第444話 渡りに船!
「魔獣の名は『イエティ』だ」
フリーゼは、俺に討伐させる魔獣の名を告げる。
聞いた事のある魔獣の名だったが、前世の記憶では雪男のイメージしかない。
「フリーゼ。イエティ討伐という事は、カストル山に行くという事か?」
領主で夫のダンガロイが、驚いた様子で話す。
「えぇ、近くの村の家畜等にも被害が出ているし、簡単に倒せるのであれば、倒して貰いましょう」
満面の笑みで、フリーゼは答える。
あっという間に倒せると言ったルーカスの顔もあるので、この依頼を断る事は出来ない。
そもそも、断るという選択肢は無いのだろうが……。
「しかし、フリーゼよ。カストル山の麓には、アルミラージの巣窟もあるのだぞ」
「それなら、アルミラージも討伐して貰えば良い事です。国王の言葉を借りれば、簡単な事なのでしょう」
俺はルーカスに目線を送るが、ルーカスは俺の方を見ようとしない。
「討伐するのは構わないが、俺の仲間を呼んでも良いか?」
「仲間?」
「あぁ、討伐には同行するのであれば、護衛を付ける必要がある。念の為、俺の仲間にも護衛をさせるだけだ」
「……単独討伐するという事には、変わりないのか?」
「勿論だ」
「その仲間というのは、いつ到着するのだ?」
「呼べば、すぐに来る」
フリーゼは、俺の言葉が理解出来ていない。
俺はシロとクロに連絡を取り、獣の姿で来れるかと確認する。
クロは調査の件もあるので、無理にとは言わなかったが調査の報告も兼ねて一度、俺の所に戻る予定だと言うので、丁度良かった。
数秒の出来事なので、周りには気付かれない。
「呼ぶが良いか?」
「とりあえず、呼んでみよ」
フリーゼは腑に落ちない様子で答えた。
俺は、シロとクロを呼ぶと、俺の頭上と影から二人が姿を現す。
定位置である腕と肩に二人共乗る。
二人の件は隠しておくと、後々面倒な事になると思ったので、この場で紹介する事にした。
それにいずれ、ルーカスが口を滑らす可能性を危惧していた。
ダンガロイとフリーゼは、何が起こったか分からないでいた。
「俺の仲間のシロとクロだ」
俺は、シロとクロを二人に紹介する。
「御主人様に仕える、エターナルキャットのシロと申します」
「タクト様の従者、パーガトリークロウのクロと申します」
二人共、自分達の口で自己紹介をした。
ダンガロイとフリーゼの二人は、目の前の出来事が信じられない様子だった。
「姉上。このシロとクロは、我らに危害を加えるような事はありません」
ルーカスが、シロとクロが安全な者だと話す。
「シロ様とクロ様は、何度も王国の危機を救って頂いております」
ユキノも続くように、シロとクロについて話してくれた。
「伝説級の魔物を二体も従わせているとは……」
話し終えるとフリーゼは、大きく息を吐いた。
「因みに人型にも変化出来るぞ」
俺がそう話すと、シロとクロは俺から離れる。
床に着地したと同時に人型に変化して、ダンガロイとフリーゼの二人に対して頭を下げた。
「この姿であれば、問題無く移動も可能だ」
「……このような者が今迄、人知れずに存在しておったとは」
人知れずというか、この世界に来たのも最近なので、身を隠していた訳でも無いのだが……。
「とりあえず、イエティとアルミラージを討伐すれば良いんだよな?」
「簡単に言ってくれるな」
俺が近所に買い物でも行くかのような口調で話した為か、フリーゼは不機嫌そうにする。
ダンガロイが、その理由を説明してくれた。
イエティを討伐する為に、衛兵隊を送り出したが誰も戻って来ず、その後も数回に渡り衛兵隊を送り込んだが、誰一人として戻ってくる事は無かった。
これ以上、衛兵を犠牲には出来ないと、冒険者を雇ったが同様に戻ってくる事は無かった。
ダンガロイも、王都の冒険者へクエストを発注する予定だった。
俺が来た事は、渡りに船だったみたいだ。
「今から向かえば、いいのか?」
「今からか!」
「あぁ、困っているんであれば、早い方が良いだろう」
「それは、助かるが……」
生息地は、魔獣図鑑を作る際に、シロに場所は伝えているし、撮影も終わっているので問題無い。
「同行するのは、誰だ?」
「私が同行する」
俺の問いにフリーゼが答える。
ユキノも同行すると言ったが、フリーゼが屋敷で待つようにと説得をする。
カーディフとセドナも、同行する事で決定した。
フリーゼ達の用意が出来次第、出発と言う事になる。
「その討伐場所まで、どれくらいで着くんだ?」
「此処からですと、往復で六日程ですかね」
カーディフが答える。
「そんなに、国王達は滞在出来ないだろう」
「何を言っておる。タクトなら、一瞬で行って帰ってこれるから二日あれば十分だろう」
……俺の【転移】の事を言っているのか、飛行艇の事を言ったのかは不明だがこれ以上、ルーカスに喋らせるのは危険だと判断する。
「外の飛行艇であれば、時間の短縮は出来るから、早めに戻ってくる事は可能だ」
「そんなに早く行けるのか?」
未知の乗り物に対して、フリーゼは警戒する。
「問題ない」
俺が答えると、フリーゼはカーディフ達を連れて、討伐同行の準備をする為に部屋を出る。
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