第422話 無謀な戦い!

「それで、クラーケン討伐には何人で挑むのだ?」


 トレディアが、クラーケン討伐に必要な人数を聞いてきた。

 オーフェン帝国から、選りすぐりの者を貸してくれる意図だろう。


「ひとりだ」

「……ひとり?」

「あぁ、ひとりだ」


 俺の回答に、トレディアがルーカスの方を向く。

 俺が無茶な事を言っていると、思ったのだろう。


「トレディア殿。タクトは、桁外れに強い。ひとりでも問題無く倒せると思います」

「いや、しかしですな」


 ルーカスもトレディアの気持ちが分かるのだろう。

 もしもの事があれば、オーフェン帝国の責任にもなりかねない。


「ここからの話は、秘密にしていただけますか?」


 ルーカスは、トレディアに秘密の話を持ちかる。

 魔王関係の事は話す事は無いとので、それ以外のことだろう。

 トレディアは、後ろに控えていた四人の者にも口外し無い事を確認する。

 後ろの四人がトレディアを守る『四獣曹』なのだろう。


「実は、ゴブリンロードとオークロードは、実際タクトひとりで討伐しているのだ」

「なんですと!」

「我が国最強と言うのも、嘘では無い」

「……しかし」

「今回、事故等が起きてもオーフェン帝国には、一切の責任が無いとしましょう」

「ルーカス殿、本当に良いのですか? 仮にも貴殿の息子になる者ですぞ」

「大丈夫です。タクトに常識が通じない事や、規格外に強いのは、此処にいるエルドラード王国の者であれば、皆知っております」

「ルーカス殿が、そう言うのであれば……」


 トレディアから、クラーケン討伐の承諾を貰うが、オーフェン帝国側の者を同行させて欲しいと言われる。

 確かに、俺だけだと信用されない可能性もある。


「適当に誰か付けてくれれば良いが、弱い者だけは勘弁してくれ」


 最低、自分の身は自分で守れる者でなければ困る。


「分かった、人選しておく。それで、出発はいつだ」

「明日の朝でも良いか?」

「明日の朝だと!」

「あぁ、今夜は国王達を送っていく必要があるから、明日しか無理だ」

「タクトよ、その事だが今回の騒動で、再度オーフェン帝国とで会談を行う為、帰国を二日延長した」


 ルーカスの言葉に、トレディアも頷く。

 そんな簡単に帰国を延長出来るのかと、疑問に思ったが俺が決めることではないので、深く追求はしなかった。


「どちらにしろ明日の朝、クラーケン討伐するのは問題無いよな」

「勿論だ。早速、関係の者達には連絡をしておく。ここからであれば、二日もあれば近くの港に着くだろう」


 そうだ。俺は【転移】と【飛行】を使い、クラーケンの場所まで行くつもりだったが、同行者が居るのであれば、そうはいかない。

 別の問題が発生した。例え飛行艇を使ったとしても、俺しか操縦出来ないので、俺が戦闘している間は飛行する事が出来ない。

 俺が考えていると、トレディアが話し掛けて来た。


「どうした。問題でもあったか?」

「あぁ、ちょっと……」


(御主人様)


 シロが主の俺に話し掛けて来た。


(飛行艇であれば、私が操縦しますので問題ありません)

(シロ、操縦出来るのか?)

(多分ですが、少し練習すれば問題ないかと思います)

(そうか、助かった。頼めるか)

(はい、勿論)


「クラーケン討伐には、飛行艇を使いたい。その方が早く到着出来る」


 トレディアは、ルーカスを見る。


「しかし、操縦は御主しか出来ぬのだろう」

「いや、シロが少しなら操縦可能だ」


 ルーカスは、シロの名を出すと納得した。


「ルーカス殿。そのシロという少女は何者ですか?」


 トレディアを含め、シロの情報が伝わっていないようだ。


「トレディア皇帝。ご挨拶が遅れて申し訳御座いません。私はエターナルキャットのシロと申します。こちらのタクト様の従者に御座います」


 シロがエターナルキャットだと分かると、トレディアや後ろの四獣曹達も驚きの声を上げる。


「トレディア殿。タクトはそこのシロ殿と、この場には居ないが、もうひとりパーガトリークロウのクロ殿もタクトの従者になる」


 トレディアは信じられない様子だ。


「お姉様は私より強い。それにお姉様に名を与えたタクトは、それ以上の存在と言う事になる。私が知る限りでは、人族最強になるだろう」


 フェンが、シロの偉大さを伝えるついでに、俺が強い事を話す。

 トレディアは、自分の息子であるスタリオンが、知らなかったとはいえ無謀な相手に戦いを挑んだ事を理解した。


「周りの街にも連絡しておいて欲しい。もしかしたら、高波等で被害が出るかもしれないからな」

「そうだな。承知した」


 そう言うと、トレディアは後ろにいた四人のうち一人を部屋の外に出した。


「それで、もうひとつの頼みとは何だ?」


 トレディアが、俺のもうひとつの頼みを聞いてくるが、クラーケン討伐後に話す事を伝えると、俺の意思を尊重してくれた。


「ルーカス殿。詳しい話は昼食後にでも致しましょう。そちらも色々と整理が必要かと思いますので」

「そうですな。では我らは一旦、部屋に戻らさせて頂きます」

「ルーカス殿。会食にはタクト殿も、同席願えるか?」

「承知致した」


 俺達は部屋を出ると、案内人が部屋の外で待っていた。

 俺を闘技場まで案内してくれた案内人だった。

 俺に恐怖しているのか俺を見ようとしない。

 まぁ、あの戦い方を見れば、仕方の無い事だろう。


 部屋まで案内される。

 俺は案内人に、昼食の用意が出来たら大臣に知らせるように伝えると「分かりました」と言い、去っていった。

 部屋で待機していたジャジーとメントラは、今までの詳しい事情を知らないので、慌てていた。

 とりあえず、ルーカス達が無事な事を伝えると安心していたが、ロキが居ない事に気が付き質問をすると、部屋は重い空気に包まれた。


「詳しい話をしたいので、悪いが大臣を残して、別の場所に少しだけ行くが良いか?」


 誰も俺に意見を言わなかった。

 ロキを失った事を悲しんでいるのだろう。

 俺はゾリアスに連絡をして、今から向かう事を伝える。


「それじゃあ、移動するから、集まってくれ」


 俺は皆を集めて【転移】で、ゴンド村に移動した。

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