第501話 夕食の確保!
ゴンド村での俺の用事も終わり、ルーカス達にネイトスに戻る事を伝える。
「うむ、早々に戻るとしよう」
ルーカスが立ち上がると、王妃であるイースがルーカスに話し掛ける。
「国王様。夕食はどうなされるおつもりですか?」
「それは、義兄上殿のネイトス領で……!」
「使用人達には、明朝まで暇を与えたのですよね」
「……そうだった」
確かに、俺がロスナイを連れて帰って来た為、事態が急変した。
ネイトスの使用人には先程、戻った際に明朝まで暇を与えた。
料理人も同様だ。
かと言って、王都の料理人達も王族不在の為、料理の用意などしている筈もない。
もしかしたら、新しい料理の研究をしているかも知れないが、提供出来る料理は無いだろう。
ビアーノ達に用意して貰い、昼の宴会で出した料理も殆ど残っていない。
イースに言われなければ、俺も気が付いていなかった。
ルーカスと目が合う。嫌な予感しかしない。
「タクトよ。お主なら簡単に、料理を調達出来るだろう?」
「国王の口に合うような料理は用意出来ない」
俺の行動が原因ではあるが、食に五月蠅そうなので断る。
「タクト様。以前に連れて行って頂いたジークのギルド横の料理はどうでしょうか?」
ユキノが、良かれと思い提案をしてくる。
「そこの御主人は、料理長のライバルだったと聞いておりますので、味は問題無いかと思います」
確かに、ガイルは王国料理長であるビアーノのライバルだった料理人だ。
今でもビアーノを唸らせる料理を出している事も事実だが……。
「ユキノよ。そこは旨いのか?」
「はい。今迄、食べた事の無い料理ばかりでしたし、とても美味しかったです」
王族の口にする料理と、冒険者が口にする料理は違うので、ユキノは間違った事は言っていない。
「タクト。その店から料理を持って来てはくれぬか?」
「あの店は出前はしていないから無理だな」
ガイルの店で、持ち帰り等をしていたか記憶に無いが、断る口実として使う。
「それでしたら、私達が食べに行けば良いのですね」
イースは嬉しそうな顔だ。
「王族や貴族が入るような店では無いし、居たら他の客が委縮してしまうだろう」
連れて行ったら絶対に面倒な事になるので、必死で断る。
「ギルドの二階に部屋があるから、そこまで運んで貰う位は出来るじゃろう」
アルが何故か、ルーカスに有利な発言をする。
「それなら、問題無いな。決まりだな」
「いやいや、冒険者ギルドの部屋を使うのであれば、ギルマスに確認が必要だろう」
「……確かに、タクトの言う通りだな」
「そうだ、無断で使う訳にいかなだろう」
「ジークの冒険者ギルドのマスターに連絡をして、部屋の使用許可を貰ってくれ。勿論、余の名を出して貰って構わぬ」
断れば断る程、余計に面倒臭い状況になってしまった。
ルーカスの名を出して、断る事等出来ない。
何が何でも、部屋を利用出来るようにするのが目に見えている。
「分かった。ギルマスに連絡する」
諦めた俺はギルマスのシキブに連絡を入れる。
「久しぶりね、タクト。【交信】してくる位だから、面倒事でも起きたの?」
「あぁ、久しぶりだな。体調はどうだ?」
「あら、タクトが心配してくれるなんて珍しいわね。槍でも降ってくるんじゃないかしら」
「はいはい」
「お腹の子は順調よ。イリアには随分と助けて貰っているから感謝しているわ」
「それは冒険者ギルドの仕事でか?」
「主にギルマスの仕事ね。一応、ムラサキとトグルに教えているけど、なかなか難しくてね。はぁ……」
脳まで筋肉で出来ている二人に、事務処理等教えても、すぐに忘れてしまうだろう。
シキブやイリアの苦労が、手に取るように分かる。
「慣れてもらうしかないだろうな」
「そうね。誰かさんが、引き受けてくれれば断然、楽出来たんだけどね」
顔は見えないが、俺の事を言っているのが分かるし、シキブも断る前提で話をしているのも分かっている。
「それで、用件は何?」
「あぁ、冒険者ギルドの会議室を使わして欲しい」
「別に良いけど、いつなの?」
「今晩だ。ちょっと大人数で食事をしたいんだが、場所が無くてな」
「ガイルの店で食べれば良いんじゃない。何でそんな隠れて食べるような事を……」
シキブは話し終わる前に気が付いたのか、話を止めた。
「……隠れないといけない方々って事?」
「あぁ、国王一家とピッツバーグ家の二人だ」
「えっ! ちょっと、待ってよ。あんな、汚い部屋に国王様達を入れる訳に行かないでしょう」
「他に場所が無いから仕方が無いだろう。国王に冒険者と並んで食事しろとも言えないだろう」
「それはそうだけど……タクトの家で良いんじゃない」
「ガイルの料理は誰が運ぶんだ。そもそも、持ち帰り料理を出しているのか?」
「料理に寄るけど、持ち帰りはやっているわよ。タクトの家であれば、皿ごと運べば良いでしょう。勿論、運ぶのはタクトだけどね」
「それが面倒だから、会議室を貸してくれって頼んでいるんだぞ」
「あんな掃除もろくに出来ていない部屋に国王様達を入れるのは、ギルマスとして断固拒否します」
ここで、国王であるルーカスからの命令だと言っても良かったが、無理難題を押し付けている事は承知しているし、お腹の子に影響が出るのも申し訳ないので、引き下がる事にした。
「分かった。ガイルに十人前の料理を適当に幾つか作ってくれるように頼んでおいてくれるか?」
「それ位なら良いわよ。国王様にお出しする料理って言えば良い?」
「あぁ、それは言わなくて良い。俺が料理を貰う時に、ガイルに直接話をする」
「了解したわ」
シキブは自分に被害が無いと分かると嬉しそうな声で【交信】を切った。
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