入る事にした。

 俺が孤児院に入ると、子供達が元気良く挨拶をしてくる。


「もう、寝る時間だろう?」


 小さい子は、無理して起きているのか眠そうにしている。


「タクトさんが来るので、挨拶する為に起きていたんですよ」

「そうか。遅くなって悪かったな」


 俺は外に居た事を少し後悔する。


「じゃあ、もう寝ろよ」

「うん……」


 眠そうな子供達は、サーシャに連れられて眠る為に、部屋へと歩いて行った。

 サーシャと子供達を見ていると、院長のサジとサーシャの夫であるクルーニーが向こうから歩いて来た。


「お久しぶりです」

「久しぶり」


 クルーニーが俺に挨拶をするので、俺も返す。

 そのまま、院長の部屋へと案内をされる。


「用事と言うのは?」


 俺が座ると同時に、サジが用件を聞いてきた。


「その前に、困っている事は無いか?」

「はい。それは大丈夫です。領主様からも色々と、良くして貰っています」

「そうか」


 リロイも、あれから孤児院の事を気に掛けてくれているみたいだった。

 俺は、此処に訪れた用件を話す。

 用件とは、孤児院の子供達の勉強についてだ。

 今、冒険者ギルド会館で働いている受付長で、ジークのギルドマスター代理も務めた事のある元冒険者のイリアを教師として、子供達に勉強を教えたい事を伝えた。

 サジ達にしてみれば、勉強しておけば将来役に立つ事が分かっている。

 しかし、子供達にとっては今が楽しければという考えもあるので、勉強を嫌がる子供が居る。

 俺は手元にある最後のトランプを出す。


「これは?」

「トランプと言う物で、遊びながら数字を覚えることが出来る」

「はぁ」


 戸惑うサジ。


「ババ抜きと言うゲームを一緒にやってみるか?」


 サジとクルーニーとでババ抜きをする。

 最初にトランプの印や数字の説明を簡単にしてから、ババ抜きのルールを説明する。

 俺はトランプを配り、手札から同じ数字のカードを場に出す。

 サジとクルーニーも同じ様にして、ゆっくりと間違えないように場にカードを出す。

 ……ババは俺の手札にあった。

 サジがクルーニーの手札から一枚引く。


「同じ数字があれば、さっきと同じ様に場に出してくれ」

「残念ですが、揃いませんでした」


 笑いながら俺に報告をする。

 次にクルーニーが俺の手札を引くと揃ったのか、場にカードを出した。


「サジの負けだな」

「簡単なゲームとはいえ、負けると悔しいものですな」


 ゲームが終わると、サジもクルーニーも笑顔だった。


「確かに、このトランプであれば子供達も遊びながら数字を覚えられますね」

「そうだ。それにこういった遊びも出来るぞ」


 俺はババを抜いたカードを全て裏返して、机の上でシャッフルする。


「二枚めくって、数字が合えば場から取って、自分の手元に置いてくれ」


 神経衰弱を始める。

 何度も間違えながら、カードを記憶していく。


「あっ! それ覚えていたのに」


 覚えたカードを俺に取られたクルーニーが、悔しそうに呟く。


「これは難しいですな」

「記憶力が鍛えられるぞ」

「もう、これ以上は覚えられませんよ」

「まだ、半分以上残っているぞ!」

「朝までに終わりますかね……」

「それまでには終わりたいな」


 部屋に俺達の笑い声が響く。


「お父さん、何をしているんですか?」


 シュカとルリが、騒がしい声が気になり院長の部屋に入って来た。

 部屋の扉は開けっ放しだったので、余計と声が響いていたのだろう。


「悪い悪い。子供達は寝たのか?」

「さっき、やっと寝たわよ」


 二人共が元冒険者であり、繁盛していた夜の店を閉めて孤児院で子供達の世話をしてくれている。


「シュカとルリは、サジとクルーニーと一緒にやってくれ」

「……何を?」


 俺は簡単に神経衰弱の説明をして、十回程サジとクルーニーとで順番を回す。


「お父さん、私がやっても良いかしら?」

「おぉ、頼む」


 サジのサポートをしていたルリに交代する。

 交代したルリは、次々とカードをめくる。


「スキルを使うのは禁止だからな」

「使っていないわよ」


 笑いながら俺の言葉を一蹴する。


「まぁ、ルリは記憶力が良いからな」


 シュカが言うには、夜の店でも御客の顔や名前は勿論だが、会話の内容等も覚えていたそうだ。

 確かに、夜の街で有名だった店のチーママだ。これ位の事は出来るだろう。

 思わぬ伏兵が居た者だ。

 それから何回かで、サジとルリのコンビに俺は逆転される。


「これで最後ね」


 最後のカードをルリが捲り、ゲームが終了した。

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