第500話 水問題!

「久しぶりね」


 上級精霊であるウンディーネのミズチを呼び出す。


「悪いが、この井戸を見てくれるか? 水位が低くなっているらしいんだが、確認して欲しい」

「いいわよ。ちょっと、待っててね」


 ミズチは目を瞑り、井戸に掌を向けた。


「……おい。あの女性は誰だ」

「水の上級精霊ウンディーネのミズチだ」

「ウンディーネだと! タクト、お前は上級精霊と契約までしているのか」

「あぁ、成り行きでな」

「いやいや、成り行きで精霊と契約なんて出来ん。ましてや、上級精霊だぞ」


 ゾリアスは、必死で俺に語り掛ける。


「しかし、実際に契約してるしな。俺から契約したいなんて言っていないしな」

「……何をどうしたら、お前のような人間族が存在するのか、本当に不思議だ」


 ゾリアスの疑問に俺は的確に答える事が出来る。

 そう、答えは『神のしわざ』だ。

 しかし、答えをゾリアスに言う事は出来ない。


「まぁ、運が良いんだろうな」

「そうだな。お前を俺の常識の範疇で考えた事自体、俺の間違いだ」


 ゾリアスは自分が間違っていたと認める発言をする。


「分かったわよ」


 ミズチが調べた結果を教えてくれる。

 やはり、水位は下がっているそうだ。

 もう少し、深く掘れば安定して水を供給出来ると教えてくれた。


「そうか、ありがとうな。流石、上級精霊なだけあるな」

「勿論よ。あっ、それと大丈夫だと思うけど、掘り過ぎると源泉に当たるから、気を付けてね」

「源泉って、熱い水の事だよな」

「えぇ、そうよ。この辺りは火山も近いからね」


 ミズチの説明だと、温泉が作れる事になる。

 ……温泉か! これは良い事を聞いた。


「ゾリアス! 悪いがもう少し付き合ってもらって良いか?」

「別に良いが、何をそんなに嬉しそうな顔をしているんだ?」

「いや、ちょっとな」


 どうやら、俺自身も気付かなかったが笑っていたみたいだ。

 温泉に入れるとは思って居なかったので、思わず笑みが漏れたのだろう。

 とりあえず、井戸の問題を解決する為、井戸を深く掘る事にする。

 俺一人であれば、井戸の中に入る事が出来るので、井戸の中に潜る。

 俺の肩辺りに、小さくなったミズチが一緒に潜ってきた。

 流石、上級精霊だ。大きさも自由自在のようだ。

 底に手を当てて【掘削】をして、数メートル深く掘る。

 ミズチを見ると、頭を左右に振る。

 もっと深く掘る必要があるようだ。

 もう一度【掘削】で掘る。一度に深く掘らずに少しずつ掘った為か結局、同じ作業を三回繰り返したところでミズチが頭を縦に振った。

 俺はゾリアスの場所に【転移】して、水に【浄化】を施す。


「これで大丈夫だ。水の精霊であるミズチのお墨付きだ」

「ありがとうな。これで水不足に悩む事は無くなる」


 ゾリアスは安堵の表情を浮かべる。

 その表情は、村の事を第一に考える村長の顔だった。


「ミズチ。村の中で源泉の場所は分かるか?」

「当たり前でしょう」

「そうか。しかし、移動するとなると姿が見えるな」

「それなら、姿を消そうか?」

「可能なのか?」

「勿論よ。私を誰だと思っているのよ」

「そうだったな。それじゃ、案内頼むぞ」

「任せてよ」


 ミズチの案内で村を徘徊しながら、源泉の位置を教えて貰う。

 村の一番外れの場所で材料置場とゴミ置き場になっている場所を温泉の場所に決める。

 一応、村の商業施設の一区画になる場所なので、特別不便な場所でもない。


「この場所に建物を建てたいんだが良いか?」

「別に良いが、何を建てるつもりなんだ?」

「でかい風呂だ」

「……風呂?」


 この世界の風呂は、小さな桶に入る程度で、ゆっくりと入るといった風習は無い。

 俺が風呂と言っても、ゾリアスには「何を言っているんだ?」と言う感じなのだろう。


「まぁ、出来てからのお楽しみだ。と言っても出来るかどうかは、トブレに確認しないといけないがな」

「よく分からんが、お前の言う通りにしておく」

「ありがとうな」


 場所は確保したが、汲み上げる装置や排水の事を考えなくてはいけない。

 手押し井戸ポンプの事も含めて、トブレに相談する必要がある。

 それでなくても、色々と依頼をしているので申し訳ない。

 俺の依頼のせいで、村の建築工程に影響を与えるのは本末転倒なので、時間のある時にと再度、トブレに話す事にする。


 俺は想像してみた。

 村での作業が終わった後に、疲れを取る憩いの場になり、村民達が嬉しそうに温泉に集まってくる。

 種族に関係なく、同じ湯船に入り他愛も無い話をして、浴場を子供達が走り回り、危ないと大人達が注意をする。

 考えただけで楽しくなる。

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