第417話 喜びから一転!

 俺に負けたフェンは、観客達に謝罪をした。

 しかし、あくまで負けたのは自分が弱いからで無く、俺が強かったと熱弁していた。

 殆どの観客達は、目の前で起きた出来事なので、フェンの言葉を素直に受け入れていた。


「フェン様!」


 観客の中から、フェンの話に異論を唱える者達三十人程が、俺と戦わせて欲しいと言って来た。

 フェンは勝てないと説得をするが、聞く耳を持たないらしく、俺に頼んできた。

 正直、オーフェン帝国の問題なので関係無いが、面倒臭いが相手をする。

 一度、【結界】を破壊して、その者達を俺が立っている戦う場所に来させた。

 ハンデとして、全員を一度に相手をする事と、右手中指だけで戦うと宣言する。

 挑戦者達は侮辱されたと思い、怒りながら俺に向かってくる。

 攻撃を避けながらデコピンをすると一撃で、挑戦者達は気を失う。

 俺は戦いながらも、この後にユキノへ正式にプロポーズする事で頭が一杯だった。


「おい。これ以上、茶番に付き合う必要は無いよな」

「はい」


 全員倒したので、終了した事をフェンに確認する。

 フェンは、俺のほうが強い事を認識したのか素直だった。

 オーフェン帝国は、強さが全ての国だから、素直に従ったのだろう。

 俺は大きく深呼吸をして、ルーカス達のほうを向く。


「国王!」


 俺はルーカスに向かい叫ぶ。


「ユキノ王女を、正式に妻としたい」


 いきなりの俺の言葉に、ルーカスは驚く。

 続けて、ユキノに向かい正式にプロポーズをする。


「ユキノ! 俺と結婚してくれ」

「はい!」


 大きな声で返事をしたかと思うと、観客席から俺に向かって飛んだ。

 ルーカスは勿論だが、誰もがユキノの行動に驚く。

 嬉しさの余り、頭のネジでも外れたのかも知れないが、俺はユキノを受け止める。

 シロが風属性魔法を使って、ユキノの落下補助をしてくれたので、受け止めた際の衝撃も無い。


「危ないだろう」

「一刻も早くタクト様の下に来たかったのです。それに、タクト様なら受け止めてくれると信じていましたから」

「……そうか」


 俺はユキノを一旦、遠ざけてユキノの前に膝をつく。

 何の事か分からないユキノは困惑しながら俺を見ていた。

 服から指輪を取り出して、ユキノに見せる。

 「結婚してくれ」ともう一度告げると、「はい」と笑顔で答えるユキノ。

 俺はユキノの手を取り、左手の薬指に指輪を嵌める。

 ユキノは、涙を流して喜んでくれていた。

 その瞬間、雨雲の切れ間から一筋の光が、俺とユキノだけを照らしてくれた。

 出来すぎた偶然に感じた。


 拍手の音が聞こえる。

 シロが、俺達への祝いの拍手をしてくれていた。

 その拍手につられるかのように、観客達も拍手をしてくれた。

 俺は、四方を向き頭を下げて、拍手の礼をする。

 ユキノも俺と同じように頭を下げてくれていた。

 ルーカスを見ると、泣いていた。


 拍手が徐々に減っていくが、いつまでも拍手している者が居た。

 俺は、その拍手の方向を見ると、拍手している者と目が合う。

 姿は違うが、その者がガルプツーだという事が何故か分かった。

 俺はガルプツーを睨みつける。


「いいですね。此処には、恨み辛みの負の感情が多い」


 不適な笑みを浮かべながら、俺に向かって勝手に話し始めた。


「特にあの鬼人。私が最終的に手を下すまでも無く、闇落ちしましたね」


 ガルプツーの目線の先を追い振り返ると、ルーカス達がいる特別席だ。

 カルアとターセルが、ロキに向かって何か言っている。

 闇落ちした鬼人は、ロキなのか?


「おい、ロキに何をした」

「何もしてませんよ。あの鬼人が持っていた王女への愛情を、少し利用させて貰っただけです」


 ガルプツーに話をしようとするが、背後に大きな音がしたので振り返ると、ロキが降り立っていた。

 身体は黒に近い灰色に変わり、腕や顔に紋章のような物が浮かび上がっていた。


「まぁ、負の感情を増幅させるように、毎晩囁いては魔素を少しずつですが、注入していましたがね」


 毎晩だと?

 確かにロキの行動する場所に、結界は張られていない。


「お前に、ユキノ様は渡さん!」


 まさしく、鬼の形相で俺を睨みつける。

 ガルプツーとロキを交互に見ながら、ユキノを守る。

 ユキノもロキの闇落ちに、驚いているようだった。


「貴方達も、強くなりたいんでしょう」


 ガルプツーは俺に挑んできた者達に向かい話すと、十数人がガルプツーの言葉に反応するかのように立ち上がり『黒い玉』を呑み込む。

 体が筋肉質になり、一回り大きくなる。

 爪や犬歯が伸びて、口から大量の唾液を垂れ流していた。


「やはり、種族ごとで変化に違いがありますね」


 ガルプツーが変化について、冷静に分析をしていた。


「最後に、これは私からのプレゼントです」


 そう言うと消えてロキの背後に現れる。

 何か物体を、ロキの背中に押し込む仕草をした。

 同時に、ロキが大声で叫び、体が変化していく。

 その変貌振りから、黒い玉の魔素が注入されたのは明らかだった。


「もう、この鬼人に理性は残っておりません。殺戮と破壊を繰り返すだけです」


 嬉しそうに話す。


「もう少し、此処に居たかったのですが、ガルプワンを呼ばれると面倒なので、国に戻らせて貰いましょう」

「待て!」


 俺が叫んだ時には、既に影の中へと消えていた。

 俺は【結界】を張り観客席に魔人が行かないようにする。

 シロにフェンと協力して、観客達を避難させるように頼む。


 カルアとターセルは、ルーカス達を警護している。

 トレディア達と一緒に、安全な場所まで避難するようだ。

 俺は【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外して【転移】をして、ユキノをルーカス達に預ける。


「タクト、ロキの事……苦しまないように御願いね」

「出来る限りの事はする」


 カルアは、ロキの変貌から元には戻れないと感じたのか、俺に殺すように頼んできた。

 それは、ターセルも同じ気持ちだろう。


「国王達は任せたからな」


 カルアは大きく頷く。


「タクト様、お気をつけて」


 ユキノが声を掛けてくれた。

 それだけで、今の俺には十分だ。


 俺は再度、ロキの所に移動する。

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