第494話 悪党への尋問!

 俺は森に入ると樹に手を当てて、リラに少しの時間だけ森を借りる事を伝えた。

 リラからの回答は無いが了承してくれている事だろう。

 そもそも、俺が事前に話を通した方が良いと思っただけなので、俺が伝えなくてもリラなら状況を分かる筈だ。


「ここら辺で良いだろう」


 俺は木々が無い場所で皆を止める。

 とりあえず、ロスナイの前には俺だけが姿を現して、他の者は後ろで待機してもらう。

 絶対に手を出さない事と動かない事を念押しする。

 【結界】を張って、ロスナイからは見えないような処置をあらかじめしておく。

 ロスナイの姿や声は、ルーカス達には普通に見えている。


「じゃあ、開くぞ」


 俺はそう言うと、袋からロスナイを出す。

 まだ、痺れているのか俺を睨みながらも身体が痙攣していた。

 俺はロスナイの手足を縛り、自由を奪った後で【治療】を施して、麻痺を解く。


「お前、何者だ! 貴族の俺にこんなことして許されると思っているのか!」


 ロスナイの第一声は、やはり文句だった。


「いやいや、あんたの噂を聞いて、誰にも聞かれたくない場所まで来て貰う為だ」


 そう話す俺をロスナイは睨んでいる。


「まぁ、これは詫びだ」


 そう言って、俺は先程【アイテムボックス】から出した金貨を何十枚とロスナイの前に放り投げる。

 しかし、貴族のプライドなのか直ぐには金貨を拾う事は無かった。


「お前の目的は何だ」


 先程までの感情に任せた話し方と異なり、俺の出方を探るように話しかけて来た。


「そうだな。まず、殺害した奴隷の処理方法についてだ」

「……何の事だ」


 当たり前だが、ロスナイは惚ける。


「おいおい、俺がなんの確証も無しに話をする訳無いだろう」


 ロスナイは沈黙を貫く。


「カランから、あんたの事は聞いている。まぁ、俺の質問に答えなければ殺しても構わないと言われているし、あんたが死ねばその金貨も俺の物だから殺しても良いんだけどな」

「カランだと!」


 敢えて、同じ貴族のカランの名を出す。

 プライドの高いロスナイだ。カランの名を出せば対抗心を出す可能性が高い。


「カランがどうして、俺をさらうんだ?」

「なんでも、ノゲイラから奴隷の調達が出来ない理由が、あんたが何人も奴隷を殺すらしいので、一体どのように処理しているかを気にしているらしい。万が一、自分にも疑いが掛かるから心配しているんだろう」

「うん、小物はこれだから」

「直接聞くわけにもいかない。かと言って、人前で聞く事も出来ないので俺に頼んできたわけだ」

「……あの小心者のカランが考えそうな事だ。そういう事なら良いだろう、教えてやるが金貨は別で貰うぞ」

「それは後で、カランに直接会った時に貰えば良い。俺はこれ以上の金貨は持っていないし、断ればあんたを殺して、そこの金貨を貰っていくだけだからな」


 ロスナイは暫く考えて、取引を受け入れた。

 死体は、あの奥の部屋に捨てられていたが、俺の予想通り簡易的な冷凍庫になっているようで腐敗はしない。

 あの部屋は、一階まで続いているようで、取引している男が数日に一度、一階の部屋から袋に積めて別の場所に捨てに行くそうだ。


「あんた、俺の思っていた通り悪党だな。気に入ったよ」

「うん、俺は貴族だぞ。貴族は何をしても許される。当たり前の事だ」


 ロスナイのこの言葉には、怒りを感じるが落ち着きながら話を進める。


「そんな、あんたがあんな辺境の地で領主とは、国王も見る目が無いな」

「そうだ! お前は平民の癖に、なかなかと理解力があるな」


 ロスナイは、気分を良くしたのか先程までとは異なり、余裕のある話し方になる。


「兄上が居なければ俺は今頃、ネイトスの領主だったんだ」

「悪党でも素晴らしい貴族のあんたの事だ、その兄貴にも何かしたんだろう。そういう話は俺も好きだ、話を聞かせてくれるか」

「そこまで言うなら教えてやる。他言無用だぞ」


 俺が素晴らしい貴族と言った事が、嬉しかったのか意気揚々と自分の悪事を話し始めた。

 やはり、ロスナイはフリーゼが妊娠した事で、自分は辺境の地であるナーブブルから一生出られないと考える。

 出した結論は、御腹の子とフリーゼの殺害だった。

 安全な道だとダンガロイに伝えた道は、数日前に商人達が多数魔物に襲われた場所で、ロスナイも近々、討伐に出る予定だったので、一石二鳥と考えてその道を通らせる事にする。

 ロスナイの思惑通り、ダンガロイ達はその道を通る。

 しかし、フリーゼは一命を取り留めた事を知ると、ロスナイは又、子供が出来る恐怖感に襲われる。

 丁度その時、旅の商人から衛兵のレベルアップ用と勧められた『魔集石』を手に入れる。

 魔集石には、簡易的な結界が施されていたので、結界を解けば直ぐに利用可能だと商人は説明するのと同時に、長期間放置する事は大変危険だと注意事項も教えてくれたが、ロスナイはその様な使い方をする気は全く無かった。

 ロスナイは商人に他の商品を尋ねると、商人は珍しい商品だと言って『魔鉤条蟲まこうじょうちゅうの卵』を取り出した。

 滅多に手に入らない商品だと言い、体の内部から蟲が食い千切って死に至ると説明する。

 当然のように、ロスナイは『魔鉤条蟲まこうじょうちゅうの卵』を購入した。


 ロスナイは謝罪という名目でネイトスを訪れる。

 まず、フリーゼに体に効くと言って、『魔鉤条蟲まこうじょうちゅうの卵』を飲ませる。

 ロスナイ曰く、見た目的には只の丸い小さな玉なので適当な名前の実を言って信用させたそうだ。

 帰る際に、結界は解いた摩集石をダンガロイ達に贈る。


「流石だよ。俺の思った通りの悪党だな」


 話の途中で何度も怒りを感じたが、ロスナイの向こうに居たダンガロイやフリーゼを見ると冷静さを取り戻す事が出来た。

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