第511話 徘徊!
食事が終わり、ルーカスがババ抜きの再戦をアルとネロに申し入れをしていた。
当然、アルとネロは断る事はせずに、乗り気でルーカスの申し入れを受け入れる。
「タクトも、やるのじゃ」
「悪いな。ちょっと用事があるんでな」
俺はアルからの、ババ抜きの誘いを断る。
「どこか行く所でもあるのか?」
「あぁ、ちょっと孤児院に顔だけ出そうと思ってな」
四葉孤児院には、イリアが勉強を教えてくれる事を伝えて承諾して貰う前に、意見を聞きたいと思っていた。
「それなら私も御一緒しますわ」
ユキノが同行を求めてくるが、親族が揃っているのでダンガロイやフリーゼの相手を引き続き頼む事にする。
それと上の階にラウムが居るので、顔を出してやって欲しいとも伝える。
「お主は孤児の面倒も見ているのか?」
ルーカスが孤児院に行く事に驚いた様子で、俺に話し掛けて来た。
「少しだけな。さっき、顔を出した姉妹も、その孤児院で生活をしている」
俺達が食事をしているとトグルが冒険者ギルド会館から戻ってきたので、ミランダとアルパの姉妹を四葉孤児院まで送って行って貰った。
その際に、俺に写真を渡すと言う目的もあったので、ミランダとアルパもルーカス達客人に挨拶をしていた。
トグルには後で俺が用事があるので、四葉孤児院に行く事を伝えて貰っていた。
アルとネロには、ルーカス達をネイトス領まで送り届けて貰う事を頼んでおく。
「なんじゃ、タクトが送って行ってはくれんのか?」
「もしかしたら遅くなるかも知れないし、国王達も早めに戻った方が良いだろう」
「……もう少し、このトランプなる遊びを満喫したかったのだがな」
「戻ってから仲良く家族でやればよいだろうが。アルとネロに勝てるように特訓した方が良いだろう」
「そうじゃ! 国王は特訓して、妾を負かせるようになるのじゃ!」
「そうなの~!」
「そんなに余は弱いか?」
「弱いぞ!」
「弱いの~!」
ルーカスはアルとネロに言われて落ち込んでいた。
「ほどほどにして、早めに戻れよ」
「分かっておる」
ルーカスは返事をするが、絶対に熱くなるに決まっている。
アルとネロにも早々に帰すように言っておく。
俺はアスランとヤヨイに、ルーカスとババ抜きを付き合ってやるようにと頼んでおいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
四葉孤児院まで、夜風を感じながら歩く。
時折、顔見知りの冒険者達が、酔っ払いながら挨拶をしてくる。
俺と言うよりは、後ろの女性に興味があるようだった。
「……どうして、セフィーロが付いて来るんだ?」
「いやぁね。夜の街を徘徊するだけよ。貴方とはそのうち、別行動するわよ」
「頼むから問題起こすなよ」
「本当に心配性ね。大丈夫よ!」
心配そうにする俺に笑顔で答える。
「よっ、タクト! 相変わらず、綺麗な姉ちゃんを連れているな」
かなり呑んでいる冒険者が話し掛けてきた。
「ただの知り合いだ」
「ただの知り合いだなんて、つれないわね」
セフィーロは、ふざける。
「タクトなんかより、俺と呑もうぜ!」
「あら、奢ってくれるのかしら?」
「勿論だ!」
「それじゃあ、お誘いに乗ろうかしらね」
「そうだぜ、好きなだけ奢ってやるぞ」
酒の力で気が大きくなっている冒険者は、セフィーロに下心丸出しで誘う。
セフィーロも分かっているだろうが、夜の街を楽しみたいのか、冒険者の誘いに乗る。
心配しても仕方が無いので「はいはい」と適当に返事をする。
「じゃあな!」
にやけながら、俺に勝ったかのような顔をしていた。
セフィーロは冒険者と一緒に、近くの酒場へと入って行った。
俺は「何も起きませんように!」と祈る気持ちで、その姿を見ていた。
もしかしたら、セフィーロも本当はこんな感じで、人族と接したかったのかと思う。
常に人族を信用して裏切られてきた為、簡単に人族を信用はしていないのは仕方の無い事だ。
しかし一方で、人族から受けた優しさを忘れていないのかも知れない。
これはセフィーロにしか分からない事だ。
セフィーロも口に出したりはしないだろう。
積み重ねてきた年齢の分、俺には想像も出来ないような事を経験している筈だ。
セフィーロから見れば俺など、赤ん坊と変わらない。
今迄の接し方を考えても、好戦的ではない。むしろ、俺に気を使っていてくれる気さえする。
敵か味方かであれば、味方なのは間違いない。
謎が多い方が女性としては魅力だと言ったセフィーロだが、謎が多すぎる。
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