第421話 間違った認識!

「……そうか」


 ロキの剣をルーカスの前に置き、ロキを殺した事をルーカスに告げる。

 ロキの死体は焼いた為、残っていないと嘘をつく。

 ルーカスは、残念そうな顔をする。

 イースやユキノは、涙ぐんでいる。


 ルーカスの隣に居るトレディアも、複雑な表情だった。

 騙している俺としては、申し訳ない気持ちで一杯だ。


 その後、魔人化の話をする。

 トレディアが、オーフェン帝国が責任を持って対処すると約束してくれた。

 内容についても、包み隠さずエルドラード王国に報告するので、出来る限り情報は共有したいと、協力を求めてきた。

 ルーカスは、断る理由がないので協力の申し出を受け入れる。


「魔人族について、少し話をしても良いか?」


 俺の発言に、ルーカスとトレディアが顔を見合わせて、ルーカスは「話してみよ」と言う。


 まず、魔人の定義から話をした。

 その後、今の魔人族が人族と変わらない事。

 逆に人族のせいで、差別を受けている事を伝える。

 俺の言葉に、フェンやシロも間違い無い事と、昔の事等も交えて話をしてくれた。


「だから、いまの魔人族は本当の意味で、魔人族では無いって事だ」

「……お主の事だから、嘘では無いと分かるが、そんな簡単に状況は変えられないぞ」

「変える変えないじゃなくて、正しい認識を持たないと駄目だという話だ」


 ルーカスの言いたい事も分かる。

 国が混乱するような事をしたくは無いのだろう。


「今迄、魔人が居ない平和な世の中だったから仕方が無い。しかし、これからはタクト様の言う通りにするべきだろう」

「……タクト様?」


 フェンが助言をしてくれたが、俺の事を様付けで呼んだ事にトレディアを含めて、その場に居た者達は違和感を感じていた。


「私の尊敬するお姉様の主であり、私を負かした方に様付けするのは当然よ」


 誇らしそうに言うが、フェンは皇帝よりも上下関係で言えば上になる。俺はその上だとなると面倒な事になるのが、目に見えている。


「フェン。俺の事はタクトでいい」

「そんな、お姉様の主を呼び捨てなんて」


 シロの視線に気が付いたフェンは、大人しくなる。


「まぁ、今後どうするかは国の偉い人達で決めてくれ。俺には関係ない」


 議題だけ言っておいて、議論は辞退するのは卑怯だ。

 しかし、国政に携わっていない俺には、これ以上の事が出来ないのも事実だ。

 ルーカスは俺の事が分かっているので、諦めていた。


「タクト殿」


 トレディアが、俺に話し掛けて来た。


「先程、フェン様からスタリオンとの戦いで、一戦目に不正を行ったと聞かされた。国を預かるものとして、申し訳ない」


 そう言うと、トレディアは立ち上がり俺に向かい頭を下げた。


「終わった事だ。気にしなくていい」

「そう言って貰うと助かる。それで、今回の騒動の褒美だが」

「要らない」


 トレディアが全て言い切る前に、褒美を拒否する発言をする。


「要らない?」

「あぁ、要らない。たまたま魔人化した者達が、その場に居ただけだ」


 俺の言葉に、エルドラード王国の者達は笑っている。


「トレディア殿。いつもの事ですので気になさるな。タクトは、こういう奴なのです」

「欲が無いのか?」

「欲はあるぞ。美味い物を食べて、堕落した生活が理想だ」


 そう言って、思い出した事がある。


「褒美と言うか、俺の我儘を二つ聞いて欲しい」

「なんだ?」


 俺は、一つ目にクラーケンの討伐許可を頼む。


「褒美が、クラーケン討伐許可だと!」


 トレディアは驚く。


「あぁ、俺は海の魚料理が食べたいが、クラーケンのせいで漁に出れないと、ピスカという港町で聞いた」

「確かに、クラーケンのせいで漁獲量は落ちている。国としても死活問題だが……」


 トレディアは複雑そうな顔をしていた。

 今迄、こんな無茶な報酬を望む者が居なかったのだろう。


「トレディア殿。タクトに任せても良いかと思いますぞ。信用出来る者なのは確かですし、討伐も間違いなく達成するでしょう」


 ルーカスがトレディアへ、俺が信用に値する人物だと言ってくれた。


「それに、先程の料理や、此処乗って来た飛行艇も全て、タクトの発案なのですぞ」

「なんですと!」


 ルーカスは言わなくて良い事まで、話し始めた。


「トレディア。タクト様いや、彼は水の上級精霊であるウンディーネ様からの加護もあるから、問題無い」

「水の上級精霊……」


 フェンが、本当に言わなくて良い事を言う。

 ルーカス達も驚いていた。

 しかし、ウンディーネを様付けで呼ぶのかと不思議に感じる。

 シロであれば、エターナルキャット様と呼んでいると考えれば、別に違和感は無い。

 しかし、人間族様と言われると違和感しか感じない。


「その……ウンディーネ様は呼べるのか?」

「あぁ、ちょっと待っていろ」


 俺は左手で『水精霊の証』である紋章を浮かべて、ウンディーネを呼ぶ。

 その瞬間に俺の隣にウンディーネのミズチが現れる。


「ウンディーネのミズチだ」


 俺はミズチを紹介する。

 ユキノ以外は、呆気に取られていた。


「ユキノ、久しぶり」

「はい、お久しぶりです」


 ミズチはユキノと会話を始めた。

 何故、呼んだ俺でなくユキノなのか不思議だった。

 ミズチが、ユキノと会話をしている状況も、事情を知らない者達からしたら不思議な光景だっただろう。

 ユキノとミズチが、世間話を少しした後に、俺の方を向く。


「それで、私を呼んだ理由は何?」

「オーフェン帝国の皇帝が呼べと言ったから、呼んだだけだ」

「なによそれ!」


 大した用事でも無いのに呼ばれた事が不満だったようだ。


「ミズチ様。オーフェン帝国を治めているトレディアと申します。お目に掛かれて光栄です」


 ミズチに向かい挨拶をする。

 その後、国の水事情について、話を始める。

 しかし、ミズチが俺の許可無しでは答えることが出来ないと言うので、許可を出す。


 年々水が汚くなり、環境が著しく変化する地域もあるので、何とかならないかと言う相談だった。

 話を聞いた俺に言わせれば、樹の伐採と鉱山から出た土等が原因だと分かった。

 ミズチも同様の事を言い、水を敬う気持ちが無いのであれば、今後もっと酷くなると忠告していた。


 トレディアにしてみれば、俺がミズチを呼べたことは、嬉しい誤算だったに違いない。

 自国の問題が解決出来る糸口が見つかって、良かっただろう。

 産業を発展させれば、環境破壊が起きる事は前世で知っている。

 気が付いた時には、戻れない所まで来ている事は、よくある話だ。


「ミズチの力は、海でも効果があるなのか?」

「海は不純物が多いから、嫌なのよね……基本的には、他の精霊に任せているわ」


 ……不純物って、塩の事か?


「そうか、ありがとうな」

「はいはい。又ね」


 ミズチは、姿を消した。

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