第460話 魔集石!

 ダンガロイが話に入った事で、姉弟喧嘩にならずに話が進んでいく。


「そうですか、魔族にも人族よりの平和な考えの者が居ると、国王様は御考えなのですね」

「その通りだ。むやみに敵を作るよりも、共存共栄を目指す時期に来ているのだと考えている」

「魔族など信用出来ない存在だ。現に今でも無差別に我が領土を荒らしている」

「考え方によっては、私達人族が侵略者となっているかも知れない」


 ダンガロイの第一印象は、気弱な領主だと思っていたが、俺の間違いだったようだ。

 最初は、妻であるフリーゼと国王であるルーカスの立場を理解した上で、一歩下がって話を聞いていたのだろう。


「では、周期的に屋敷への襲撃はどう考えるのだ」


 フリーゼがダンガロイに異論を唱える。


「……確かにそれは、説明が出来ない」


 ダンガロイは言葉を詰まらせる。


(主、良いですか?)


 クロが他の者に気付かれない様に、俺に直接語り掛けた。


(なんだ?)

(シロも気付いているかと思いますが、この屋敷には魔素を強制的に集積する物があります)

(魔素を集める?)

(はい。魔素の量が多くなると、魔獣はそれに引き寄せられます)

(それが、何か分かるのか?)

(大体は見当がつきます)

(シロも分かるのか?)

(はい。多分、クロさんと同じ物かと思いますが、御主人様も【神眼】で確認出来るのでは無いでしょうか?)


 俺は【神眼】を使うと、魔力の流れと言うか煙のような物が、うっすらと何処かに流れるのが分かる。


「ちょっと、いいか?」


 俺はルーカス達の会話に入る。


「なんじゃ?」


 ルーカスが俺を見る。

 その顔は何か期待しているようにも思えた。


「この屋敷の襲撃は別の原因があると、クロとシロが言っているぞ」


 俺は敢えて、自分ではなくクロとシロが気付いた事で話を進めた。


「どういう事だ?」


 フリーゼが睨むように俺を見る。


「この屋敷で確認したい所があるので、案内して貰っても良いか? それとターセルに鑑定して欲しいので一緒に来てくれ」


 ダンガロイは俺の申し出を受け入れてくれ、自ら案内をしてくれると言ってくれた。

 ルーカスも同行すると言うので、護衛は残してルーカスとターセルに、ダンガロイとフリーゼで魔素の流れる先まで歩くことにした。

 ユキノも一緒に行くと言ったが、イース達が邪魔になると言い、この場に残るよう説得した。



 魔素の流れに沿って、ダンガロイの案内で部屋の前まで来る。


「ここは、宝物庫です」


 ダンガロイは部屋の説明をして、扉を開けると部屋の大きさの割には物が少なかった。

 宝物庫と言う割には寂しい感じだ。


「生憎と不要な物は売却してしまっていますので、このような状態です」


 売却の理由は聞かないが、領地運営も厳しいのだろう。

 案内された屋敷内も、お世辞にも煌びやかな感じでは無かった。


 俺は流れを追っていくと、石の置物に辿り着いた。


「これは?」


 俺は、石の置物を指差して質問をする。


「これは、私の弟であるロスナイからの送り物です。なんでも貴重な品という事以外は、私も分かりません」

「ターセル、これ何か分かるか?」


 ターセルに話し掛けると同時に、俺も【神眼】で石の置物を鑑定する。

 結果は『魔集石』だ。


「これは、魔族を呼び寄せると言われている魔集石ですね……」

「何だと!」

「これ程の大きさの物は、初めて目にしますね。そもそも、そうそう出回るような代物でもありません」

「魔族の襲撃が始まったのは、この魔集石を貰った時期くらいじゃないのか?」


 俺はダンガロイに、確認するように問い掛ける。

 ダンガロイとフリーゼは、思い出しているのか返事は無く、黙り込んだままだ。

 この隙に俺は【全知全能】に魔集石について質問をする。

 魔集石は、魔素濃度の高い場所で、極稀に鉱石が変化をして、黒く透明な石になる。

 石自体が魔力を吸収する特性を持ち、蓄積された魔素は石の許容量を超えた段階で暴発する。

 暴発した周囲には、暫く人族が住む事は出来なく、低級な魔族も避ける様な土地に変り果てるらしい。

 昔は、魔集石が多く採れた山があったらしく、大量の奴隷に採掘させていた。

 採掘した魔集石は、兵器に改良され戦争に使われていた。

 今は、枯槁ここうの大地と呼ばれている場所が、昔の戦場だったらしい。

 ……枯槁ここうの大地か、生息不明の樹精霊ドライアドが管理していたと言われる所だった筈だ。

 森の管理者の名前は、イザベラと言っていたと記憶している。


 俺は【全知全能】の回答に疑問を持った。

 魔集石を兵器に組み込めるような技術を、昔の人族は持っていた事だ。

 俺は枯槁ここうの大地に使われた兵器について質問をする。

 結論は、兵器を製作したのはドワーフ族だった。

 しかし、人族にドワーフ族が手を貸しているのは意外だった。

 それに自分の作品に誇りを持っているドワーフ族が、戦争に使われる兵器を製作した事も腑に落ちない。


「とりあえず、この魔集石を破壊すれば問題無いのですか?」

「いえ、魔集石を破壊すれば、この辺りは魔素の影響を受けます」


 鑑定士であるターセルは博識なのか、破壊する影響をダンガロイに説明した。


「俺が預かろうか?」

「預かると言いますと?」

「……【アイテムボックス】か」


 俺が答えるより先に、フリーゼが答える。


「その通りだ。【アイテムボックス】であれば、外部と遮断された空間なので影響は無い」

「確かに、タクトの言う通りだな」


 俺の意見にルーカスも頷く。

 ダンガロイは、俺が【アイテムボックス】のスキルを持っている事を知らないので驚いていた。


「とりあえず、仕舞うが良いか?」

「御願いします」


 ダンガロイからの返事で、俺は魔集石を【アイテムボックス】に仕舞う。

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