第489話 寄生魔蟲!

 俺はリロイとニーナを連れて、ゾリアスの案内でフリーゼの居る家に向かう。


「ここだ」


 ゾリアスはそう言うと、家の扉を叩いて名を名乗り、俺達を連れて来たと扉越しに伝えた。

 中から返事があり、扉を開ける。


 軽装に着替えたフリーゼを取り囲むように、王妃のイースや、ユキノ達が居た。

 少し離れた位置にルーカス達男性陣が居る。


「シズにリズ。どうして、此処に?」


 王族及び、関係者の中にシズとリズの双子姉妹が居た。


「彼女達が、私の世話をしてくれていた。楽になった、感謝する」


 フリーゼが事情を知らなかった俺に説明をしてくれた。

 看病をしながら俺の話等をしていたとシズとリズは交互に話す。

 フリーゼは、カーディフの肩を借りて椅子から立ち上がろうとするが、腹部を抑えて又、椅子に座る。


「何か悪い物でも食べたか?」

「いや、古傷だ。気にするな」

「古傷? あれだけ戦闘出来たのにか?」


 不思議に思い、フリーゼに尋ねる。


「魔族の多い場所だと、腹部に痛みが出る事があるだけだ」


 ……魔族が多い時だけ腹部に痛み? 奇妙だと思いながらも様子を伺う。


「今日は特に痛みがひどい。案内して貰ったのに申し訳ない」


 フリーゼは俺達に謝罪をする。

 暴力的なフリーゼと、しおらしく礼儀正しい……どちらが本当のフリーゼなのかと考えさせられる。


「フリーゼ様、横になりましょう」


 シズが言葉を掛け、アスランとカーディフでフリーゼを寝かす。

 フリーゼを仰向けにして楽な体勢にする時に、フリーゼの腹が奇妙な動きをした。

 一瞬だったせいか、俺以外は気が付いていない。

 直ぐに俺は【全知全能】にネイトス領主夫人で、現国王ルーカスの姉であるフリーゼの魔族に影響する病状について質問をする。

 【全知全能】の答えは『寄生魔蟲きせいまちゅう』の一種である『魔鉤条蟲まこうじょうちゅう』らしい。

 基本的に宿主から栄養を取るが、大きな魔力を感じると危険を察知してか動きが活発になる。

最悪の場合、宿主を食い破るそうだ。

 除去する際も、体の一部でも体内に残れば、そこから再度大きく成長する。

 しかも、各器官に潜伏出来る為、見つけ出すのも困難を極める。

 俺はすぐに結界を張り、魔力の影響を無くす。


「どうしたの!」


 俺の行動に気が付いたカルアが、誰よりも先に声を掛けて来た。


「このままだと、夫人の命が危ない」


 叫ぶと同時に、シロもこの場に呼ぶ。


「どういう事だ」


 フリーゼは起き上がろうとするので、俺が止める。


「あんたの腹の中に魔鉤条蟲まこうじょうちゅうがいる。このままだと命が危ない」

魔鉤条蟲まこうじょうちゅう?」

寄生魔蟲きせいまちゅうの一種だ。体調が悪いのはコイツのせいだ」

「何だと!」


 驚いて起き上がろうとするので、ゾリアスとカーディフに手伝って貰いフリーゼの体を、手で押さえつけて貰う。


「タクトよ、どういう事なんだ」


 ルーカスが驚きながら俺に話し掛けるが、「一刻を争う」と俺が真剣な顔で話をするので、周りの者は驚きながらも俺の指示に従った。

シロが姿を見せるが、シロとは情報共有出来ているので説明は不要だ。


「少しだけ激痛が走るが、我慢してくれ。文句は後で幾らでも聞く」

「何をする!」


 フリーゼにしてみれば、恐怖しかないだろう。

 説明不足は悪いと思いながらも、俺は【神眼】で魔鉤条蟲まこうじょうちゅうの場所を見つけて、体に指一本差し込んで、魔鉤条蟲まこうじょうちゅうに触れるとそのまま【転送】させて【結界】に閉じ込める。

 一歩間違えると、俺が宿主になってしまう危険もあるが、今はそんな事を言っていられない。

 傷口は、すぐにシロに治療魔法を施して貰う。

 俺が指を差し込む度に、フリーゼは絶叫を上げながら体を反らして気を失う。

 目を覚ましては、気を失うの繰り返しだ。


 体内に魔鉤条蟲まこうじょうちゅうは三匹居たが、全て体内から取り除いた。

 体の一部も残っていないので、今後この症状で苦しむ事は無いだろう。

 【結界】に閉じ込められた魔鉤条蟲まこうじょうちゅうは逃げようとしているのか、気持ち悪い動きをしている。

 シロの治療魔法でも問題無いと思うが念の為、俺も【神の癒し】をフリーゼに施す。

 治療する振りをしながら、魔鉤条蟲まこうじょうちゅうがフリーゼの体内に入った経緯を【全知全能】に質問をする。

 俺は【全知全能】からの答えを聞いて愕然とした。

 魔鉤条蟲まこうじょうちゅうの卵を薬と称して、フリーゼに渡したのはダンガロイの実弟であるロスナイだ。

 しかも、フリーゼが妊娠中に大怪我を負った直後だ。

 この卑劣な行いに俺は怒りを覚える。


「何があったのじゃ?」


 家の入口から、アルとネロが入って来た。

 知らぬ間に出していた俺の殺気が気になって、駆け付けたそうだ。

 アルとネロが現れたせいか、一段と魔鉤条蟲まこうじょうちゅうは暴れ始めた。

 隠れ蓑である体が無い分、余計と危険を察知したのだろう。


「ほほぅ、これ又珍しい蟲を捕まえたの」

「これを知っているのか?」

「勿論じゃ。妾を誰だと思っておる」

「わたしも知ってるの~」


 アルとネロの説明だと、この蟲は本来は獣に取り付き、魔物の出す魔素に嫌悪感を抱くので、魔物から逃げる特性があるそうだ。

 獣も気付かないまま、寿命を終える事もあるので、魔素の影響さえなければ比較的安全な寄生魔蟲きせいまちゅうらしい。


「そいつが、魔族嫌いなのに魔鉤条蟲まこうじょうちゅうが影響しているかも知れんな」


 確かにアルの言う事には一理ある。


「しかし、これを入手するのは難しいぞ。熱等ですぐに死んでしまうからの」

「卵なら問題無いのか?」

「これの卵を入手する方が、より難しいぞ。寄生されないように親から奪うしかないからな」

「産卵直後であれば、簡単に手に入れる事は出来るだろう?」

「いや、無理じゃ。卵は宿主の体内でしか生まぬ。その宿主を食べた物を次の宿主として、これは生きておるからの」

「それって、俺達も知らずに食べているのか?」

「人族は生肉を食わんじゃろう。さっきも言ったが熱に弱いので、火を使えばすぐに溶けて消えてしまう。当然、気が付かぬじゃろう」


 俺はこの言葉を聞いて、今後何があっても生肉や生魚を食わない事に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る