第416話 卑怯な妖精猫!
俺の勝利が確定したので、スタリオンへの攻撃を止める。
空中にいたスタリオンは、そのまま地面に激突した。
フェンの指示で、スタリオンは治療をする為に運ばれて、闘技場から姿を消した。
「オーフェン帝国も、大した事ないな」
不正をしようとしていたフェンに対して、嫌味を言う。
「うるさい。このままで終わると思うな!」
明らかに、怪しい雰囲気だ。
「皆の者、聞け! スタリオンに勝利したこの者は、愚かにも私に挑戦をして来た。不本意だが、挑戦されたからには逃げる訳にはいかない。例え、命を落とす事になったしても、私はこの挑戦を受ける事にする」
フェンの言葉に、観客達は声援を上げる。
成程、そう来たか。実力的に、人間族が妖精族に劣るのは、常識的な事だ。
俺が挑戦した事にして、スタリオンの仇を討ち、国民の士気を高めるつもりなのだろう。
そこまでして、オーフェン帝国の負けを認めるのが嫌なのか。
「お前は、五体満足で帰す事はしないからな」
そう俺に向かって語るフェンの顔は、妖精と言うよりも悪霊に近い顔をしていた。
「仕方ないな。それは、お前も同じ条件だという事だよな」
俺は、フェンを挑発する。
ここまで理不尽な事をされるのであれば、温厚な俺でも流石に頭にくる。
(御主人様。お待ち下さい)
シロが俺に話し掛けると同時に、俺の前に人型の姿で現れる。
いきなり、俺の前に少女が現れた事で観客席が、どよめく。
「お、お姉様!」
フェンがシロに向かい、話し掛ける。
その表情は先程までと違い、恋する乙女のようだ。
「どうしたんだ、シロ?」
「いえ、今回の件、目に余る出来事でしたので……」
俺がシロと話をすると、フェンが物凄い形相をして俺を睨みつける。
「おい、人間族。この方は、お前が話して良い御方では無いのだぞ。その行い、万死に値する」
「貴女こそ、失礼極まりありません。この方は、私の主です。それ以上、我が主を愚弄する事は、私が許しません」
今迄に見たことの無いくらい、シロは怒っていた。
「えっ!、お姉様の主って……」
「そのままの意味です。私はタクト様より名を頂き、仕えております」
「お姉様に、名を与えた」
フェンは信じられない様子だ。
「御主人様は、今の戦いでも実力の一部も見せておりません。御主人様が本気になれば、この国は一瞬で滅びます。貴女はその覚悟で、御主人様に戦いを挑んだのですよね」
シロの真剣な口調で、それが事実だとフェンは分かったようだ。
「国どころか、貴女の存在自体が無くす事も可能です」
「私は妖精族ですよ。そう簡単に消える事が無いのは、お姉様だってご存知ですよね」
シロの言葉を疑うかのように、フェンは早口で話す。
「御主人様。申し訳ありませんが、紋章を見せて頂けますか」
「分かった」
俺は
「……そんな」
どうやら、精霊族以外でも見える種族がいるようだ。
妖精族よりも精霊族の方が、この世界では位が高い。
「どちらにしろ、先程の会話も含めて、正式に御主人様に戦いを挑んだのであれば、死ぬ覚悟は出来ているということですね」
「いえ、それは……」
「貴女が勝手に勝負を挑んで、今更無かった事には出来ませんよね。この国が滅ぶのは、貴女のせいですね」
シロが攻撃的な話し方で、フェンを責める。
「さぁ、始めて下さい。私も観客席から、観戦させて貰います」
シロに言われて、フェンは自分がした事が、どれ程の大変な事かを理解した。
「おい、さっさと始めるぞ。五体満足で帰さなくても良いんだから、俺も好き放題に攻撃させて貰う」
俺もシロに便乗するように、フェンに向かい攻撃的な話し方をする。
フェンは、完全に戦意喪失をしていた。
しかし、観客席からはフェンを応援する声があがっている。
「シロ。ルーカス達の所で待っていてくれ」
「はい。御主人様」
ルーカスにシロを、そっちに向かわせる事を【念話】で伝えて、了承を貰う。
俺は戦闘開始の場所に待機をして、フェンが攻撃してくるのを待つ事にする。
しかし、フェンは全く攻撃をしてこない。
この異常事態に、観客達も気付き始める。
仕方が無いので、俺は指で見えている山を指す。
観客達は俺が何を指しているか分かっていない。
【火球】を最大威力にして、山に向かい撃ち込む。
最大威力にした所で【火球】の大きさは変わらない。
【火球】が撃ち込まれると、大きな音と地響きが起こり、山の頂上が崩れて形を変えた。
観客席は静まり返る。
フェンも言葉を失っていた。
「おい。そっちから来ないなら俺から攻撃するぞ」
フェンに向かい攻撃態勢を取り、一歩足を出す。
「……すいませんでした」
小さな声で謝罪をする。
しかし、聞こえないふりをして、向かっていく。
フェンは俺から距離を取ると、観客に向かい叫んだ。
「これ以上の戦いは、観戦している皆に危害が及ぶ。よって不本意だが、一旦勝負は持ち越すことにする」
完全に詭弁だ。
俺がもっとも嫌いなタイプだ。シロが苦手だというのも理解出来た。
「安心しろ! エルドラード王国のカルアが【結界】を張ったから観客席に攻撃がいくことは無い」
俺は戦う場所のみ【結界】を張り、それをカルアがした事にした。
試しに観客席に、【火球】を撃ち込むが、観客に危害は無い。
「これで、観客を気にせず、思う存分に戦えるよな」
俺はフェンを睨みつけた。
完全に逃げ場を失ったフェンだが、なんとか逃げ切れる方法を考えているようだった。
俺は一瞬でフェンとの距離を縮めて、殴り飛ばす。
すぐに移動をして、スタリオンの時と同じように、ひたすら殴り続けた。
一番近い観客は、飛び散る血飛沫を見て、悲鳴をあげていた。
しかし、フェンは降参をしていない。
俺は、容赦なくフェンを殴りつける。
両手両足は折れて、曲がる筈の無い方向を向いている。
顔は腫上がり、目は塞がっているので、俺の姿は既に見えていないだろう。
「そこまでだ!」
観戦席から、ルーカスが叫んだ。
俺はその言葉で、殴るのを止める。
「トレディア殿も構いませんな」
「……仕方ない」
トレディアは立ち上がり、俺の勝利を宣言した。
スタリオンに続き、帝国の象徴でもあったフェンまでもが一方的にやられた事実を、観客達は認める事が出来ないでいた。
俺はボロボロのフェンを掴み、闘技場の中央まで引き擦る。
観客達は、俺が更に酷い事をするのだと思っている。
しかし、実力差を見せ付けられた為か、入場の時のようなブーイングは起きなかった。
俺はフェンに【神の癒し】を施す。
すぐに、フェンは意識を取り戻して、自分が負けた事を理解した。
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