第495話 小悪党!

「胸糞が悪くなる程、面白い話だな。少ないが個人的に礼をやる」


 小悪党ほど自分の自慢をしたがる。

 本当の悪党は、自分の自慢等決してしないと前世のテレビか何かで見聞きした覚えがある。

 そういう意味では、ロスナイは小悪党なのだろう。


「まぁ、俺の凄さが分かるだけ、お前も見所があるけどな」


 ロスナイは褒められる度に、気分を良くしていた。

 俺は【結界】を解く。


「後ろを見てみろ」


 俺の言葉に意気揚々と、ロスナイは後ろを見る。


「そんな馬鹿な……」


 先程まで誰も居なかった場所に、ルーカスやダンガロイ達が現れた為か、顔から血の気が引いていた。


「もう、動いても喋っても良いぞ」


 ルーカス達にも【結界】が解かれた事が分かったようだった。


「我が弟とはいえ、許される行為では無い」


 怒りで今にも襲い掛かろうとする勢いで、ダンガロイはロスナイに近付く。


「兄上。あれは嘘ですよ。本気だと捉えないで頂きたい」


 ロスナイは必死で弁明を始めるが、その言葉に誰も耳を傾ける者は居ない。

 フリーゼも怒っているが、夫であるダンガロイの怒っている姿に驚いているようだ。


「自業自得だな」


 笑いながら話す俺を、ロスナイは睨んできた。


「くそっ! 俺を騙したな」

「騙してはいないぞ。悪党に悪党と言っただけだ」


 ロスナイは動こうとするが手足を縛られているので、身動きが取れない。

 俺はロスナイから見えないように【アイテムボックス】から剣を出して、ダンガロイとロスナイの間に放り投げる。

 ダンガロイは迷う事無く、その剣を手に取った。

 その怒りに満ちたダンガロイの姿を見たロスナイは、慌てふためいていた。

 ダンガロイが致命傷さえ与えなければ、何度でも治療を施すつもりだ。

 剣を振りかざそうとするダンガロイだったが、剣を振り落とす事は無かった。

 殺人という行為が出来ないのか、実弟を切るという行為が出来ないのかは分からなかった。

 暫くすると、ダンガロイは剣を地面に突き刺して黙り込む。

 不甲斐無い自分を許せないのであろう。


 その時、シロから連絡が入る。

 どうやら、シロも調査に同行した様で、その報告だった。

 ロスナイの供述通り、多くの死体があった。

 屋敷の使用人から話を聞いたり、死体処理の男も確保したそうだ。


(詳しい事は、別途連絡があるかと思います)

(そうか、わざわざありがとうな)


 シロに礼を言う。


「まぁ、こんな男の為に手を汚す事は無いだろう」


 俺はそう言って、ダンガロイの傍まで行くと剣を手にして、ロスナイの左肩に剣を刺す。

 ロスナイは悲鳴を上げる。


「お前が奴隷達にした事と同じだろ。同じ事をされた気分はどうだ?」


 俺は少し笑みを浮かべながら、刺した剣を回しながら奥に入れる。


「なっ、何を言っている。あの奴隷達は私が買った物だ。買った物をどうしようが、私の勝手だろう」


 同じ人族でありながら人を人として扱わないロスナイには嫌悪感しかなかった。

 俺はそのまま剣を押し込み、ロスナイの体を貫通させて剣を抜く。

 ロスナイは悲鳴を上げるが、俺は気にせず刺さった剣を回転させる。

 森に悲鳴が響き渡る。

 俺は剣を拭き、ロスナイの傷口を塞ぐ。

 痛みが無くなったロスナイは驚き、ほっとした表情を浮かべる。

 ロスナイが俺に何か言おうとするがその前に、左の太ももに剣を刺す。


「ぐあぁっ!」


 刺された痛みでロスナイは、動こうとする。

しかし、太ももに剣が刺さった状態なので、動くと余計に傷口が広がる。


「俺は落ちていた物に剣を刺しているだけだ。さっき、お前が喋った事と同じだよな」


 ロスナイに向かって見下すように話す俺は、さぞかし悪い顔をしているだろう。


「私は人だ! そして、お前のような者とは立場が違う貴族だ!」


 痛みに耐えながらロスナイは、俺に向かって怒鳴る。


「奴隷だって人だろう? それにお前が貴族だという証拠はあるのか?」

「兄上! コイツに私が貴族だと言ってやって下さい」


 ダンガロイに助けを求めるロスナイ。

 しかし、ダンガロイは微動だにしなかった。

 当たり前だろう。 自分の子供を殺して、妻も殺そうとした奴を助ける義理は無い。


「国王様! ナーブブルの領主のロスナイです」


 実兄のダンガロイの助けが無いと思い、国王であるルーカスに助けを求めた。


 しかし、ルーカスが誰かと【交信】をしていた。

 調査隊の報告なのだろうと推測は出来た。

 ロスナイの声に気付いたルーカスは【交信】を終える。


「今、お主の屋敷で大量の死体が発見された」

「それは、奴隷で御座います」

「奴隷の証である『奴隷アイテム』は見つかっておらぬ」


 ロスナイは驚いた顔をしていた。


「先程より、お主が奴隷だと言っていた者達だが、実際は奴隷で無い事が判明した」


 ルーカスは憤慨していた。

 俺の予想だが、気を利かせたシロが調査隊の先回りをして、奴隷アイテムを回収したのだろう。


「えっ! そんなはずは腕に奴隷の証拠である腕輪がある筈です」

「そのような物が付いている者は、居なかったと報告が入っておる」


 夢でも見ているように、ロスナイは呆然としていた。

 その場でルーカスの口から、領地の没収と爵位の剥奪が言い渡される。


「国王様、待って下さい。何かの間違いです」


 痛みに耐えて必死に訴えるロスナイだが、俺が剣を刺したままだし、手足も拘束されているので動く事は出来ないでいた。

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