第418話 灰鬼人!

 オーフェン帝国の魔人化した者達は、俺に挑んできた他の者達を襲っていた。

 俺は、魔人化していない者達に、「死にたく無かったら、ここから動くな」と言うと大人しく、俺の指示に従い、その場から動かずに居た。

 怪我している者に【神の癒し】を施して【結界】を張る。


 これで、この空間で自由に動けるのは、魔人化した獣人達とロキに俺だ。

 ロキと魔人化した獣人達は、お互いが仲間だと認識しているのか、お互いを攻撃しない。

 あくまで標的は俺ひとりのようだ。


「ロキ。俺が分かるか?」


 ロキに話しかけてみるが、全く反応が無い。

 とりあえず、魔人化した獣人達に【神の癒し】を掛けて、体内から魔素を取り除く。

 その後、【結界】で動けないようにする。

 彼らは貴重な証人だから、殺す事はしない。

 もっとも、事情聴取された後はオーフェン帝国の法で裁かれるので、俺には分からない。


 全ての魔人化した獣人を元に戻して【結界】に閉じ込める。

 勿論、先の住人達とは別々にする。

 これで残りは、ロキだけだ。


 昇級試験の時とは違い、本気で襲い掛かってくる。

 剣技も素晴らしく、生き物のようにあらゆる角度から切り込まれる。

 この状態のロキは、やはり強かった。

 ただし、強いといっても目で追える速度なので問題は無い。

 なんだかんだで強くなっているのだが、自分が化け物に近付いていくのを痛感した。


 攻撃の合間を見ながら【結界】で動きを封じる。

 しかし、原因は不明だがロキに【結界】を破壊された。

 レベル差の問題なのか?


 仕方が無いので、背後に回り【神の癒し】を掛ける。

 魔素が取り除かれた為、身体が変化をして闇落ちの状態に戻る。

 しかし、ロキが攻撃を止める事は無かった。

 魔素と闇落ちは、関係性が無いのか?

 俺への嫉妬心が、引き金になっているのは間違いない。

 しかし、闇落ちであれば、負の感情とはいえ、意識が戻っている筈だ。


 魔素を取り除いたロキの攻撃は明らかに、弱くなっていた。

 やはり、強制的に身体能力を上げた状態とでは、比べ物にならない。

 攻撃を避けながら【全知全能】に、鬼人族の闇落ちについて質問をする。

 闇落ちとは、鬼人族特有の症状で、負の感情が大きくなると魔人へと変化する。

 皮膚の色が黒色に近い灰色に変化して、身体に紋章が浮かび上がったりする。

 闇落ちした鬼人は、その身体的特徴から『灰鬼人』と呼ばれる。

 魔素の量が一時的に増えるが、身体的能力は闇落ちする前と同じだ。

 特徴として、闇落ちした瞬間は負の感情に支配されてしまい、意識はあるが自分の意思とは別に勝手に行動してしまうそうだ。

 その後、時間と共に意識が戻るが、その間の出来事も覚えている。

 これが、鬼人族が、魔人族になる『闇落ち』という現象になる。

 ただし、闇落ちしたとはいえ、罪の意識等に耐え切れずに自ら命を絶つ者も多いらしい。

 

 俺は、魔素を取り除いても元に戻らないのかを確認すると、強制的に魔人になった場合と違い、鬼人族の場合は、負の感情が引き金になる為、一時的に魔素が無くなっても戻る事は無いそうだ。


 しかし、ロキほどの男が闇落ちするとは……やはりガルプツーがした行為の影響が大きいのだろう。


 俺は、攻撃を避けながらもロキに話し掛ける。

 しかし、一向にロキから返事が無い。

 まだ、意識が戻らないようだ。


 しかし、オーフェン帝国側の『四獣曹』とやらは、助けに来たり観客を誘導したりしないのか?

 皇帝であるトレディアの護衛のみと言う事なのだろうか?


 ロキの攻撃を避け続けて、既に一時間は経っている。

 その間も、ロキに話し続けているが、言葉が返って来る事は無かった。


「御主人様」


 観客達を誘導していたシロが戻って来た。


「そっちは終わったのか?」

「はい。今は、フェンが闘技場の外で、怪我人等の対応中です」

「そうか、シロ悪いが、ルーカス達と連絡を取って、そこにいる者達を避難させてくれ」

「分かりました」

「そっちの奴は、魔人化した奴だから別々にしてくれ」

「はい」


 シロは、そう言うと姿を消した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シロが俺の指示に従い、数人の者を引き連れて戻って来た。

 オーフェン帝国の獣人達を、闘技場から避難させる。

 【結界】を解こうとすると、シロが「大丈夫です」と言い、シロが【結界】を解いた。

 もしかしたら、破壊なのかも知れないが俺には分からなかった。


 それから更に、一時間以上は経った。

 闘技場には、俺とロキしか居ない。

 ロキは、一心不乱に俺を攻撃している。

 俺はもう一度、ロキが闇落ちをした原因を確認する。

 ユキノを奪った俺への嫉妬心なのは確実だ。

 しかし、本当にそれだけなのか?

 ロキとの会話を思い出してみる……。


 最初に、ユキノが俺への気持ちに気が付いたのが、ロキだった。

 確か、幸せに出来るかや、国王になる覚悟だの変な事を言っていたので、印象に残っていた。

 長年ユキノを世話してきたロキだからこそ、ユキノへの思い入れもあったのだろう。

 俺がユキノを幸せにする事を告げていない事が、原因かもしれない。

 とりあえず、思いついた事を話し掛ける事にする。


「ユキノは、俺が貰った」


 この言葉に、ロキの動きが一瞬だが止まった。

 しかし、すぐに攻撃を再開する。

 本当に意識が戻っていないのかも、疑問に感じたので攻撃をして気絶をさせてみる事にする。


 鳩尾を殴り、頭が下がった所をそのまま、顔ごと地面に叩きつける。

 しかし、すぐに起き上がり俺への攻撃を始めた。

 体力も残っていないのか、フラフラになりながらも攻撃を止めない。


「ロキ。もう演技しなくていいぞ」


 俺は、ロキに語りかけた。

 起き上がる時にロキが独り言のように「そうだ」と言ったのを聞き漏らさなかった。

 何時からか分からないが、意識が戻っていたが自分の犯した事に気が付き、俺に殺される事を望んだのだろう。

 真面目な性格のロキであれば、十分に考えられる。


「演技などしていない!」


 疲れて思考が回っていないのか、俺の言葉に返事をした事自体、意識が戻っている証拠だ。


「ユキノは俺が、幸せにする」


 ロキの目を見ながら、改めて宣言をする。

 ロキの動きが止まる。


「なんで、お前なんだ。俺はお前よりも、ユキノ様に長く仕えてきた」

「あぁ、そうだな」

「ユキノ様を御守りする事だけが、俺の生きがいだった。それを……」

「ユキノに惚れていたのか?」

「それは断じて違う。あの方に幸せになってもらいたいだけだ」

「俺では、ユキノを幸せに出来ないと判断したのか?」

「御前は、危険な事に首を突っ込みすぎる。お前に万が一の事があった場合、ユキノ様が悲しむのは分かり切っている」

「そうだな。しかし、その事もユキノには話をしている」


 内容は違うが、ユニークスキル習得による突然死の方が、危険度が高い。

 俺の言葉を聞いたロキは下を向いていた。

 暫くするとロキは顔を上げて、俺を見る。


「ユキノ様を必ず幸せにしろ」

「あぁ、約束する」


 ロキは目を閉じると持っていた剣で、自分の首を跳ねようとした。

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