第466話 謙遜!

 特訓場から戻る際に俺は、一番後ろを歩いていた。

 理由は特に無いが、なんとなく後ろから皆を見ていた気分だった。

 と言っても、俺の横には小学生二人が居る。


「タクトよ、明日はビンゴ大会じゃな」

「……なんで、そうなるんだ?」

「タクトが村に客人を連れてくる時は、ビンゴ大会と決まっておる」

「そうなの~」


 無邪気に喜ぶアルとネロ。


「やるとしても、景品が無いだろう。今から、集めるとしても大変だぞ」

「ふっふっふっ、妾を誰だと思っておる。いつでも出来るように用意はしておる」

「私もなの~」

「……前回の様な、高級品じゃないだろうな」

「大丈夫じゃ!」

「大丈夫なの~」


 二人は問題無い事を言うが、信用出来ない。

 何故なら、あらゆる感覚が違うからだ。

 しかし、嬉しそうな二人の顔を見ていると断る事は出来ない。


「分かったよ」


 俺の言葉に、二人は飛び跳ねていた。

 村への来客となれば、それなりの持て成しが必要になる。

 持て成すと言っても、食事を用意するくらいだ。

 ゴンド村は基本的に、人が来ることが無い。

 自給自足に頼り、それ以外に必要な物は多分、アルやネロ達が調達しているだろう。

 四葉商会としても、エリーヌの木像を掘っているクラツクが居るので、定期的に商品を取りに行っている。

 気が利くマリーが面倒を見ていてくれるのは、聞かなくても分かっている。

 食事といえば、王国総料理長のビアーノになる。

 俺の個人的な頼みだが俺が頼めば、嫌な顔もせずにビアーノ達料理人は協力はしてくれるだろう。


「どうかしましたか?」


 ターセルが歩く速度を落として、俺の話し掛けてくる。


「あぁ、実はだな……」


 俺はターセルに明日の件で悩んでいる事を話す。


「成程。タクト殿の考え通り、総料理長に頼めば問題無いかと思いますよ」


 ターセルは、悩むことなく答える。

 理由として、ルーカスが同行して食事をするのであれば、王族の食事を担っている料理人達は職務の範囲内と言う事だ。


「何でしたら、私から総料理長に連絡しておきますよ」

「いいのか?」

「はい。料理の運搬はタクト殿がされるという事で宜しいですか?」

「あぁ、問題無い」


 ターセルは、俺との会話が終わると歩きながら王国総料理長のビアーノに連絡をしていた。

 ゴンド村へダンガロイとフリーゼを同行して視察に向かう事と視察する人数を伝えていた。

 村民の数を聞かれたので、アルとネロに聞くと大体の人数を教えてくれた。


「明日、料理が完成したらタクト殿に連絡するそうです」

「そうか、助かった。ありがとうな」

「いえいえ。それよりも先程は流石でしたね」

「ん、何の事だ?」

「魔集石の件です。保管場所を簡単に当てた事と、それに気付いた事をクロ殿やシロ殿にされた事です?」

「実際に気が付いたのは、クロとシロだからな」

「謙遜されますね。それでしたら、場所を知っているタクト殿の言動に矛盾が生じますよ」


 笑いながらターセルは話してくるが、俺は嘘を言っていない。

 但し、魔素の流れが分かる事に関してはターセルの【鑑定】でも分からないと思うし、自分から話すつもりも無い。


「まぁ、そこら辺は想像に任せる」


 俺は曖昧な言葉で返した。


「なんじゃ、魔集石まで保持しているのか?」


 アルが会話に入って来た。


「まぁ、色々と面倒事があってだな。一旦、俺預かりになっている」

「そうか、タクトが持っているのであれば問題無いな。あれは人族に扱える物では無いからな」

「やはり、そんなに危険なのか?」

「危険じゃ。又、大地を焼け野原にするのは勘弁して欲しいからの」

「詳しいな。その場に居たのか?」

「人族同士の戦争なので、その場に妾は居なかったが、気になったので爆発後に場所を訪れた」


 アルはその時の状況を俺に話してくれた。

 魔素が充満した一帯には、多くの人族の死体もあった為、低級魔獣等は食料欲しさに寄ってくるが魔素濃度が高い為、過剰摂取である魔素中毒になり死んでいた。

 あれだけ魔素濃度が高いと、アルと同等以上で無いと足を踏み込めなかったそうだ。

 爆発した魔集石の欠片が、一帯の魔素を吸収して許容量を超えると又、爆発を起こす。

 それを何十年と繰り返していたそうだ。

 最後に爆発能力が小さくなり、害が無くなったとしても暫くは魔素が漂っていたそうだ。

 確かに、石だから爆発して終わりという訳では無い。

 小さくなっても能力があれば、同じ現象が起きる。


「今は、辛うじて往来位は出来るが、滞在するのは難しいと思うぞ」

「……そうか」

「気になる事でもあるのか?」

「あぁ、その辺りの森に居た樹精霊ドライアドの事でな」


 俺が樹精霊ドライアドの名を出すと、アルは察した様子でそれ以上は聞かなかった。

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