第459話 感情論!
「……何をしたのだ」
一瞬で、見覚えのある自分の屋敷に戻って来たフリーゼは、俺に状況説明をするように言う。
「転移魔法を使った」
「転移魔法だと!」
俺が簡単に説明をすると、フリーゼは驚きの声を上げる。
「あぁ、本当なら隠しておきたいが、いずれ国王から話しが出るだろうしな」
「……お前は、本当に人族か? その姿も偽りではないだろうな」
とうとう、俺の存在まで疑い始めたのかと感じた。
「正真正銘の人間族だ」
一応、否定をする。
俺が否定をするとフリーゼは、それ以上は聞かずにルーカス達が待機している部屋に戻ると、俺に言うと歩き始めた。
ルーカス達の部屋に向かう最中は、一言を話さずに少しずつ歩く速度も早くなっていった。
目的の部屋に付くと、いきなり扉を開ける。
俺は少し遅れて部屋の中を見るが、ルーカス達はいきなり扉を開けられた事で驚いていた。
フリーゼも冷静さを欠いているのだろうか、ルーカスの所まで一目散に歩く。
「どういう事か、説明して貰おうか」
いきなり目の前まで来て、怒り心頭で意味不明な事を言われたルーカスは戸惑っている。
助けを求めるように俺の方を見るが、俺は知らない振りをする。
「姉上、何のことですか?」
「タクトの事だ。魔王とは、どういう事か説明して貰おう」
フリーゼの口から、魔王と言う言葉が出るとルーカスは俺の方を再度見るが、俺は知らない振りをする。
その後、感情論で話を進めるフリーゼに、内容が良く分からないルーカスがカーディフに話を振る。
カーディフは、先程までの俺の行動についてルーカスに報告をする。
「……成程」
状況がやっと分かったルーカスは、ひと呼吸置いて話始めた。
「姉上。大きな誤解をしていますがタクトは確かに魔王ですが、この国を何度も救って貰っている英雄でもあります」
珍しくルーカスが、俺の事を持ち上げていた。
ゴブリンロードは俺の単独討伐や、オークロードの討伐も実際は俺が討伐していた事を話す。
その後も、貴族の一部が国家反逆しようとしている者達を未然に防いだのも、俺のお陰だと説明してくれた。
奴隷商人から、ダウザーの娘であるミクルや、エルフ達を救った事。
エルフ達とも争いにならぬように、口添えをしてくれた事。
そして、オーフェン帝国で魔人化した者達の暴動を止めた事を、真剣に話した。
「それにタクトは、最強と言われている魔王アルシオーネとネロを倒して弟子にした者なのです」
「何だと!」
「特に魔王ネロは、勇者末裔貴族のせいで王都を破壊されそうな所を、タクトのお陰で救って貰った事もあるのです」
嘘ではないが、俺的には誇張されて話をしているように感じてしまう。
「御義姉様。タクト殿は、アスランを助ける為にドライアドの実まで使って頂いたのです」
「ドライアドの実を持っていたと言うのか」
「はい。それも見返りを求めませんでした」
イースもルーカスの説明に補足するように、俺の事を話してくれた。
「それと、ゾリアスが冤罪だとタクトが証明してくれた」
「ゾリアスとは、王国騎士団だったゾリアスの事か?」
「はい、そうです。姉上とよく手合わせをしていたゾリアスです」
「そうか。やはり、ゾリアスは冤罪だったか……」
ゾリアスの冤罪を知ったフリーゼは、嬉しそうな表情を浮かべる。
「タクトは確かに魔王ですが、人族魔族関係なく接する者です」
「だから、それが大きな問題だ、魔族は人族の敵だろう!」
「……姉上の魔族の対する感情は分かりますが、全ての魔族が悪いとは考えてはおりません」
「何だと!」
「仮に魔族と全面戦争になれば、人族は滅びる可能性の方が高いのです」
「だからと言って魔族に屈するのか!」
フリーゼは机を叩きつけ叫んだ。
「魔族に屈するつもりはありません。それに今は、魔族の中に人族を魔人にしようとする者が居るのも事実です。そのような者は人族魔族共に共通の敵かと考えております」
「そのような事が可能なのか!」
「はい。それも人族が魔族を人体実験をした為、その実験結果が原因になります」
「……魔族を人体実験していただと」
「力を欲しようとしている者達が、魔族の力を研究していたのです。それを発見したのもタクトです」
「……もしかして、お前は国王直属の暗部なのか」
フリーゼは俺に質問をするが、俺の代わりにルーカスが「違う」と答えた。
「タクトは、あくまで協力者になります」
協力者と言うのは、非常に都合の良い言葉だと思い聞く。
ゴシップ記事でよく聞く関係者と同じように、胡散臭い感じがした。
「今迄はどうだか分らないが、魔族に肩入れする者を信用する事は出来ん」
ルーカスも姉であるフリーゼの性格を知っているので、強く反論する事はしなかった。
「姉上のお気持ちは分かりますが、その矛先をタクトに向けるのは如何なもんかと思います」
「何だと!」
完全にフリーゼは感情的になっている。
ルーカスも徐々にではあるが、フリーゼに感化されて感情的なのが分かる。
このままでは、感情論になり収拾が着かないだろう。
「いい加減にしないか!」
フリーゼの夫であるダンガロイが、フリーゼを叱る。
気弱な夫だと思っていたので、意外だった。
「国王様、フリーゼの行き過ぎた言動申し訳御座いません」
ダンガロイがルーカスに対して、フリーゼの事で謝罪をする。
フリーゼとルーカスもダンガロイの言葉で冷静さを取り戻す。
「いや、こちらも感情的になり過ぎました。義兄上、申し訳ありません」
ルーカスはダンガロイに謝罪すると、フリーゼも同じ様に謝罪をした。
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