第490話 犯行予想!
フリーゼが目を覚まさないので【全知全能】に、
答えは無理だった。
やはり、妊娠中に襲われた事が原因で子宮に障害を持っているようだ。
ふと、フリーゼをユキノに置き換えて考えてみた。
俺は子供が産めないと言うユキノに対して、どのような言葉を掛けてあげる事が出来るだろうか。
その後も、心の傷を癒せるような事が出来るだろうかと考える。
眠るフリーゼの横で、ダンガロイは手を握りながら何も言わずにフリーゼを見守っている。
今迄の経緯を改めて考えると、ムカつく厄介な親戚の叔母さんくらいにしか思っていなかったフリーゼだったが、気の毒に思えてきた。
この世界で、フリーゼの年齢で子を授かる事はかなり遅い事だろうと思うが、フリーゼが望むのであれば手助けをしたい。
「んんっ……」
フリーゼが目を覚ます。
「フリーゼ!」
ダンガロイが名を呼ぶ。
寝ぼけているフリーゼだったが、すぐに状況を把握する。
「体調はどうだ?」
「……先程までの痛みが嘘のようだ。それに、体の違和感も無くなっている」
「体の中にあれが居たんだから、体調も悪くなるだろう」
俺はそう言うと、暴れている
フリーゼも
「あれが私の体の中に居ただと……」
「文句は後で聞くが、俺の読み取った情報を話すぞ」
俺は
俺のスキルで読み取った情報なので、嘘では無い事を伝える。
俺は妊娠中に亡くなった子供の事は知らない事になっているので、子供が出来にくいのも
跡取りが生まれないようにする事と、フリーゼの命を狙った両方だと推測だと言いながら話を進めた。
俺の話を聞いている最中に、温厚なダンガロイが怒っているのが伝わって来た。
「魔族嫌いも、近くに魔族が居るとイライラしていたんだろう。今はどうだ?」
「確かに何ともないな。ただ、魔族が嫌いな事は変わっていない」
俺の知っているフリーゼの答え方だった。
「ロスナイの処分については証拠が無い。ロスナイからの自白が全てだ。それに奴隷商人や奴隷制度に反対している貴族を一掃する計画もあるが、どうする?」
「ロスナイだけでも、私が先に……」
「義兄上!」
全てを言う前に、ルーカスが遮る。
ルーカスの気持ちも分るが。俺としてはダンガロイを応援したい。
「国王の暗部を使って、チョチョイのチョイって捕まえて秘密裏に殺せば終わりだろう」
「……お主は又、物騒な事を言うな」
「じゃあ、反対に聞くが王妃が同じ目にあっても、国王は何日も怒りを貯めたまま過ごすのか」
「それは……」
「そうだろう。愛する人を傷つけられたら、居ても立っても居られないだろう」
そう言いながら、俺は自然とユキノを見ていた。
「それはそうだが……」
ルーカスの立場上、簡単で無い事は分かっている。
「分かった。今夜、偶然にもロスナイが行方不明になる予定だった筈だ。多分、ネイトス領主の館で偶然、見つかる気がするな」
俺はわざとらしく話を進める。
「タクト。お主、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
ルーカスは慌てている。
「俺は、今夜起こりそうな事を喋っているだけだ。俺が何かするとは一言も言っていないぞ」
ルーカスが何か言おうとすると、王妃であるイースがそれを止めた。
「女性にとって子を産むという事は、自分の命を懸ける事と同じです。それを軽視する者は断じて許しません!」
初めて怒ったイースを見た。
「国王もそろそろ、ネイトスに戻りましょう。地下の独房視察もありますしね」
怒ったイースにルーカスは何も言えないでいた。
ルーカスだけでなく、その場に居た男性陣全員だが……。
「タクト殿。私も今夜は、そんな気がしますわ。そうですよね?」
イースは、周りを見渡す。
アスラン達は頷いていた。
「面白そうじゃの。妾も仲間に入れろ!」
「わたしもなの~!」
小学生二人組が嬉しそうに話しに入って来た。
「いや、お前達だとあっという間に殺して終わりだろう」
「生きた
「そうなの~」
「……ちょっと待て、
「拷問するのであれば、その
無邪気に答えるアル。
確かに、その発想は無かった。
「そうだな、それは面白いな。ただし、絶対に手を出すなよ」
「見るだけで良いのじゃ」
「そうなの~」
嬉しそうに燥ぐアルとネロを横目に、俺はルーカスに向かい話す。
「今夜偶然、魔王三人がネイトスに滞在するかも知れないらしいぞ」
ルーカスは何も言わなかった。
貴族殺害は、エルドラード王国では重罪になる。
それを黙認する事に葛藤があるのだろう。
簡単に許してしまえば、法も秩序も無くなってしまう。
しかし、それ以前に人として許されない行為をしているロスナイに対して、法も秩序も関係無い。
アルとネロに頼み、ルーカス達を先にネイトスまで送って貰う事にする。
「タクト。お主はどうするのだ?」
「村でやる事があるので、それを済ましたら今夜中に戻る。独房の場所はアルとネロに教えてやってくれ」
「分かったのじゃ、独房の位置は確認しておく。しかし、どうせ殺すのであれば、別の場所でも良いのでは無いか?」
アルが盲点をついて来た。
「たしかにそうだな。殺すのであれば、場所は何処でも問題無い。わざわざ、下衆な奴を領地に入れる必要も無いよな」
「死体の処理も考えると、そこの森で良いな」
「お主ら、簡単に殺害計画を話すな」
俺とアルの会話にルーカスが、複雑な表情をして入って来た。
「今夜、こうなるだろうなって予想をしているだけだ。誰も殺害計画等は話していないぞ」
「屁理屈まで上手くなりおって……」
「暗部だって同じ様な事をやっているんだろう?」
「余の直轄部隊とはいえ、お主のように簡単に仕事をこなす事は出来ん」
「国王が俺を褒めるとは珍しいな」
ルーカスの気を紛らわせるために、敢えて軽口を叩く。
実際、俺自身がロスナイを殺す事に何の躊躇も無い事に、驚きも無く普通だった。
やはり、徐々に俺の感覚が狂って来ているのだろう。
「しかし、戻らなければピッツバーグ家の使用人が大騒ぎしないか?」
「確かにタクト殿の言われる通りです。私が戻り、使用人達には明日の朝まで暇を与える事にします」
「そういう事なら、余も戻ろう。変な噂が立つ事も考えられるからの。皆もそれで良いの」
その場に居た皆が頷いた。
「その前に、俺から一つ聞いても良いか?」
俺はダンガロイとフリーゼに聞く。
「なんでしょうか?」
ダンガロイが言葉を返す。
「先程、夫人の体を触って気が付いたが、失い諦めた希望をもう一度叶える事が出来るのであれば、叶えたいか?」
言葉を濁しながら二人に聞く。
ダンガロイもフリーゼも俺が、子供の事を言っているのだと分かった。
正確な年齢は聞いていないが、フリーゼは四十歳手前だろう。
前世でも出産するには高齢になる。ましてや、この世界では早く子を産む風習がある。
気持ちや世間体等を考えなくてはいけないだろう。
「勿論だ」
俺の意に反して、フリーゼは即答した。
「……分かった。これを呑んでもらう。へんな薬では無いから安心してくれ」
「それは!」
フリーゼに差し出した物を見て、イースは叫ぶ。
アスランを救った際に見ているので、俺が差し出した物が『ドライアドの実』だと分かったのだろう。
ゾリアスも同様に驚いていた。
「義姉上様! この実の安全性は私が保証致します」
イースが凄い勢いで、フリーゼに話し掛ける。
フリーゼも、イースの勢いに押されたのか、俺の手から実を取り口にして水を流し込んだ。
数秒後、フリーゼの体が緑色の光を放つ。
暫くすると、緑色の光は消える。
事情を知らない者達は、何が起こったか分からない。
「これで大丈夫だ。詳しい事は王妃から聞いてくれ」
不妊で悩む者も居れば、子を授かっても口減らしの為にと捨てる者も居る。
全ての問題を解決する事は出来ないが、俺の知っている者だけ特別待遇になるのは、世間から見れば不公平だろう。
特に王族関係者ともなれば、後々に大量の金貨で子を授かる方法を手に入れたと噂されても不思議ではない。
「分かっていると思うが、口外するなよ」
この中で一番心配な人物を見ながら、口止めをする。
「分かっておる」
ルーカスは大丈夫だとばかりに返事をした。
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