第499話 音信不通!

 ゴンド村に戻り、ルーカス達と別れゾリアスと二人で井戸に向かう。

 井戸では老夫婦が、水を汲み上げる所だった。


「俺がやるよ」


 老夫婦の代わりに、井戸から水を汲み上げる。

 ゾリアスには、老夫婦の話し相手になって貰っている。

 水位の確認をしようと思ったが、元々の水位だったのかを知らない俺には確認する事が出来なかった。

 水を汲み終わると、老夫婦は俺に礼を言う。


「ついでに家まで運んでやる」


 俺とゾリアスは、老夫婦の家まで水を運ぶ。


「ところでタクトさん。フランは元気でやっておりますかな?」

「フラン?」

「この御夫婦はフランの御両親だ。お前も会った事あるだろう?」


 ゾリアスに言われるが全く記憶が無い。

 俺がフランとゴンド村を離れるまで、意図的にフランの両親を避けていた為、記憶に残っていない。

 この世界で自分の手で初めて殺したのが、フランの姉を含んだゴブリンに捕まった娘達だ。

 フランの両親は当然、俺が殺した事を知らない。

 ゴブリンに殺されたと、フランが報告していたからだ。

 罪悪感は無いと思っていたが、あの頃の俺はどのような顔をして会えば良いか分からなかった。


「そうだったのか。記憶に無かった、悪い」


 俺は両親に頭を下げる。


「いえいえ、私達もフランの両親としてタクトさんにお会いした事が無いので、覚えておられないのも仕方ありません」


 申し訳なさそうに話す。


「そう言って貰えると助かるな。それと、フランは元気だが連絡とかは無いのか?」

「はい。村を出て行ってから一度も……」

「それは、非道いな。俺からも連絡するように言っておく」


 忙しいので連絡をしていないのか、連絡するのが面倒なのかは分からないが、出て行った娘を心配するのは両親としての心情だろう。

 俺はフランの仕事を詳しく話す。

 勤め先は俺の所で、王族や貴族等の写真を撮ったり、グランド通信社から仕事を貰っている事等を話す。

 俺の話を聞いていたフランの両親は驚いていた。

 自分の娘が、王族相手に仕事をしていた等、夢にも思わないだろう。


「死んだ姉の分まで頑張っているんだろう」

「そうですか……」


 フランの両親の目に涙が浮かんでいた。

 フランの母親は、涙を拭う。


「それで、いい人は居るのでしょうか?」


 やはり、年頃の娘なので、早く結婚をして子供を産んで欲しいと思うのが、母親の気持ちなのだろう。


「どうだろうな。俺には、よく分からないからな」

「そうですか。幼馴染のロイドも、ジークで働いているので少しは期待していたのですが」


 フランの母親は笑っていた。


「まぁ、ロイドの仕事場とは目と鼻の先だからな」

「そうなんですね」


 フランの母親は、嬉しそうな表情になる。

 ロイドとの関係を期待しているのだろう。

 よく考えれば、俺がフランを連れて来れば良いだけだ。

 今、マリーと王都に居るので帰りにゴンド村に寄れば良いだけだ。

 音信不通な親不孝娘に説教をしてでも、村に連れて来る事に決めた。


「どうも、ありがとうございます」


 フランの両親から礼を言われて、水桶を置く。

 別れの挨拶を言って、その場から去る。


「老夫婦も皆、自分達で井戸から汲んでいるのか?」


 帰り道、ゾリアスに聞く。


「そうだな。大体の場合は、誰かが気付くので、お前のように家まで運んだりしている。今も俺達が運ばなくても、誰かが運んでくれただろう」


 この世界に、手押し井戸ポンプ等は無い。

 王都や、大きな街の主要施設であれば『氷水石』から水を溜めてたり、魔法士が水魔法で水を管理したりしている。

 大半は、共用の井戸や、自分の家に井戸を設けたりして水を確保している。

 そもそも『氷水石』は、発生場所等も不明で発見した場合は、高価な金額で王国に買い取られる事になっている。


「……手押し井戸ポンプでも作ってみるか」

「ん、何か言ったか?」


 俺の独り言を聞いたゾリアスが、言葉を掛けるが『手押し井戸ポンプ』の意味が分からなかったようだ。

 多分、【全知全能】に質問すれば製作する事が可能な筈だ。


「いや、独り言だ。それよりも……」


 俺達は井戸の場所に戻ると、周りから見えないように【結界】を張る。


「いずれは皆に知れ渡ると思うが、これから起きる事は内緒にしてくれ」

「分かった。どうせ、お前の事だから驚く事が起きるんだろう」

「さぁ、どうだろうな」


 俺はゾリアスの言葉に、笑顔で答える。

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