第491話 拉致!

 ルーカスとダンガロイを連れて一旦、ネイトスに戻るがアルが暇だと言うので、一緒について来た。

 ネロには、リロイとニーナをジークまで送って貰った。


 ネイトスに戻ると、ルーカスとダンガロイは部屋を出て使用人達の前に顔を出して、明朝までの話をしていた。

 俺は事前にロスナイの居る場所『ナーブブル』という領地を聞き、場所を知っているアルの案内でナーブブルに向かう。

 向かうと言っても【転移】で一瞬だ。

 アルは街の外で待っていて貰い、少しだけ【隠密】で街の中に入る。

 ナーブブルはネイトスよりも更に北にあり、雪に囲まれた小さな領地だ。

 ゴンド村よりも大きい街にも、人は少ない。

 街民は、生活が苦しいのが表情や服装から見て分かる。

 この寒さの中、明らかに薄着でいる者や、防寒機能が無いような破れた服を着ている。

 特産品でもあれば商人が訪れるかと思うが、状況を見る限りこの辺境の地に来る者は、皆無だと感じた。

 冒険者ギルドや商人ギルドもあるようだ。

しかし、暫く表から見てみるが人の出入りが無い。運営されているのかさえも分らない。

 ロスナイにしてみれば、この辺境の地から別の領地に一刻も早く移動したいのだろう。

 その気持ちは分からなくはない。


 ロスナイが居るであろう領主の屋敷に入り、ロスナイを探す。

 辺境の領地なので、屋敷自体もそこまで大きくは無い。

 使用人も少ないのか、すれ違う事は無くロスナイが居る部屋まで辿り着いた。

 部屋には、ロスナイの他に裸になった人族の女性が六人居る。

 いや、居たと表現した方が正しい。

 六人共は既に息が無い。


「くそっ! ノゲイラの奴、もっとましな奴隷を寄こしやがれ」


 そう言いながら、床に伏せている女性に蹴りを入れる。

 しかし、蹴られた女性は既に息は無い。


「お前等、奴隷なら奴隷らしく俺を満足させろ!」


 女性達に大声で命令をするが、誰一人として動く気配は無かった。

 正確には動けないし、ロスナイの言葉も聞こえてはいない。

 自分の命令に従わない女性達が気に入らないのか、女性達へ暴行する。

 既に六人共息が無い事に気が付いていないようだ。


「ちっ、もう壊れたか」


 女性達の反応が無い事に気が付き、そう吐き捨てる。

 そして、ロスナイは動かなくなった女性を蹴り飛ばした。


「仕方ない。ノゲイラの野郎に頼むか」


 そう言って、ロスナイはノゲイラに連絡をした。


「はぁ、何でだ! 金貨なら言われた通りに払っているだろう」


 ノゲイラの声が聞こえないので、会話の内容は分からないが、どうやら奴隷の調達を渋っているようだ。


「分かった。もう、いい!」


 ノゲイラとの連絡を切ると、目に入った女性の死体を一心不乱で踏みつけていた。


「商人の分際で、貴族である俺に逆らうだと!」


 俺は何度も怒りで手を出そうとした。

 なんとか、理性で怒りを抑え込んでいた。


「仕方ない。こいつ等も処分するか」


 ロスナイはそう言って、面倒臭そうに女性を引きずって、扉を開けて中に次々と放り込んでいった。

 あの扉の先に、今迄亡くなった者達が多数居るのだろう。


「まぁ、いい。もう少しすれば、国王様への贈り物が気に入られれば、俺が第一王女を嫁にすることも出来る。そうすれば、兄上よりも大きい領主になる事も可能だ」


 ロスナイが根拠のない自信と、現実味の無い人生計画を語っていた。

 夜まで待とうと思ったが、ロスナイに嫌気が差したので、【アイテムボックス】から大きな袋を出して、ロスナイを詰める。

 大声を出されないように【結界】で音漏れと周囲の音が聞こえない対策をしておく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「早かったの」

「あぁ、ついでにロスナイを拉致してきた」

「まぁ、夜来るのも二度手間じゃから、別に良いじゃろう」


 アルは袋の中で暴れているロスナイを突いたりして遊んでいるかと思ったら突然、上から何か粉を掛けた。


「なんだ、それ?」

「タクトが戻って来るまで暇じゃったので、そこに生えていた痺れ草を粉にして遊んでいた」


 よく見ると、風下の方に動物が倒れていた。


「それは遊びなのか?」

「遊びじゃぞ。小さい子供達も、よくやっておる」

「……ゴンド村でか?」

「いや、妾達龍人族の集落でだ」


 俺は、その言葉を聞いて安心した。

 痺れ草と言っても、子供の体に悪影響があるかも知れないからだ。


「それよりもタクトよ。お主は魔素を垂れ流している事に気が付いているか?」

「はぁ?」


 アルの言葉の意味が分からなかった。

 詳しく聞くとどうやら、人族でもレベルが高くなると魔素も多くなるようだ。

 通常であれば、気にならないレベルだが俺のレベルが高い為、周りにも影響しているみたいだ。

 確かに【神眼】で自分の手等も見ると、黒い靄のようなものが出ていた。


「これって、どうにかなるのか?」

「まぁ、魔王かロードでもない限り、気付かれんじゃろう。魔鉤条蟲まこうじょうちゅうのような魔素に敏感な蟲は別だがな」

「普通に生活が可能と言う事で良いんだな」

「そうじゃな」


 自分が、どんどんと人間離れしていく気分だった。


「タクトも随分と強くなっただろうし、一度手合わせして貰おうかの」


 嬉しそうにアルは話す。


「昔、話していた暴れても問題の無い場所ってところでか?」

「そうじゃ」


 アルと手合わせをすれば、俺のレベルが上がる事は間違いない。

 現状の自分の強さを知るうえでも、手合わせはしたいところだ。


「ところで、タクトは何をしたいのじゃ?」


 漠然とした質問を俺にする。


「何って……」


 使命という事で言えば、エリーヌを神として、この世に広める事になる。

 俺が本当にしたい事……改めて考えると答えが浮かんでこなかった。


「まぁ、ユキノとのんびり暮らす事かな」


 嘘では無いが、本当に俺が望んだ答えでは無い。


「アルは、何かしたい事でもあるのか?」

「特に無いから、タクトに聞いたのじゃ。タクトは面白い事を考えるので、面白そうなら便乗しようと思っただけじゃ」


 長い年月を生きているアルにとって、やりたい事も既に無くなってしまったのだろう。

 しかし、俺はこの世界に来てまだ数か月だ。それなのに、やりたい事を見つけ出していない。

 第二の人生で俺が本当にしたい事。この言葉が俺の心に引っ掛かっていた。

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