第467話 上級神!

 ダンガロイから夕食を御馳走になる。

 早めに食事を切り上げて、俺は用事があると一人で部屋に戻った。

 クロが引き続き調査をしたいと申し出たので、タルイの調査を頼む。

 シロにはユキノ達の警護を頼む。


 食事を早めに切り上げた理由は、エリーヌの上司である中級神モクレンから【神の導き(改)】で連絡があったからだ。

 食事の最中に、いきなり違う風景が現れて、モクレンが居た。

 俺は食事が終わった後で、ゆっくり話を聞くので暫く待っていてくれと伝えるが、「現実世界では時間が停止しているから問題無いのでは?」と答えるので、気持ち的な問題だと伝えると、モクレンも俺の気持ちに配慮をして了承してくれた。

 向こうから連絡をしてくるという事は、ろくな用件で無い事は分かっている。

 しかも、ポンコツ女神のエリーヌからでなく、中級神であるモクレンから直接なので、余計に不安だ。

 俺は【神の導き(改)】を使う。


 風景が変わり、モクレンが姿を現す。


「先程は、申し訳御座いませんでした」

「いえいえ、こちらこそ食事中に申し訳ありませんでした」


 モクレンは、笑顔で受け答えする。


「それで、用件はなんだったでしょうか?」

「それなんですが……まず、私の上司を紹介致しますね」


 モクレンは、そう言うといつの間にか、一人の男性がモクレンの横に居た。

 全く気付かなかった。何時から居たのかさえも分らない。


「始めまして、私は『アデム』。一応、モクレンやエリーヌの上司にあたる神になります」


 俺が挨拶をしようとすると、知っているので結構だと優しい口調で話す。


「早速だが、用件を先に伝えさせてもらう。タクト、君は【自己再生】のスキルを習得しているよね」

「はい。オークロード討伐した際に習得しました」

「本来、人族が【自己再生】を習得する事はあり得ない。それは何故だが分かるかな?」

「強大な能力を手にしてしまうからですか?」

「半分正解かな。私から質問をするが、君はオークロードをどうやって倒した?」

「オークロードのコアを肉体から抜き取りました」

「そうだね。コアが破壊されるか、肉体から取り出されれば死ぬ。普通の魔獣でも肉体に一定以上のダメージを受ければコア関係なく死ぬよね」

「はい」


 俺は、アデムの当たり前の説明を聞いて頷く。


「では、君の場合はどうなる?」


 アデムの問いに俺は考えて、質問の意味に気が付く。

 俺の場合、魔獣のようなコアは無い。

 つまり、心臓が止まれば死ぬ。

 しかし、その心臓は【自己再生】があるので、活動停止してもすぐに活動を再生する。

 仮に、心臓を抜き取られたとしても、体は【自己再生】をして新しい心臓を作り出す。


「不死身。つまり、不死という事ですか?」

「その通りだ。しかも、常に【自己再生】する為、古い細胞は新しい細胞に変わっていくので、君は不老でもある」


 アデムの言葉に、良くも悪くも衝撃を受けた。

 この世界に来る時に欲しかったスキルが手に入った事と、この件で上級神アデムや、中級神モクレンと対面しているからだ。


「この世のバランスを崩す能力という事ですか?」

「端的に言えば、そうなるね」

「それで、私にどうしろと?」

「それが難しいから、君と直接話をしようとしているんだよ」


 アデムの説明では、基本的に神は直接、この世界に関与する事が出来ない。

 しかし、俺の能力に関しては他のスキルも含めて、この世のバランスを崩すには十分過ぎるので対策が必要になる。


「君の他にも不死の能力を持っている者は君を除いて、この世界エクシズにも数人居る」

「はい。第一柱魔王のアルと、第二柱魔王のネロに、第三柱魔王のロッソですよね」

「その通り。他には吸血鬼族の長であるセフィーロもそうだね。まぁ、彼女の場合は特別だから、害があるようであれば、それ相応の措置は取るけどね」


 アデムは、笑顔で話す。


「ロッソは、コアを所持しているけど、アルシオーネとネロに、セフィーロにはコアは無いんだよね」

「それって……」

「そう、君と同じだ。と言いたいが、彼女達は、心臓のみ自己再生が発動する。仮に手足を失っても再生する事は無いんだよね」

「アデム様。セフィーロは違いますよ」

「あっ、そうか。彼女は血を媒体にすれば、再生も可能だったね」


 アデムの間違いをモクレンが気付く。


「どちらにしろ、今の話でも君が特別だという事は、理解してもらったかな」

「はい」

「今更、君の能力を奪う訳にもいかない。かと言って、不老不死を承認する訳にもいかない。そこで、提案だ」


 アデムは俺に三つの提案をしてきた。


 一つ目は【呪詛:恩恵の代償】による生命活動停止。

 ユニークスキルを習得する際に、その分のスキル値を割り振る必要がある。

 今迄も、その影響による突然死にならない為に注意をして来た。

 これは、今迄通りの事なので、特に問題無い。


 二つ目は、人族による殺害。

 人族に心臓への致命傷を負わされれば、死ぬという事だ。

 心臓以外であれば、【自己再生】は問題無く発動する。

 余程の者でない限り、俺に致命傷を負わせる事は出来ないとアデムは言っていた。

 それはレベル差が関係していると思う。

 人族のみなのは、同族攻撃になるから危険性は少ないというアデムの優しさらしい。


 三つ目は魔王による殺害。

 これは魔王同士の戦いを抑止する為らしい。

 しかし、それであればアルやネロはどうなる?


「アルシオーネとネロも、他の魔王によって死ぬ事は知っております」


 モクレンが俺の疑問に答える。


「それが【不死(条件付)】ですか?」

「いいえ、これは私が後付けした内容です。不死の魔王達は皆、知っております」


 そうであれば、アル達は別の条件があるという事だ。

 それよりも今迄、アルとネロは死を覚悟した上で、魔王討伐していたという事になる。

 もしかしたら、逆に倒されていたという事も考えられる。


「納得は出来ないかも知れないが、受け入れて貰えると私共としては助かるかな」

「別に不満はありませんし、拒否権は最初から無いんですよね」


 アデムとモクレンは笑ったままだ。


「分かりました。アデム様の御提案は受け入れます」

「そう言って貰えると、私としても嬉しいよ」


 アデムは笑顔を崩さない。


「私からもお聞きしていいですか?」

「いいよ」

「前任者であるガルプという神についてです」


 俺は敢えて、ガルプを呼び捨てにした。


「あぁ、ガルプは神としてあるまじき行為を幾つかしているので、現在は尋問中だよ」


 俺は、詳しく聞こうとしたがアデムが、それ以上は聞くなというオーラを出していた。


「分かりました」

「何かわかれば、君には連絡するから、安心して良いよ」

「はい……」


 エクシズでも悪行の数々について、問い質したいが無理なようだ。


「あと、魔族と人族についてもお聞きして良いですか?」

「うん、何かな」

「龍人族は昔、人族でしたが今は魔族と聞いています。明確に人族と魔族の区別は出来るのですか?」

「あぁ、それは簡単な事だよ」


 アデムは「コアの有無」だと教えてくれた。

 アルやネロはコアが無いので、神の分類で言えば『人族』になる。

 人型をしていば人族という事では無いらしく、オークやゴブリンにコボルト等はコアがある為、『魔族』らしい。

 しかし、説明を聞くと俺を殺せるのは、アルとネロにロッソ達魔王。

 それ以外では、ヴァンパイアロードのセフィーロも人族になるので、俺を殺すには十分過ぎる力を持っている。


「そうですか、ありがとうございます。」

「いえいえ、これくらいであれば、いつでも教えますよ。あっ! そういえば、君の【呪詛】の事だけど、解除は出来ないから」

「えっ!」


 アデムが言うには、俺の【呪詛】は良い意味で俺の能力の足枷になっている。

 神として、その足枷を外す事は出来ないと言う。


「これも君の能力の高さが原因だね」


 アデムが現れた際に、一瞬でも期待をしたが見事に希望は砕かれる。


「仕方が無いですね」


 そう答えるのが精一杯だった。


「まぁ、君はよくやってくれているから、引き続き頼むよ」

「はい。ところで、担当である神がこの場に居ないのは、何故ですか?」


 エリーヌがこの場に居ない事に、俺は最初から不自然さを感じていた。

 俺の質問に、アデムとモクレンは目を合わせる。


「まぁ、それは神の事情という奴かな」

「そうです。エリーヌも忙しいですからね」


 二人して先程とは違う笑顔で答える。

 直感的に、エリーヌが何かしたのだと感じた。


「他に聞きたい事は?」

「突然でしたので、これ位です。思い出したら又、連絡致します」

「そうだね。気になる事があれば、エリーヌかモクレンに話してくれ」

「はい、分かりました」

「じゃあ、これからも頼むね」


 アデムとモクレンは笑顔のまま【神の導き(改)】を切った。

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